スカイダイバーのパラシュートが尾翼に絡まる、上空4600メートル 豪
パラシュートが尾翼に絡まる、上空4600メートルで窮地に
(CNN) オーストラリア運輸安全局(ATSB)が11日に公開した動画には、身の毛のよだつ瞬間が映っていた。スカイダイビングを行おうとするダイバーが空中に飛び出す際、パラシュートが飛行機の尾翼に引っ掛かるという内容だ。
この事案は9月に発生。動画と共に公開されたATSBの報告書によると、「P1」と記された当該のスカイダイバーは、フックナイフと呼ばれる特殊な道具を使ってパラシュートを解き、軽傷で着陸した。
ATSBのアンガス・ミッチェル委員長は、同局のプレスリリースで、「フックナイフの携帯は規制上の義務ではないが、非常用パラシュートが想定より早く展開した場合に人命を救う可能性がある」と述べた。
ATSBの報告書によると、この時スカイダイバーは他の16人のダイバーとともにクイーンズランド州上空約4600メートルを飛行していた。当該のスカイダイバーが飛行機から飛び降りようとした際、非常用の予備パラシュートのハンドルが「翼のフラップに引っ掛かり、回転した」という。
報告書によると、パラシュートは即座に展開。スカイダイバーを後方に引きずり、隣にいた仲間のダイバーを「自由落下」させたという。
オレンジ色のパラシュートは機体の尾部に絡まり、「P1はその後、水平尾翼の下に吊(つ)り下げられた」と報告書は続けている。
ミッチェル氏はATSBのプレスリリースで、「パイロットは機体が突然機首を上げ、対気速度が急速に低下するのを感じたと振り返っている」と述べた。
ミッチェル氏によればパイロットは当初、機体が失速したと思った。その後「水平尾翼にスカイダイバーが引っ掛かっていると伝えられ、再び出力を落とした」という。
墜落を恐れたパイロットは、機体の完全な制御を取り戻すために懸命に努力した。搭乗していた乗組員の1人が他のスカイダイバーに安全のため脱出するよう指示し、13人が降下した。残りの2人は、尾翼に引っ掛かったスカイダイバーがパラシュートを解くのを見守った。
一方、引っ掛かったスカイダイバーは、フックナイフで非常用パラシュートのラインを切断し始めた。報告書によると、11本のラインを切断するのに1分弱かかり、ダイバーは後にATSBの調査官に対し、予想以上に「難しかった」と語った。
機内に残っていたスカイダイバーが安全のために飛び降りた後、パイロットは「肩越しに振り返り、パラシュートの残骸が尾翼を包んでいるのを見た。水平尾翼の前縁が損傷していたという」と、報告書は続ける。
報告書によると、無線で援助を求めながらパイロットは自身のパラシュートを装着。管制官に対し、「尾翼が外れた場合」に機体から「脱出」する用意があると伝えた。
脱出の必要はなかった。報告書によれば、パイロットはクイーンズランド州のタリー空港に無事着陸できた。ただ水平尾翼には、スカイダイバーの脚がぶつかったことによる「重大な損傷」が生じていたという。
今回のスカイダイビングを企画したファー・ノース・フリーフォール・クラブは、CNNからの質問を豪パラシュート連盟のスティーブン・ポーター最高経営責任者(CEO)に届けた。CNNはポーター氏にコメントを求めている。
世界チャンピオンのスカイダイバー、ダン・ブロツキーチェンフェルド氏は11日、CNNの取材に答え、過去にも同様の事態が起きたと聞いたことはあるとしつつ、実際にダイビングの前にパラシュートが飛行機に絡まるのを見たことはないと語った。
ブロツキーチェンフェルド氏によると、今回のケースが特殊なのは、メインパラシュートではなく、予備のパラシュートが展開されたことだ。通常は特別なリリースシステムを使ってパラシュートを「切り離す」が、予備のパラシュートではそれができない。
「予備のパラシュートを切り離すことはできず、そのまま残る。唯一の選択肢はフックナイフを使ってラインを切断し、自分の体を解放することだ」(ブロツキーチェンフェルド氏)
今回の事案の主任調査官であるサラ・フィーン氏は、ATSBが動画投稿サイト、ユーチューブに投稿した動画の中で、フックナイフがこのような事態において「救命」装置になり得ることを改めて強調した。
報告書によると、前出のファー・ノース・フリーフォール・クラブはダイバーにフックナイフの携帯を義務付けた。今後は訓練セミナーで当該の事案の映像も紹介する予定だという。