「外向型」と「内向型」どちらが幸せなのか…MBTI診断より信頼性が高い「たった10個の質問で分かる性格テスト」 「タイプ」に当てはめるのではなく「尺度」で理解する
その日、私はアリゾナ州ソノマ砂漠にある施設で、直前に控えたハイテク企業幹部向けのプレゼンテーションの準備をしていました。すると、快活そうな長身の女性が近づいてきました。
彼女は、このプレゼンの企画メンバーであると自己紹介した後、私に「映像音響装置を変なふうにいじらないように」と釘を刺しました。彼女が着ていたTシャツには、真っ赤な太い字で「ESFJ」とプリントされていました。
この40年くらいのあいだに、ある程度の規模のアメリカ企業で働いたことがある人なら、このアルファベットがMBTI(マイヤーズ・ブリッグス性格指標)の「外向型(Extraverted)、感覚型(Sensing)、感情型(Feeling)、判断型(Judging)」の略語だということを知っているはずです。
MBTIテストは、20世紀の偉大な心理学者カール・グスタフ・ユングの理論に基づいて、キャサリン・クック・ブリッグスとイザベル・ブリッグス・マイヤーズという実の母娘でもある研究者が開発した、パーソナリティを理解するためのテストです。
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年間250万人が93項目の質問に回答
現行の標準的なMBTIでは、93項目の質問に答えることで、四つの対立する指標である「外向―内向」「感覚―直観」「思考―感情」「判断―知覚」のいずれかを組み合わせた16のタイプ(アルファベット四つで表現)で、個人のパーソナリティの傾向を表します。
アメリカでとても人気が高く、毎年250万人以上が検査を受けているこのテストは、有料テストや研修プログラムも豊富で、多数の書籍やDVDが販売されています。
16タイプを表す四つのアルファベットの組み合わせがプリントされたTシャツもあちこちで見かけます。
なぜ、MBTIはこれほどまでに人気があるのでしょう?(そして、私はなぜ、彼女のTシャツを見たときに、心の中で「やれやれ」とつぶやいたのでしょう?)
おそらく、それはMBTIの信頼性や妥当性が高いからではありません。
まず、信頼性の面では、四つのアルファベットの組み合わせから成る16種類のタイプが、毎回同じものになるとは限らないことがわかっています(つまり、あの女性も再度検査したら、別のTシャツを買わなくてはならなくなります)。また、他のパーソナリティ検査と違って、大規模な研究基盤があるわけでもありません。
では、なぜMBTIはこれほどまでに人気があるのでしょうか? 私は、五つの理由があると考えています。
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では、なぜ私は「ESFJ」のTシャツを着た女性に周りをうろつかれたときに、落ち着かない気持ちになったのでしょうか?
私は、プレゼンの準備をしているようなときには、彼女のようなタイプの人に対応するのは苦手です。何より私を警戒させたのは、4文字の最初の「E」です。つまり、彼女は外向的なタイプです。彼女は、大声で「映像音響装置は正しく使ってください」といきなり私に指示しました。
私は誰かに頭ごなしに大声で指示するのも、されるのも好きではありません。映像音響装置だって問題なく使うことができます。もし、私が彼女と同じようにMBTIタイプを表すアルファベットがプリントされたTシャツを着るような人間だったら、私の4文字は彼女とは反対になっていたはずです。最初の文字は、間違いなく内向型(Introverted)を表す「I」になるでしょう。
でも、私が自分を内向的だと認識しているのは、MBTIを通じてではありません。私が用いたパーソナリティ理論は、現代のパーソナリティの科学における研究分野の中で、もっとも影響力のある「主要五因子(ビッグファイブ)モデル」です。この最新の研究成果を説明する前に、まずはみなさん自身で、次のテストに答えてみてください。
10個の質問で5つの因子について診断
以下の文章を読んで、自分自身にどれくらい当てはまるかを評価し、空欄に適切な数字を記入してください。
まったく当てはまらないと思う場合は1を、ほぼ当てはまらないと思うなら2を、どちらかといえば当てはまらないと思うなら3を、どちらでもない場合は4を、どちらかといえば当てはまると思う場合は5を、ほぼ当てはまると思うなら6を、まったく当てはまると思うなら7を入れます。
10 独創的ではなく、平凡な人間だと思う( )
集計方法は以下の通りです。
○誠実性 =(項目3の点数+(8-項目8の点数))÷2 ○協調性 =(項目7の点数+(8-項目2の点数))÷2 ○情緒安定性 =(項目9の点数+(8-項目4の点数))÷2 ○開放性 =(項目5の点数+(8-項目10の点数))÷2
○外向性 =(項目1の点数+(8-項目6の点数))÷2
TIPI(Ten Item Personality Inventory)(Gosling、Rentfrow、Swann、2003)
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第一に、簡単に楽しく検査ができることです。企業内で行われるMBTIのワークショップは、参加者にとって楽しいものであり、チームビルディングにも効力を発揮します。
ある企業向けトレーナーの女性は、その会社全体が「MBTIタイプ」に浮かれていることを心配しています。この組織で今流行っているのは、ランチ休憩中のMBTIテストです。彼女曰く、「みんなで星占いしているようなもの」だそうです。つまり、MBTIはそれくらい気軽に行えるのです。
「まるで、30分以内に届くピザの宅配みたいに、すぐに結果がわかります」――私たち心理学者が、思わず眉をひそめたくなるような話であることはおわかりでしょう。このような検査は、人間のパーソナリティを理解するのに必要な、繊細かつ詳細な分析とは正反対なものに見えます。にもかかわらず、多くの人が飛びついているのです。
二番目の理由は、商業的なアピール度が高いことです。
