親も私も片づけが苦手で娘にも連鎖の危機 モノをどんどん手放したら、自分も家族も変わり始めた

何があるのか把握できていなかった納戸/ビフォー

 5000件に及ぶ片づけ相談の経験と心理学をもとに作り上げたオリジナルメソッドで、汚部屋に悩む女性たちの「片づけの習慣化」をサポートする西崎彩智(にしざき・さち)さん。募集のたびに満員御礼の講座「家庭力アッププロジェクト®」を主宰する彼女が、片づけられない女性たちのヨモヤマ話や奮闘記を交えながら、リバウンドしない片づけの考え方をお伝えします。

*   *   *

■case.102 後回しにしていたのは“片づけ”と“自分の気持ち” 夫・子ども2人/英語コーチ

 人は、育ってきた環境の影響を大きく受けます。片づけが苦手な人に、ご自身の親の片づけについて質問すると、「親は片づけが得意で、家の中はいつもきれい」と言う人がいます。それとはまったく逆で、「親は片づけが苦手で、家の中はいつも散らかっている」と言う人もいます。

「親のタイプが違うのになぜ?」と思うかもしれません。

 前者は「片づける必要がなかった」という環境で、後者は「“片づけ”という家事があまり生活の中になかった」という環境です。つまり、両者に共通しているのは、「自分自身で片づけを意識する機会がなかった」ということ。

 自分がやってこなかったことは、やり方がわかりません。ある程度大きくなってからやろうとすると「難しい」「苦手」という意識を抱いてしまうのです。

「そもそもうちの親も片づけが苦手なんです。教わってこなかったから、私もできない。で、子どもたちも片づけられなくてどうしたらいいんだろう、と悩んでいました」

 こう話すのは、夫と2人の娘と暮らす直子さん。ある日、4月から高校に進学した次女から学校生活について聞いたことがきっかけでした。

「話を聞いてみると、宿題や定期テストの勉強もあまり計画的に考えられていないな、と感じました。私がちゃんと教えてあげられなかったというのもあるかな、と……」

 直子さんは、自宅からオンラインで仕事をしています。土日や昼夜を問わず働いているので、片づけを教えてあげる時間がありませんでした。

一目で奥まで見渡せて使いやすくなりました/アフター

「長女の時は違う働き方をしていたので、一緒に片づけたりする時間があったんです。でも、私自身も片づけは苦手な上に、次女のときにはそういう時間もなくなってしまいました」

 気づけば、娘たちは食べたお菓子の袋をテーブルに置きっぱなし、使ったモノは出しっぱなし。片づけが得意な夫が見かねたタイミングで片づけてくれる、という生活でした。

「私も自分の仕事部屋がモノでいっぱいになってきて……。子どもたちに『片づけよう』と口で言うだけじゃなくて、自分も片づけられるようになりたいと思いました」

 自分がコーチングの仕事をしていることもあり、片づけにもコーチングの要素が入っているセミナーのようなものがあればと思って検索すると、ヒットしたのが家庭力アッププロジェクト®です。

 家がきれいになるだけではなく、習慣化やマインドなどの要素も入っていることが魅力的で、すぐに参加を決めました。

 家の中のモノは、“いる・いらない”の判断がつかずにとりあえず残しておいたモノがたくさんあふれています。

「何度か引っ越しを経験しましたが、そのタイミングでも手放せなくて、とりあえず残そうというモノばかり。中には幼稚園のときからの年賀状もありました。名前を見ても、誰なのか覚えていないんですよ。なぜとっておいたんでしょうね」

 置き場所に困る思い出の品。使わないけれど捨て方がわからない家電。なんとなく手放せないモノも、プロジェクトの参加をきっかけにどんどん手放せるようになりました。

「納戸にはモノがギュウギュウで奥まで手が届かなかったんですが、今ではスムーズに中まで入れるようになりました!」

 片づけを進める中で、直子さんはあることに気づきました。それは、部屋の使い方を家族で話し合ったときのこと。

「4等分にした紙を用意して、それぞれの理想的な部屋の使い方を書くことにしました。話し合いながら夫と娘たちのところを埋めましたが、私のところは空白のままで終わりました。自分の希望を言いたいけれど、『聞いて!』と言えない自分がいたんです」

資料や本が多くなり、雑然としていた仕事机/ビフォー

 これまでの生活を思い返しても、家の中の面倒なことを自分から引き受けていた直子さん。家のモノも「置き場所がないから」と、自分の部屋にとりあえず置くようにしていたので、モノでいっぱいでした。

 直子さんはこの話し合いの後から、「私はこっちの方がいいと思う」など自分の意見を少しずつ言えるようになりました。

「母親って、どうしても自分のことは後回しにしてしまうことがありますよね」

 今では、「寝る前だからリセットしようか」と声をかけると、一緒に片づけてくれるようになりました。家族みんなで「スッキリしていると暮らしやすいね」と話したことも。

スッキリして頭の中のマインドマップも整理できました/アフター

「片づけ終わってから、家のこと以外でも、改善できるポイントを考える視点を持てるようになりました。日々をなんとなく過ごすだけだったのが、仕事も家族のコミュニケーションでも、『もっとよくなる方法があるんじゃないかな』と思うようになったんです」

 直子さんは「片づけは自分の内面を見つめる作業」とも話してくれました。

「片づけられないとか、モノが多いとか、悩みはいろいろあると思いますが、結局はその状況をつくり出している自分の内面を見つめ直すしかないと思います。ただ目の前の空間がきれいになっただけだと、そのときは満足するけれど、自分とか家族の関係とかが変わらなかったら意味がないので。リバウンドしないポイントはそこかな、と思います」

 これまでは優しい夫が子どもたちのモノを片づけてくれることが多かったけれど、直子さんはせっかくのチャンスを奪ってはいけないと思うようになりました。

「夫がやってくれるのはありがたいことですけどね。でも、子ども本人の自覚がないのにきれいになっているって、マジックじゃないですか(笑)。今は、自分たちが気づくまでそのままにしておいてって言っています」

 直子さんが片づけられるようになると、家の中だけでなく、自分にも家族にも大きな変化が生まれました。子どもたちの片づけのコーチにもなれそうです。今まで後回しにしていた自分のことも大切にして、これからも暮らしのブラッシュアップを楽しんでほしいです。

関連記事: