人は星のかけらでできている。しかし「生命の材料」は宇宙でどう誕生したか?(Forbes JAPAN)

熊本県阿蘇くじゅう国立公園にある宿泊体験型の公開天文台「南阿蘇ルナ天文台」は、国際的に広まりつつある社会的処方の観点から天文体験が心身に与える影響を調査研究し、ウェルビーイングに資する体験型プログラムの構築、専門人材の育成、オンラインにも拡張した次世代型公開天文台の開発に力を入れる。 同天文台の次世代型天文台開発ディレクターである宇宙物理学者の長井知幸博士に、以下、ご寄稿いただいた。 ◾️はじめに:私たちの体の材料はどこから来たのか 「私たちは皆、星のかけらでできている」……の言葉は、ロマンチックな詩ではなく、れっきとした科学的事実です。私たちの体を構成する主な元素、たとえば酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リンなどはすべて宇宙の中で生まれたものです。 でも、それらの元素は、いつ、どこで、どのようにして作られたのでしょうか? ここでは未知の物質ダークマターなどは議論せず「通常の物質(バリオン系と呼ばれたりします)」に注目してお話を進めてみます。 ◾️宇宙のはじまりと最初の材料 私達の住むこの宇宙は、約138億年前にビッグバンによって始まりました、というのが2025年現在でも有力な説とされています。ご存知かもしれませんが、科学的な理論上の話というだけではなく、様々な観測結果がこの説を裏付けています。 その一つの例に「ビッグバン元素合成」という現象があります。これは、ビッグバンが実際起こった場合、その最初の数分間の間に生み出された元素の比率が理論的に予測されているのですが、その予想値と実際の観測が高い精度で合っていることが分かっています。この時にできたのは、主に水素(約75%)とヘリウム(約25%)、そしてごくわずかなリチウムや重水素といった軽い元素たちです。中学や高校で習う元素の周期表の最初の2つ及び3つ目ですね、というとなんとなく思い出す方も多いのではないでしょうか。 この宇宙の最初の段階では、酸素も炭素も鉄も存在していませんでした。原始宇宙は、非常にシンプルな軽い元素だけで構成されていたのです。そしてこのような宇宙では生物はおろか、地球のような惑星も存在することができません。 では現在の宇宙ではどのような元素の構成になっているのでしょうか? 現在の宇宙に存在している物質の内訳(バリオン系に限る) 宇宙に存在する通常の物質のほとんどは、依然として水素とヘリウムです。元素の質量割合で見ると、現在でも ・水素:約74% ・ヘリウム:約24% ・酸素、炭素、鉄などの重元素:合わせて約2% となっています。 この「たった2%」の重元素が、私たちの体や惑星、大気、生命活動すべてを主役として形づくっています。つまり、私たちは宇宙の中でも非常に特殊な存在だと言えます。 では、ビッグバンの時にはほぼ存在しなかったこれらの重たい元素はどこからやってきたのでしょうか? ◾️その2%はどこから来たのか? (1) 恒星内部の「元素の工場」 星(ここでは厳密に恒星のことですが)の内部では、数千万〜数億度という高温高圧の環境で、核融合反応が起きています。これがまさに星がまばゆく輝いている理由でもあります。よく「太陽のような恒星は自分で燃えて光っている」といったような表現を聞きますが「燃えている」と言っても焚き火のような「燃焼」ではなくて「核融合」の反応によって熱と光が作り出されているのです。 (2) 超新星爆発という「宇宙の大釜」 鉄より重い元素、たとえば金、ウランといった元素は、恒星の内部では作られません。これらは、大質量を持った星が一生を終えるときに起こす「超新星爆発」のような極端な環境のなかで初めて生成されます。 また、さらに重い元素は、中性子星同士の合体(キロノヴァ)など、宇宙で最も激しい部類の現象の中で誕生したと考えられています。キロノヴァによって大量の金や白金など特に重たい元素たちが生成されると考えられています。 ちなみにキロノヴァの人類初の観測例は2013年のことで、比較的最近のことなんですね。これはガンマ線バーストの観測によって見つかりました。その後もガンマ線バーストを通していくつか観測されています。また重力波の観測を通してもキロノヴァが観測されています。このあたりのお話はまた別の機会に触れたいと思います。 このように私達の体や地球、ひいては太陽系を支えている元素たちは長い宇宙の進化の中で生成されてきたのですね。

Forbes JAPAN
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