アングル:自社株買いが刺激する海外マネー、業績より需給ひっ迫効果

 世界的にマネーの脱「米国一極集中」が続く中、日本の株式市場が受け皿のひとつになっている。写真は、都内の株式ボード前を歩く男性。4月15日、東京で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)

[東京 16日 ロイター] - 世界的にマネーの脱「米国一極集中」が続く中、日本の株式市場が受け皿のひとつになっている。トランプ関税による企業収益への打撃は大きいものの、活発な自社株買いなど株主還元策や需給の一時的なひっ迫に着目した海外投資家の日本株買いも意識されている。ただ、成長シナリオに基づく動きとは必ずしもいえないため、継続性には疑問の声も聞かれる。

足元のマネーの動きについて、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの日本株ストラテジスト・小林千紗氏は「米国市場からの分散で欧州や日本へマネーが流れている」と指摘する。

東証によると、海外投資家は5月第2週(5月7日─5月9日)に現物株を3570億円買い越した。前週は3946億円の買い越しで、6週連続の買い越しとなった。

大和証券のチーフストラテジスト、阿部健児氏は16日付のリポートで海外勢の動きに言及し「24年7月から25年3月にかけて11.1兆円売り越していたが、その半分弱を買い戻した格好。日本株の4月以降の急回復には外国人投資家の買いが寄与したようだ」と話している。

財務省の統計でも、こうした傾向が確認できる。15日に公表した対外対内証券売買契約等の状況では、海外勢が日本の株式・投資ファンド持ち分を3月末から6週連続で合計5.2兆円買い越した。

<自社株買い、25年度は既に5兆円超>

企業の自社株買いが活発なことが、日本株にマネーを引き寄せている要因の一つとUBSの小林氏は指摘する。「(米関税で)外部環境が逆風の中でも、想定よりもしっかり株主還元策を出してきたという点はポジティブで、サポート要因の一つだろう」とみている。

今年度の自社株買いは、昨年以上に旺盛で、JPモルガン証券によると2025年度の自社株買いは5月9日時点で5.2兆円に上った。記録的な自社株買いが発表された24年度の水準(18.7兆円)の既に3割近くに、わずか6週間ほどで達した計算になる。

決算発表と合わせて自社株買いを公表する企業が多いことから、JPモルガン証券のチーフ株式ストラテジスト・西原里江氏は「日本企業の改革が昨年に引き続き進んでいると評価する投資家が多いようだ。5月の連休中にも、データが欲しいという問い合わせが海外投資家からあった」と明かす。

T&Dアセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト兼ファンドマネージャー・浪岡宏氏は「関税の影響で業績を織り込みにくい足元の環境下では、いつも以上に株主還元策に関心が向かいやすい」とみており、個別銘柄の選択として機能しているという。

JPモルガンの西原氏は「自社のことを一番理解している経営陣が自社株を買うということは、自社の株価が割安だというシグナリング効果もあるだろう」と話している。

<業績警戒、株価に割安感なく>

一方、海外マネーの流入がどれだけ持続するかは不透明な側面もある。

過去10年ほど日経平均のPER(株価収益率)は14―16倍で推移してきたところ、足元では16倍付近にあり「割安感がある状況ではない」(野村証券・ストラテジスト、澤田麻希氏)。目先の材料を欠く中では、一本調子で水準を切り上げていくことに懐疑的な見方は多い。

丸三証券の投資情報部長・丸田知宏氏は「業績面で買っていくのは難しい」と指摘する。自動車など高関税による業績下押しが見込まれる企業群の減益見通しなどで日経平均のEPS(1株当たり利益)は切り下がっているためだ。15日終値ベースの日経平均のEPSは決算シーズン序盤に比べ157円低下し、2317円となっている。

米中貿易摩擦への警戒感は以前に比べて和らぎ、米株投資の再開に向けた投資家のセンチメントが改善する可能性もある。そうなれば「海外勢の日本株買いは鈍化し、株価の上昇スピードは緩やかになるだろう」とUBSの小林氏はみている。

(浜田寛子 編集:平田紀之、橋本浩)

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