宇宙最大を大幅更新!長さ150億光年の構造が判明(宇宙ヤバイchキャベチ)

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

宇宙最大の構造に関する、驚くべきニュースが飛び込んできました!

2025年4月、宇宙最大級のエネルギーを誇る爆発現象「ガンマ線バースト」を用いた観測により、長さ「100億光年」とも言われる既知の宇宙最大の構造が、実際はさらに巨大であることが明らかになりました​。

●宇宙の大規模構造と宇宙原理

数十億~数千億個の恒星が集まった巨大な集団「銀河」は重力によってさらに群れをなし、銀河団や超銀河団といった構造を形成しています。

そして宇宙を数十億光年以上の非常にマクロなスケールで見ると、銀河団や超銀河団が集まる物質の高密度領域「銀河フィラメント」と、数億光年のスケールで銀河がほとんど見当たらない物質の超低密度領域「ボイド」が織りなす、網目構造が広がっています。

この網目構造を「宇宙の大規模構造」と呼びます。

しかし、宇宙論における標準的な前提である宇宙原理によれば、宇宙は十分に大きなスケールで見れば一様かつ等方的(つまりどの方向もどの場所も同じような性質)であると考えられています​。

言い換えればこれは、数十億光年以上のスケールでは、物質の分布は滑らかで偏りがないはずだという考えです。

それにもかかわらず、近年の観測ではこの宇宙原理に反するかのように見える、十億光年を超えるほどの超巨大構造(銀河の連なり)が次々に発見されています。

一部の例として、2003年には「スローン・グレートウォール」、2020年には「サウスポール・ウォール」、そして2025年2月には「キープ超構造」といった巨大構造が報告されており、いずれも長さが約14億光年にも及んでいます。

そしてなかでも2013年に報告された、今回の主役である「ヘルクレス座・かんむり座グレートウォール」は、約100億光年にも達する最大の構造体として知られています​。

このような超巨大構造の存在は宇宙原理に「例外」がある可能性を示唆しており、宇宙論に大きな議論を巻き起こしています。

●ヘルクレス座・かんむり座グレートウォール(HCB)

ヘルクレス座・かんむり座グレートウォール(英語名のHercules–Corona Borealis Great Wallから省略し、以下「HCB」)について、もう少し詳しく見ていきましょう。

HCBは、北天のヘルクレス座からかんむり座付近に広がる超銀河団の集合体です。

この構造は2013年にホルヴァート(Horváth)氏らの研究チームにより、ガンマ線バーストの発生源を分析することで発見されました​。

○ガンマ線バーストを分析する理由

ガンマ線バーストは、大質量星の崩壊や中性子星合体で発生する宇宙最大級の爆発現象です。

一瞬で銀河全体を上回る光を放つため、発生源が地球から百億光年以上離れていても検出でき、非常に遠方の宇宙の情報を得ることができます。

またガンマ線バーストなどの非常に遠方由来の光を分析すると、その発生源天体との距離を推定可能です。

一般に、非常に遠方から地球へとやってきた光を分析すると、その波長が伸びて見える「赤方偏移」という現象が観測されます。

これは宇宙が膨張していることが原因であると考えられており、光が地球到来までに長い時間宇宙空間を旅している、つまり発生源天体が地球から遠いほど、赤方偏移は顕著になります。

よってその光の赤方偏移の度合いを示す「z」の値は、光の放射源天体の地球からの距離によって決まるため、zの値を求めることができれば放射源天体までの距離を推定できるのです。

さらにガンマ線バーストは大質量星や中性子星同士の合体によって発生しますが、これは基本的に物質が大量に集まった高密度環境、つまりマクロなスケールでいえば「銀河フィラメント」内でしかほとんど発生しません。

よって数多くのガンマ線バーストを分析し、その発生源天体の方向と距離を調べていくことで、空間的に銀河フィラメントがどのように分布しているのかを推定することができるというわけです。

○高まるHCBの実在可能性

ホルヴァート氏らは北天領域のガンマ線バーストの空間分布に注目し、赤方偏移z=1.6〜2.1付近に銀河フィラメントを検出しました​。

これがHCBの初発見であり、当初この構造の広がりは約100億光年と見積もられました​。

そのサイズは非常に驚異的で、天の川銀河が横に10万個も並ぶ距離に匹敵し、観測可能な宇宙全体の直径(約930億光年)の1割以上に相当する桁外れのスケールです!

