中国のネット検閲、新たな標的は「悲観主義」 若者の将来の見通し暗く

海外帰国者と博士号取得者を主な対象とした就職フェア=20日、中国江蘇省南京市/FEATURECHINA/Newscom/Sipa

(CNN) 中国の強力なインターネット検閲当局は長年にわたり、共産党指導部への批判や政治的異議、敏感な歴史的事案への言及を削除することで知られてきた。そして、今、検閲の矛先は新たな脅威に向けられている。悲観的な態度だ。

中国のネット規制当局である国家インターネット情報弁公室(CAC)は22日、SNSやライブ配信、短編動画プラットフォーム上で広がる悲観的な言説を取り締まる全国的な2カ月間のキャンペーンを発表した。

CACは発表で、取り締まりの対象となるコンテンツのなかには、「社会現象を悪意を持って誤解し、否定的な事例を恣意(しい)的に誇張し、虚無主義的あるいは否定的な世界観を広める機会として利用しているものがある」と指摘。過度に自分を卑下したり、絶望感や否定的な感情を増幅させたりして、他人にも追随するよう促すものもあるとしている。

国家インターネット情報弁公室のオフィスが入った建物=2017年、中国・北京/Stephen Shaver/UPI/Shutterstock

不動産危機に端を発した長期にわたる景気の低迷が、特に若者の間で消費者心理を冷え込ませ、消費を抑制し、失業率を押し上げ、将来の見通しを暗くしている。こうした心情が、2021年に中国のネットで注目を集めた「寝そべり族」と呼ばれる、ストレスのないシンプルな暮らしを志向する若者たちのライフスタイルの登場につながった。

寝そべり族をめぐっては最近、自身のライフスタイルを記録することで知られる複数のブロガーから、動画の削除やアカウントの禁止が報告されていた。

CACは投稿内容を十分に監視していないとして複数のネット企業に処分を下している。SNSの微博(ウェイボー)や、動画投稿アプリ大手「快手」、中国版インスタグラムの「小紅書(シャオホンシュー)」などが今月に入り、有名人の新情報や些末(さまつ)な話題を過剰に盛り上げるような「有害」な情報が表示されることを許したとして処分を受けた。

中国のSNS「小紅書(シャオホンシュー)」の本社ビル=15日、中国・上海/Raul Ariano/Bloomberg/Getty Images

CACによれば、取り締まりの対象は「集団間の過激な対立をあおる」「恐怖や不安を広める」「ネット上の暴力や敵意を助長する」ようなコンテンツにも及ぶ。

経済に関するうわさや、個人情報の漏えい、「努力は無駄だ」といった敗北主義的な言説も監視対象となる。就職や恋愛、教育に関する不安を悪用して講座や関連商品を売り込む「不安をあおる」コンテンツも含まれるという。

シンガポール国立大学で中国政治を専門とするジャ・イアン・チョン教授は、中国国民の間には、個人の将来に対する「意欲の著しい欠如、あるいは悲観的な見方」が見られると指摘した。

チョン氏は、中国当局が経済成長を推進するため消費者の信頼感を高め、消費拡大を促そうとするのは「当然予想される」とし、「その一つの方法が、ネット上の世論を管理することかもしれない」と述べた。

中国経済は依然として内外のさまざまな課題に直面しており、年5%の経済成長目標の達成に圧力がかかっている。国家統計局の発表によると、8月の工業生産と小売売上高の伸びは、それぞれ1年ぶりと9カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。

8月の学生を除く16〜24歳の失業率は18.9%と、2年ぶりの高水準となった。

チョン氏は、今回の取り締まりでネット上の言論の雰囲気は変わる可能性があるものの、より良い生活やキャリアの見通しがなければ全体的な空気は変わらないだろうと指摘。中国のネット利用者はこれまでもそうしてきたように、自らの思いを表現する新たな方法を見つけるだろうと言い添えた。

最近では、経済減速を背景に「ネズミ人間」と呼ばれる若者たちの動きがネット上に登場している。外出を避けて布団に潜り込んだり宅配に頼ったりするなど、ネズミのようなライフスタイルを送っている。

「政府は、こうした新しい用語や表現が出現するたびに取り締まろうとするだろうが、それらは進化し続けるだけだ」とチョン氏は述べた。

関連記事: