「トランプ氏と関係を築いていない」 ブラジルのルラ大統領、BBCインタビューで話す
アイオニ・ウェルズ南米特派員(ブラジリア)、レアンドロ・プラゼレスBBCニュース記者(ブラジル)
ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領が、BBCの独占インタビューに応じ、アメリカのドナルド・トランプ大統領とは「関係を築いていない」と話した。
ルラ氏はかねて、トランプ氏を頻繁に批判してきた。今回の発言から、トランプ氏とのコミュニケーションが成立していないとルラ氏が考えていることが、これまでになく明確にうかがえる。
トランプ氏とボルソナロ被告(今月11日にクーデター計画罪などで有罪)は、共に大統領だった2019年に米ホワイトハウスで会談するなど、友好関係を築いていた。
ルラ氏は50%の関税措置を「極めて政治的なもの」と呼んだ。そして関税の結果、アメリカの消費者にとってブラジル製品が値上がりする事態になると指摘した。
トランプ氏による関税措置はコーヒーや牛肉など、ブラジルからアメリカへの輸出品に打撃を与えている。ルラ氏は、今後これらがさらに値上がりすると指摘し、「トランプ大統領がブラジルとの関係で犯している過ちの代償を、アメリカ国民が払うことになる」と述べた。
両首脳はこれまでに一度も、直接会話をしたことがない。電話をかけるなどして関係構築を図らなかったのはなぜかというBBCの質問に対して、ルラ氏は「彼(トランプ氏)は一度も話したがらなかった。なので私からは、電話をかけようとしなかった」のだと答えた。
トランプ氏は以前、ルラ氏は「いつでも電話してきていい」と述べていた。しかし、トランプ政権の関係者たちは「話したがっていない」のだと、ルラ氏は強調した。
アメリカの対ブラジル関税については、ブラジルの新聞報道で初めて知ったと、BBCに語った。
ルラ氏はトランプ氏について、「文明的に礼節をもって話をしなかった」、「(関税措置について)自分のポータルサイト、つまりソーシャルメディアで公表しただけだった」と述べた。
アメリカの大統領との関係をどう表現するかと問われたルラ氏は、「関係などない」とだけ答えた。
ルラ氏は、トランプ氏と関係を築いていないのは例外的なことだとし、歴代のアメリカ大統領やイギリス首相のほか、欧州連合(EU)や中国、ウクライナ、ヴェネズエラ、そして「世界中のすべての国々」と、自分は関係を築いてきたのだと語った。
「私はトランプ氏と関係を築いていない。それは、トランプ氏が初めて(大統領に)選ばれた時に、私が大統領ではなかったからだ。彼が築いたのは、ブラジルとではなくボルソナロとの関係だ」
来週開かれる国連総会でトランプ氏とすれ違うことがあれば、「私は文明人なので挨拶する」つもりだとしつつ、トランプ氏は「アメリカの大統領かもしれないが、世界の皇帝ではない!」と付け加えた。
BBCが米ホワイトハウスの報道官に、ルラ氏のトランプ氏批判についてコメントを求めたところ、トランプ氏のブラジルに関する過去の公的なコメントを参照するようにとの回答があった。
ルラ氏はインタビューの中で、11日に有罪判決を受けたボルソナロ前大統領についても言及した。
ブラジル最高裁判所の判事5人のうち4人は、大統領選挙の結果を覆そうとしてクーデターを企てた罪などに問われたボルソナロ前大統領について有罪を支持し、禁錮27年3カ月の刑を言い渡した。
ルラ氏はBBCに対し、ボルソナロ被告とその共謀者たちが「国を傷つけ、クーデターを企て、私の殺害を画策した」と主張した。
ボルソナロ被告の弁護団が上訴する意向を示していることについて、ルラ氏は「彼(ボルソナロ被告)が弁論」し続けることを期待するとしつつ、「現時点では、彼は有罪だ」と述べた。
トランプ氏が、ボルソナロ氏は迫害されていると主張し、ブラジルで民主主義が欠如していると非難したことについても、「虚偽をでっち上げている」と批判した。
ルラ氏はさらに、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件がアメリカではなくブラジルで起きていたら、トランプ氏は裁判にかけられていただろうと述べた。
幅広い話題を取り上げたBBCとのインタビューの中で、ルラ氏は国連を改革する必要性についても訴えた。
ルラ氏は、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国が拒否権を持つ現状を批判。第2次世界大戦で勝利した国々に有利な構造となっており、ブラジル、ドイツ、インド、日本、アフリカ諸国など数十億人を代表する国々が排除されていると指摘した。
その結果、国連には「紛争を解決する力」がなく、常任理事国が開戦について「一方的な」決定を下しているとした。
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ルラ氏は、不公正な選挙や人権侵害が指摘されるロシアや中国と同盟関係を維持していることの正当性を主張する一方で、国連はより「民主的」になる必要があると訴えた。
ロシアがウクライナで戦争を続ける中、ブラジルがロシア産原油を購入し続けていることについて問われると、ルラ氏は、ブラジルはロシアのウクライナ侵略を最初に非難した国の一つだと主張。「ブラジルはロシアに資金援助しているわけではない。中国やインド、イギリス、アメリカが原油を購入する必要があるのと同じように、我々は原油を買う必要がある。だからロシアから原油を購入している」と答えた。
さらに、もし国連が「機能していた」なら、ウクライナでの戦争もパレスチナ・ガザ地区での戦争も起きなかっただろうと述べた。ガザ戦争については「戦争ではなくジェノサイド」だとした。
BBCは、アマゾン熱帯雨林の都市ベレンで11月に開催される第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)についても尋ねた。ブラジルは開催国として世界の指導者たちを迎えることになる。
ブラジル国内では、アマゾン川河口付近での石油探査のための掘削計画を支持するルラ氏に、批判が上がっている。
ブラジルの国営石油会社ペトロブラスなど複数企業は、探査用の区画を購入し、現在は許可が下りるのを待っているところだ。
左派のマリナ・シルヴァ環境相はこの計画に強く反対し、一部の環境保護団体はアマゾン近海に石油が流出するリスクを懸念している。
ルラ氏は、ブラジルは探査計画を進めるうえで法律を厳格に順守していると主張。万が一、流出事故が発生した場合には「ブラジルが責任を負い、あらゆる問題に対処する」と述べた。
そして、化石燃料に依存しない世界には賛成だが、「その時はまだ来ていない」と付け加えた。
「エネルギー転換を実現するための準備を整え、化石燃料を放棄できる国があるのかどうか、私は知りたい」と、ルラ氏は答えた。ただ、この問題は左派有権者の間で物議を醸している。
現在79歳のルラ氏は、2026年の大統領選で再選を目指すかどうかはまだ決めていないとした。
自分の健康状態や、所属政党の意向、政治的なタイミング、そして勝算があるかどうかを考慮して決定するという。
直近の世論調査では、ルラ氏の支持率は低下していたが、トランプ氏が対ブラジル関税を発動したことを受けて回復した。
ルラ氏はインタビューの最後に、飢餓の削減や失業率の改善、労働者階級の所得向上などを自分の功績として挙げた。