当初、この発見に対しては「統計的な偶然ではないか」「サンプル数が不十分ではないか」といった慎重な見方もありました。

というのも先ほど例に挙げたサウス・ポール・ウォール、Quipuのような巨大構造はそれを構成する銀河を直接観測することで発見されたのに対し、HCBはガンマ線バーストから間接的に存在を推測しているにすぎないためです。

しかしその後ガンマ線バーストの観測数が増加してもこの過密領域の存在は確認され続け、統計的ゆらぎによる見かけ上の構造ではない可能性が高まっていきました​。

実際、その後にホルヴァート氏らによって行われた研究では、データ増加に伴って3つのガンマ線バーストの密集領域(クラスタ)がこの巨大構造中に同定されており、構造の実在性が強く示唆されてきました​。

●新発見:さらに大きかったHCB

これまでもHCBに関する研究で成果を上げてきたホルヴァート氏らは、2025年4月にも最新の研究成果を論文で公表しています。

研究チームは世界中のデータベースから最新のガンマ線バーストのデータを集め、合計542もの事象の位置と距離(赤方偏移)のカタログを作成しました​。

特にHCBが存在する北半球の空域に着目し、その領域に含まれる262個のガンマ線バーストについて統計解析を行いました​。

その結果、従来知られていた3つのガンマ線バーストの密集領域(クラスタ)に加えて第4のクラスタの存在が明らかになりました​。

この新クラスタは先に知られていたクラスタを包含する形で重なっており、約120個ものガンマ線バーストから構成されていました​。

注目すべきは、このクラスタに属するガンマ線バーストの赤方偏移の範囲が0.33〜2.43と非常に広かった点です​。

つまり、この構造体はこれまで考えられていたよりも手前側(低赤方偏移側)にも奥側(高赤方偏移側)にも広がっており、視線方向(遠近方向)の厚みは現在の距離で実に150億光年にもなり、格段に大きいことが示唆されました​!

以上の結果から、HCBは実在している構造である可能性がさらに高まっただけでなく、従来の推定よりもはるかに巨大な構造であり、その全体像は現時点でも把握しきれていない可能性が高いことも示されたのです​。

○なぜこの発見が重要か

HCBのような巨大構造の存在は、宇宙論の根幹をなす宇宙原理に重大な問いを投げかけます。

宇宙原理のもとでは、約138億年の宇宙の歴史の中で物質が重力によって成長できる構造の大きさには限界があると考えられています​。

具体的には数億~十数億光年級の構造までが妥当とされ、それ以上のサイズの「壁」は宇宙が一様・等方である限り出現しないと予想されるのです​。

ところが実際にはHCBはこの理論限界をはるかに超えるスケールに及んでいると示唆されます。

さらに研究チームは、ガンマ線バーストの空間分布を分析したところ「北半球の空で顕著な偏りが見られる一方、南半球ではそれほどでもない」という不均一性も指摘しており​、これも驚くべき発見です。

今回の結果は、宇宙全体が完全に均一ではなく局地的に極端な偏りが存在しうることを示唆しており、「宇宙は大局的に滑らかである」という従来の前提への挑戦となっています​。

宇宙原理の予想と、HCBのような宇宙の不均一性を示す具体例との間の矛盾は、宇宙の初期に生成された密度ゆらぎやインフレーションの理論、さらにはダークマターの分布やダークエネルギーの性質など、定説とされている宇宙モデル全般の再考を促す可能性があります。

しかし現時点ではこの発見が意味することについての結論がまだ出ておらず、宇宙論へのインパクトの評価は定まっていません。

少なくとも、宇宙の大規模構造が私たちの想像以上に複雑である可能性が強まったことは確かです。

○今後の展望

今回の研究はガンマ線バーストを用いた宇宙構造探査の有効性を示しましたが、同時に現在のデータや手法には限界があることも浮き彫りにしました。

一つの巨大構造を詳細にマッピングするには、膨大な数のガンマ線バーストの観測が必要です​。

しかしガンマ線バーストは非常に稀な現象であり、実際ホルヴァート氏らが今回解析に用いたガンマ線バーストの542個のサンプルは、過去20年にわたる観測の蓄積によってようやく得られたものです​。

今後数年で飛躍的にサンプル数が増える見通しは立っておらず、現状のデータだけではこの巨大構造の全容を正確に描き出すには不十分かもしれません​。

そのため研究チームは、現在のカタログをさらに精査するとともに、新たな観測計画によってブレイクスルーを図ろうとしています​。

例えば欧州宇宙機関(ESA)で提案中のTHESEUS(Transient High Energy Sources and Early Universe Surveyor)ミッションは、ガンマ線バースト研究に革新をもたらすことを目指した新世代の宇宙望遠鏡です​。

これが実現すれば卓越した感度と全天サーベイ能力によってさらに遠方(高赤方偏移)のガンマ線バースト検出数が飛躍的に増大する見込みです​。

今後のさらなる観測と研究によって、ヘルクレス座・かんむり座グレートウォール(HCB)の正体と起源が解明される日が来るかもしれません。

それは同時に、私たちの宇宙像に修正を迫る発見となる可能性があります。

「宇宙最大の構造」が隠している秘密が今後明らかになっていくのが楽しみです!

https://arxiv.org/abs/2504.05354

https://www.space.com/the-universe/gamma-ray-bursts-reveal-largest-structure-in-the-universe-is-bigger-and-closer-to-earth-than-we-knew-the-jury-is-still-out-on-what-it-all-means

https://phys.org/news/2025-04-gamma-ray-probe-large-scale.html

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