脳科学が示す新常識「何もしない時間」は重要だった|『集中していない=学べない』とは限らない!?(ヨガジャーナルオンライン)
気づけばスマホを開いて、SNSをチェック。空いた時間にはYouTubeや動画を見て……。私たちの毎日は、“スクリーンタイム”で埋め尽くされている。しかし、実は、その埋め尽くしている隙間の時間を「なにもしない」で過ごすことこそ、脳にとっては大きな意味があるのだという。いま、そんな研究結果が注目を集めている。 <写真>脳科学が示す新常識「何もしない時間」は重要だった|『集中していない=学べない』とは限らない!? ■実は1日の半分、脳は「ぼーっと」している? これまで、「ぼーっとする=ムダ」と思われてきた。でも、過去の研究によると、人間の脳はなんと1日のうち、30〜50%の時間を“マインドワンダリング(心の迷走)に使っているという。つまり、私たちの脳は想像以上に“何かを考えずに漂っている”のが普通だったのだ。意外なことに、この“迷走タイム”が、脳の働きに良い影響を与えている可能性があるというのだ。 ■意識していなくても、脳は「裏で」学んでいた アメリカの研究機関、ジャネリア・リサーチキャンパスのチームは、マウスを自由に探索させる実験を実施した。報酬もトレーニングも与えなかったにもかかわらず、視覚をつかさどる脳の領域に変化が起きていたという。「ただ歩いていただけの状態でも、脳は環境から学び、次の行動に備えていた」と語るのは、神経科学者のマリウス・パキタリウ博士だ。この“無意識の学習”によって、自由に過ごしたマウスの方が、後に出された課題に素早く適応できたという。 ■集中しないからこその「学習ブースト効果」 同じような効果は、人間にも見られた。ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の研究チームが行った実験では、20代の若者27人を対象に、「集中しないで課題に取り組んだグループ」の方が、学習の初期段階で高いパフォーマンスを発揮したという。しかも、脳波を測定したところ、脳の一部が“睡眠に近い状態”になっていたことが判明。これは「ウェイクフル・レスト(覚醒中の休息)」と呼ばれる現象で、脳が静かに情報を処理し、記憶を統合している可能性を示している。 ■「集中=学習」という思い込みを手放そう これらの結果から、研究者たちは「集中していない=学べていない」という従来の考え方を見直すべきだと指摘している。心理学者のキャロライン・フェンケル博士は、「たとえ集中できていなくても、脳が静かに学んでいる可能性は十分にある。この発見は、ADHDや過去のトラウマによって注意が続かない人たちにとって、大きな希望になる」とコメントしている。 ■日常に取り入れたい「ぼーっとタイム」 研究者たちは、次のような日常のちょっとしたすき間時間こそ、脳が自然と学び始めると指摘している。 朝、コーヒーを飲む時間 通勤・通学の移動中 お風呂に浸かっている間 夜、寝る前のまどろみタイム こうした時間にスマホを見続けるのではなく、あえて“思考を手放す”ことで、脳が情報を整理し始める可能性がある。研究はまだ進行中だが、少なくとも言えるのは、「集中できない自分」を責めるのではなく、「脳が静かに学んでいる時間」だと考える方が、ずっと建設的だということだ。もしかすると、あなたが何もしていないように見える時間こそが、脳を賢くしているのかもしれない。 出典: What a Wandering Mind Learns Letting your mind wander could help you learn
山口華恵