30年債入札で財務省に一段の圧力、超長期債発行減額に市場の視線集中
5日に行われた30年利付国債入札は、財務省に対して7月以降の超長期債の発行計画の見直しを強く迫る結果となった。発行減額への期待感を背景に入札後の債券相場は上昇し、市場の視線は20日に予定される国債市場特別参加者会合(PD懇)での財務省の姿勢に集まっている。
30年債入札は投資家需要の強弱を反映する応札倍率が2.92倍と2023年12月以来の低水準となり、最低落札価格も市場予想を下回るなど低調だった。しかし、超長期債を中心に利回りは入札後に低下(相場は上昇)した。超長期債の発行減額への期待が市場で織り込まれたほか、4日の米国債が経済指標の不振を受けて急騰したことが支援材料になった。
りそなアセットマネジメントの藤原貴志チーフファンドマネジャーは、財務省の超長期債発行減額に前向きな姿勢が相場を支える「プットのように作用し、30年債の買い安心感につながった」と指摘。次の関門である24日の20年債入札も発行減額期待やショートカバー(買い戻し)を通じて「乗り切れるのではないか」と期待する。
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各国の財政赤字拡大への懸念を背景に、世界的に金利上昇が目立っている。日本では超長期国債の利回りが5月に過去最高水準に達し、入札も低調な結果が続いている。日本銀行が国債買い入れの縮小に動く中、財務省には国債市場の安定に向けた対応が求められている。
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今回の30年債入札は結果的に大きな波乱なく通過したが、超長期債の足元の安定はあくまで財務省の対応を前提とする期待に支えられたものだ。20日のPD懇で財務省が示す超長期債の発行方針が需給バランスと相場の先行きを左右する重要な材料となる。
外国人投資家
30年債入札では最大の落札がクレディ・アグリコル証券だったことも市場の注目を集めている。大和証券の川原竜馬シニアストラテジストは6日のリポートで「欧州系投資家の関与が推測され、国内生保保険の買い手不在が続く中、海外勢が最低限の需要を支える構図が改めて確認された」と指摘。日本の超長期債市場における投資家構成の「構造的変化を象徴している」と記した。
財務省の統計で5月25-31日の対内証券投資(中長期債)は1兆1654億円の買い越しだった。買い越しは5週間ぶり。外国人投資家は4月に大きく買い越したが、5月は売りが先行していた。東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジストは「外国人投資家が息を吹き返しており、超長期債相場の風向きも変わった」と指摘する。
日銀会合とPD懇
日銀は16、17日に開く金融政策決定会合で、現在進めている国債買い入れ減額計画の中間評価を行う。日銀が5月に開いた債券市場参加者会合では「買い入れ減額をより緩やかなペースに変更すべき」という声が出た一方で、市場機能を早期に改善するため「減額を早めるべき」との声や「現状計画を維持すべき」など、多様な意見が聞かれた。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは6日のリポートで、最近の植田和男総裁の発言を踏まえると、四半期に4000億円ずつ買い入れを減額する「現在の方針が維持される可能性が高いだろう」と予想する。
こうした中、市場の関心はPD懇に集中している。財務省は7月以降の超長期債の発行減額の方向性を示すとみられている。りそなアセットの藤原氏は「市場としては、できれば4500億円程度の減額が望ましいと考えており、期待外れに終われば、7月以降に再び売り圧力が強まる可能性がある」と指摘する。
ロールオーバーリスク
一方、超長期債の発行減額は年限構成の短期化につながり、政府の資金調達コストを引き上げる可能性もある。超長期債を抑制し、短中期債に偏った供給構成が続けば、将来の金利上昇局面で借り換えコストが増大する「ロールオーバーリスク」が高まる。
サクソ・マーケッツのチーフ投資ストラテジスト、チャル・チャナナ氏は「長期投資家の需要が構造的に減少しており、明確な供給調整がなければ超長期金利が再び上昇する可能性がある」と分析。その上で「年限の短期化が進み過ぎれば、財政の金利感応度が高まり、金利変動への耐性が弱まることも考慮すべきだ」と語る。
明治安田アセットマネジメントの大﨑秀一シニア・ポートフォリオ・マネジャーは「金利とボラティリティー(価格変動性)のある環境では、発行計画を年単位で固定せず、米国のように四半期ごとの柔軟な見直し制度が求められる」と指摘している。