「ショート動画」は脳に悪いって本当? 海外チームが約10万人のデータを分析:Innovative Tech

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

X: @shiropen2

 オーストラリアのグリフィス大学に所属する研究者らが発表した論文「Feeds, Feelings, and Focus: A Systematic Review and Meta-Analysis Examining the Cognitive and Mental Health Correlates of Short-Form Video Use」は、TikTokやInstagram Reels、YouTube Shortsといった短編動画プラットフォームの急速な普及が、認知機能と精神健康にどのような影響を与えているのかを分析した研究報告だ。71の研究と約10万人(9万8299人)のデータを分析した包括的なメタ分析を実施した。

ショート動画を見過ぎて認知能力が低下しているイラスト(絵:おね

 研究結果によると、短編動画の利用増加と認知機能の低下には中程度の負の相関が認められた。特に顕著だったのは注意力と抑制制御への影響だ。また記憶力や言語能力にも弱い負の関連が見られたが、論理的思考力への影響は確認されなかった。

 この現象は、高刺激のコンテンツへの継続的な曝露がもたらす認知的な変化として理解できる。短編動画の特徴である瞬時の切り替え、アルゴリズムによる最適化されたコンテンツ配信、無限スクロールという仕組みは、即座の満足感を提供し続ける。

 結果、読書や問題解決のような持続的な認知的努力を要する活動に対して、脳が適応しにくくなる可能性がある。スワイプ一つで新しい刺激に移れる環境に慣れると、じっくりと一つのことに取り組む能力が徐々に低下していくと考えられる。

 精神健康の面では、短編動画の利用と精神健康指標の間に負の相関が見られた。不安とストレスで中程度の関連が示され、うつや孤独感、睡眠の質の低下、ウェルビーイングの低下、否定的感情とも弱い関連が認められた。

 これは、アルゴリズムが最大限のエンゲージメントを目的として設計されており、感情的に強い反応を引き出すコンテンツを優先的に表示することと関係している可能性がある。また、深夜までの視聴による睡眠への影響も、精神健康の悪化に寄与していると考えられる。

 一方、自尊心やボディーイメージへの悪影響は確認されなかった。これは短編動画プラットフォームのコンテンツの多様性を反映している可能性がある。理想化された美の基準を押し付けるコンテンツだけでなく、ボディーポジティブな内容や多様な価値観を発信するクリエイターも存在することが、この結果に影響しているかもしれない。

 これらの影響は若者と成人の両方で同様に観察された。年齢による調整効果が見られなかったことは、短編動画の影響が発達段階を超えて一貫していることを示唆している。

Source and Image Credits: Nguyen, L., Walters, J., Paul, S., Monreal Ijurco, S., Rainey, G. E., Parekh, N., Blair, G., & Darrah, M.(2025). Feeds, feelings, and focus: A systematic review and meta-analysis examining the cognitive and mental health correlates of short-form video use.Psychological Bulletin, 151(9), 1125-1146. https://doi.org/10.1037/bul0000498

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