中国包囲網をアジア・欧州との貿易合意で、米国の狙いに中国が警戒
米中貿易戦争は今のところ停戦が保たれている様子だ。だが、世界の他地域で進行している状況、すなわち中国企業を世界のサプライチェーンから切り離すような合意を各国と結ぼうとする米国の取り組みに、中国は懸念を深めている。
9日の期限を前に、米当局者はアジアや欧州の主要貿易相手国・地域と貿易上の新たな取り決めについて集中協議に入っている。米国が推進する新たな取り決めには、中国製品に対する制限や、米国が中国の不公平な貿易慣行と見なす措置に対処するという確約が盛り込まれる。
合意に最も近い国の一つとされるインドは、いわゆる「原産地規則」について交渉を続けている。ブルームバーグがこれまでに報じたところによると、米国は現地で付加された価値が少なくとも60%に上る製品に限り「インド製」と認め、貿易合意の優遇措置の対象としたい考えだが、インドはその比率を35%程度まで引き下げるよう求めている。
ベトナムなども中国製品の構成比率が高い品目について、そうでない場合よりも高い関税が課される階層方式の関税を受け入れるよう、同様の圧力にさらされている。非公表の情報だとして、匿名を要請した関係者が明らかにした。この関係者は、協議の状況について説明を受けたという。同様の条項は、既存の米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)にも存在する。
「トランプ氏の貿易戦争に関してアジアが抱えるジレンマは、米国の最終需要にほぼ完全に依存する一方で、国内生産における付加価値では中国に大きく頼っていることだ」と、ナティクシスのアジア太平洋チーフエコノミスト、アリシア・ガルシアエレロ氏は最近のリポートで指摘。特に影響を受けやすい国・地域として、ベトナム、カンボジア、台湾を挙げた。
大半のアジア諸国・地域にとって、中国は米国以上の貿易相手だ。中国は自国の利益が脅かされれば対抗措置を取ると警告しており、王毅外相は今週予定するブリュッセル、ドイツ、フランスでの会談でこの問題を再び提起する公算が大きい。
中国商務省は6月28日に発表した声明で、これまでの警告を繰り返し、「中国の利益といわゆる関税引き下げを取引材料にするような合意には、中国は断固反対する」と主張し、「仮にそれが起これば、中国は決して容認せず、正当な権利と利益を守るために断固とした対抗措置を取る」と表明した。
数十の米国の貿易相手国・地域に対してトランプ氏が「相互的」と呼ぶ関税は、90日間の導入猶予期間が9日で切れる。それまでに合意を結べなければ、各国・地域は大幅な関税引き上げに直面する可能性がある。
一部の政府は米国の意向をくんだ措置を打ち出している。ベトナム、タイ、韓国はいずれもトランプ氏が4月に関税を発表して以降、自国を経由した米国への迂回(うかい)輸出を防ぐ措置を導入した。
輸出管理
中国が抱くもう一つの懸念は、米国が他国・地域にハイテク機器の輸出管理を導入・強化するよう説得し、中国の購入がいっそう難しくなる可能性だ。
台湾は6月、華為技術(ファーウェイ)と中芯国際集成電路製造(SMIC)を輸出規制リストに加え、両社と台湾企業が政府の許可なしに取引することを禁止した。
圧力はアジアにとどまらない。欧州もまた、微妙な立場に置かれている。欧州連合(EU)は中国製電気自動車(EV)の最大の輸出先で、EUと英国に対する中国企業の昨年の投資額は、合計で100億ユーロ(約1兆6900億円)に達したと、米調査会社ロジウム・グループが最近のリポートで指摘した。
ただ、貿易摩擦は激化しつつある。フォンデアライエン欧州委員長は最近、中国がレアアースや磁石を「兵器化」していると非難し、中国の過剰生産能力がもたらすリスクを警告した。
中国はとりわけ、英国が米国と結んだような、サプライチェーンの安全保障や輸出管理、鉄鋼・アルミ・医薬品などの業種の企業保有規則に関する誓約が盛り込まれた合意を、EUが締結することを懸念している。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、中国は米英の合意を異例の声明で批判し、直接的な挑戦として受け取っているとの認識を示した。
ワシントンのオルブライト・ストーンブリッジ・グループのパートナーで、在中国EU商工会議所の元会頭であるイェルク・ブトケ氏は「輸出管理で英国と同様の文言をEUが受け入れる事態を、中国は明らかに懸念している。そうしないよう中国はEUに働き掛けているが、米国はEUにその受け入れを迫っている」と述べた。
原題:Beijing Braces for US Trade Deals That Aim to Shut Out China (1)(抜粋)