三番目の理由は、互いのMBTIタイプを比較することが(非科学的な占いとは違って)、パーソナリティについての意義ある会話のきっかけになり得ることです。
「当たってる!」は確証バイアスの影響
四番目の理由は、人は簡単にこの種の検査結果を自分の性格の特徴だと見なすという点です。多くの人は、結果を自分の「アイデンティティ」の一部として、容易に受け入れます。件のTシャツの女性も、MBTIタイプによって表されたパーソナリティを、自らのアイデンティティの一部として誇らしげに示しているように見えます。
五番目の理由は、MBTIに限ったものではありません。それは、パーソナリティ検査の質問に答えているときには懐疑的でも、いざ結果を見せられると「これはまさに私のことだ!」と魔法にかけられたかのように、信じてしまう私たちの心理です。
「あなたのパーソナリティはこうです」と提示されたとたん、それまで抱いていた懐疑心は消え、強い興味を搔き立てられ、周りに話したくなるのです。それには、MBTIには「悪い」タイプがなく、それぞれのいい点が説明されている点も作用しているでしょう。
ですから、誰もが自分のパーソナリティタイプを誇らしげに人に伝えられるのです。
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ピザの宅配よりもさらに短い、わずか数分でできるこの尺度は、ビッグファイブと呼ばれるパーソナリティ特性の検査です。信頼性が高く、研究者たちに好んで使われています(本書では、さまざまなテストを紹介しますが、これらは調査用に開発されたものですから、結果は慎重に解釈するようにしてください)。
ビッグファイブの尺度は、「パーソナリティは五つの主要な因子に還元できる」というパーソナリティ研究の共通理解を反映しています。
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特定の「タイプ」に個人を当てはめる検査とは違い、ビッグファイブでは各因子を連続的なものとしてとらえ、人は必ずその尺度のどこかに位置するものとします。
これらの因子には、約5割の割合で遺伝的な要素が関係していることがわかっており、また幸福感や健康、目標達成能力などを表す「ウェルビーイング(本書ではこれを“幸福度”と呼ぶことにします)」に強く影響することも明らかになっています。
「外向型が理想的」とは限らない
本稿では、「外向性」について詳しく説明します。
情緒安定性と同様、外向性は研究対象になることがもっとも多いパーソナリティ特性であり、幸福度についてもカギを握っています。とくに、スーザン・ケインの『内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力』(講談社)が出版されて以来、「外向型―内向型」が話題になることが、とても多くなりました。
ケインはこの本の中で、現代社会、なかでもアメリカでは、幼稚園から企業の会議室に至るまで、あらゆる場面で外向型が理想的な性格特性だとみなされているが、実は内向型にも外向型に負けない優れた側面がいくつもあると主張しています。この本は私たちに、内向的、外向的なタイプのそれぞれの長所に着目することの重要性と、適切に区別することの大切さを教えてくれます。
ビッグファイブの他の因子と同じく、外向性も遺伝的な要素によって決まる割合が高いことが知られています。生理学的には、外向型―内向型の違いは、脳の新皮質の特定領域における覚醒レベルの違いだと考えられています。
つまり、外向型の人は普段の覚醒レベルが低く、内向型の人は高い状態にあります。日常生活で適切に振る舞うには、覚醒レベルを最適に保つ必要があります。そのため、外向型は覚醒レベルを上げようとし、内向型は下げようとするのです。
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刺激物であるコーヒーは、反対に作用します。外向型の人は、カフェインによって効率的にタスクを行えるようになり、内向型の人のパフォーマンスは落ちます。とくにタスクが定量的で、制限時間のプレッシャーがある場合、この違いは大きくなります。
内向型は、直前にコーヒーを飲むと、会議で十分なパフォーマンスを発揮できなくなることもあります。とくに会議のテーマが予算の策定やデータの分析など、数字を扱うものである場合はこの傾向が顕著になります。一方、同じ会議に参加している外向型の人は、カフェインをとることで調子が上がり、積極的な発言をして議論に貢献します。
ビッグファイブにおけるパーソナリティ特性の次元は、特定のタイプかどうか割り切る「タイプ分け的」なものではなく、「連続的」な尺度で測定されるので、ほとんどの人は中間レベルのスコアになります。真ん中の場合は、「両向型」と呼ばれることがあります。
読者のみなさんが、この両向型であることも多いにありえます。両向型の覚醒レベルは、普段から最適レベル付近にあります。「両向型の利点」を示す研究結果もあります。組織心理学者のアダム・グラントによれば、「販売の仕事には外向型が向いている」という通説に反し、両向型は外向型や内向型よりも販売におけるパフォーマンスが優れているそうです。今後も、これと類似した研究結果が多く見られるようになるでしょう。
内向型のほうが学校の成績が良い理由
外向性の違いは、学校の成績にも表れます。一般的に、小学校から大学を通じて、内向型の方がよい成績をとります。ただし、それは内向型のほうが知能が高いからではありません。外向型と内向型の間で、IQに差はないとされています。
私はこの違いは、学習環境にあると考えています。外向型は、刺激が多く積極的な参加が重視される環境でパフォーマンスを発揮します。しかし現在の学校には、このような学習環境は基本的にはありません。
この仮説を裏付けるのが、幼稚園では外向型の方が成績がよいという事実です。ご存じの通り、幼稚園では刺激の多い賑やかな環境で学習が行われます。ですから、幼稚園でいくら優秀だったとしても、その子どもが外向型である場合は、小学校以降も同じような成績をとるとは限らないのです。