イランのミサイル・無人航空機が米軍を狙うかのようにシリア北・東部に飛来:米国の攻撃承認に抗うイラン(青山弘之)
イスラエルがイランの核関連施設や軍要人を狙った先制攻撃を行い、両国の戦闘が激化してから1週間が経った6月19日、シリア上空でのミサイルや無人航空機による攻防戦の主戦場と当時者に変化の兆しが見えた。
この変化は、ドナルド・トランプ米大統領がイランに対する攻撃計画を承認し、同国への圧力を強めていることと連動しているようにも見える。
続くイスラエルとイランの攻防戦
6月19日、シリア領空ではイスラエルを標的としたイランのミサイルや無人航空機による攻撃と、それに対するイスラエル軍の防空システムによる迎撃が継続された。
国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、ダルアー県のダルアー市とヤードゥーダ村の間の地域、サフム・ジャウラーン村、タファス市、アジャミー村、ジッリーン村、ヤルムーク郊外のマフタラ地区などで、イランとイスラエルの戦闘によって破壊された無人航空機やミサイルの残骸が確認された。
また、英国を拠点とするシリア人権監視団によれば、クナイトラ県でもイスラエル軍がイランから飛来した無人航空機やミサイルを迎撃し、ナブア・サフル村、アイン・ティーナ村、スワイサ村などで複数回の爆発が確認された。さらに、ガディール・ブスターン村上空で無人航空機1機が撃墜された。スワイダー県でも、サニーム・ハッフ地区にミサイルが落下して激しい爆発が起き、マジュダル村では無人航空機1機が墜落した。
これと並行して、イスラエル軍は車輌3台、兵士15人からなる地上部隊をクナイトラ県ジュバーター・ハシャブ村に侵入させ、村の入口に検問所を設置した。
SANA、2025年6月19日米軍が駐留するシリア北・東部への戦火の飛び火
こうしたなか、米軍および同軍が主導する有志連合(「固有の決意」作戦合同任務部隊(CJTF-OIR))が各所に基地を置き、部隊を駐留させているシリア北部および東部でも、同様の攻防が確認された。
シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル県では、有志連合の部隊がシャンナーン村近郊の砂漠上空に飛来したイラン発と見られるミサイル1発を迎撃、同ミサイルは民家の近くに落下した。また、有志連合はタヤーナ村近郊の砂漠上空に侵入したイラン所属とみられる無人航空機1機を撃墜した。さらに、県東部のフライティム地区でも同様の無人航空機1機が飛来し、撃破された。
ハサカ県では、トルコ国境に接するアームーダー市上空にイランのものと見られる無人航空機1機が飛来するのが目撃された。
こうした緊張の高まりに対処しようとするかのように、重火器や対空装備を積んだ貨物車輛28台からなる有志連合の車列が、イラク(イラク・クルディスタン地域)からワリード(スワイディーヤ)国境通行所を経てシリアに進入し、カスラク村の基地に向かった。
シリア駐留米軍の再編
米国は、ショーン・パーネル国防総省報道官が4月18日の声明で、シリア駐留米軍を有志連合の指揮下に再編し、その規模を1,000人未満に縮小すると発表していた。
この発表を受けて、ダイル・ザウル県のCONOCOガス田やウマル油田に設置されていた基地、および周辺拠点から部隊が撤退し、ハサカ県に再展開、ユーフラテス川東岸を実効支配するクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導するシリア民主軍(SDF)がこれに代わってダイル・ザウル県を守備するために展開したと報じられている。
イスラエルの攻撃およびトランプ政権による圧力に対して、イランは表向きには徹底抗戦の姿勢を示している。こうした状況は、2023年10月にハマースが開始した「アクサーの大洪水」作戦に端を発するイスラエルの攻勢時にも見られた。
この時は、「抵抗枢軸」、あるいは「イランの民兵」と称されるレバノンのヒズブッラー(レバノン・イスラーム抵抗運動)、イラクの人民動員隊の急進派からなるとされるイラク・イスラーム抵抗運動、イエメンのアンサール・アッラー(フーシー派)などが、イランの代理(プロキシ)勢力としてイスラエルに対峙し、シリアや紅海で米国の軍事拠点や権益を標的とした攻撃を行っていた。
しかし、今回の戦闘激化では、2024年半ばにヒズブッラーがイスラエルの攻撃により大打撃を受け、同年末にはイラク・イスラーム抵抗に対イスラエル攻撃の拠点を提供してきたシリアのバッシャール・アサド政権が崩壊したことも影響し、「抵抗枢軸」の活動は低調となっている。
シリア領内の米軍(有志連合)を狙ったかのようなイランのミサイルや無人航空機の飛来は、「抵抗枢軸」の弱体化に伴い、イラン自身が最終防衛線を構築し、イスラエルだけでなく米国とも直接対峙せざるを得ない苦境に追い込まれていることを示していると言えよう。
1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。NPO法人シリアの友ネットワーク(シリとも https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)理事。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。