たった3時間の睡眠で健康を保てる「ショートスリーパー」の遺伝子が判明
人は最低でも7時間は寝ないと健康を保てないと言われていますが、毎日7時間も寝ると自由時間がほとんどなくなるので、充実した生活と十分な睡眠時間のバランスをとることは至難の業です。忙しい現代人にとってはうらやましいことに、1日3~6時間程度の睡眠でも問題ない人もいますが、そのような体質にはある遺伝子の変異が関係していることがわかりました。
The SIK3-N783Y mutation is associated with the human natural short sleep trait | PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2500356122Don’t need much sleep? Mutation linked to thriving with little rest
https://www.nature.com/articles/d41586-025-01402-7Natural short sleepers have a genetic mutation, finds new study
https://medicalxpress.com/news/2025-05-natural-short-sleepers-genetic-mutation.htmlRare genetic mutation lets some people thrive on just 4 hours of shut-eye | Live Science
https://www.livescience.com/health/sleep/rare-genetic-mutation-lets-some-people-thrive-on-just-4-hours-of-shut-eye長年睡眠の研究をしているカリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経科学者のイング・フイ・フー氏は2000年代に、「毎晩6時間しか眠れなくて困っている」という女性とその娘から相談を受けました。そこで、フー氏が親子のゲノムを解説したところ、人間の体内時計である概日リズムを調節する遺伝子に、稀な変異があることがわかりました。
それ以来、フー氏を始めとする研究者たちは、「DEC2」「ADRB1」「NPSR1」「GRM1」の4つの遺伝子で「自然な短時間睡眠(NSS)」に関する変異を5つ特定しています。ほとんどの人は、1日に7~9時間の睡眠をとらなければなりませんが、このような生まれつき睡眠時間が短い遺伝子変異を持っている「ショートスリーパー」の人々は、3~6時間と半分程度の睡眠時間でも健康的に過ごすことが可能で、普通の人と同じくらい寝ようとするとかえって体調を崩してしまうことさえあるといわれています。 睡眠の調節に関する遺伝子変異の役割をさらに深く理解するため、フー氏らのチームは新しい研究で、健康で活動的な生活を送っている70代のボランティアを募集し、面談と手首に装着するセンサーを使用して、応募してきたショートスリーパーの女性の睡眠パターンを収集しました。
その結果、手首式アクティブブラフィーの記録から、女性は平均して1日6.3時間しか眠っていないことが確かめられました。これは女性が自己申告した1日3時間の倍ですが、それでも普通の人に必要な睡眠量に比べると短時間です。
研究チームは次に、女性のDNAサンプルを採取してゲノムを解析しました。その結果、代謝や睡眠の制御に関連する酵素「塩誘導性キナーゼ(SIK3)」の遺伝子にある変異「SIK3-N783Y」が見つかりました。興味深いことに、過去に日本の研究チームがマウスに異常な眠気を引き起こすSIK3遺伝子の別の変異を発見しています。 さらに、研究チームが動物モデルでこの遺伝子変異について調べたところ、「SIK3-N783Y」の変異を持つ遺伝子組み換えマウスは標準的な睡眠時間が約31分く、睡眠不足になると最大約54分短縮されることがわかりました。これにより、「SIK3-N783Y」が実際に短時間睡眠と関連していることが確認されました。
マウスは基本的に1日12時間寝ることを考えると、1時間しか睡眠時間が減らなかったのは、人間のショートスリーパーの自然な短時間睡眠(NSS)に比べて変化が少ないと言えます。このことは、SIK3遺伝子の変異が睡眠必要量の減少の主な原因ではない可能性を示唆していると、専門家は考えています。 新たに特定された遺伝子変異「SIK3-N783Y」は、研究者が睡眠時間の短縮と関連付けている複数の変異のひとつです。このようなNSSに関する遺伝子について解明することで、睡眠障害に対するより良い治療法の開発につながることが期待されています。
研究チームは、米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表した今回の論文に、「これらの知見は、睡眠の遺伝学的基盤に関する理解を深め、睡眠効率を高めるための潜在的な治療戦略へのさらなる助けとなります」と記しました。