知ってた? 万博内、実は未来を先取る「実証実験」めちゃくちゃ開催されてます

Photo: 小野寺しんいち

ど迫力の海外パビリオンに、アトラクションのような展示、映えスポットの数々。

楽しさ溢れる万博ですが、実は社会的意義のある空間でもあるんです。

私も行くまで詳しく知りませんでしたが、万博内では、たくさんの実証実験が行なわれています。

「未来がこうなったらもっと素敵じゃない?」が、万博という機会を使って真摯に研究されているんです。

目の見えない人を導く、最新ロボットを大規模実証実験

万博内に設けられた「ロボット&モビリティステーション」のショーケースは、まさにそんな挑戦を行なっている場所。

「ロボットと人が共存できる環境」をテーマに掲げ、日常生活の中にロボットがどのように寄与できるか、具体的なイメージを体験できるようになっています。

Photo: 小野寺しんいち

目の不自由な人を支援するために作られた自律型のナビゲーションロボット、「AIスーツケース」はそのいい例です。

本体自体が自律的に動いて、障害物や人混みを避けながら、使用者を目的地まで連れていってくれるマシンです。

実際に目を瞑って使ってみた筆者も「これはすごい!」と感心しました。

万博のような広くて混在したイベントを、誰にでも楽しめるものにアップデートする。まさに視覚障がいを抱える人の可能性を切り開くテクノロジー。

ただ、まだ実用化への道のりは長いそう。

Photo: 小野寺しんいち

事前にスキャンした場所のみ(ロボットステーションから大屋根リングの下までなど)の移動に限られるので、移動範囲が狭く、今後具体的にどのような施設やイベントで使えるものになるかは未知数です。

もちろん、使用者の身に危険が及ばないように、安全上のさまざまなハードルも越えなくてはならないでしょう。

そこで、万博という大規模な機会を使い、安全に体験できる体制を整え、利用者に使用してもらうことで、これまで収集できなかったたくさんのデータを集めています。

8月12日の時点ですでに、視覚しょうがいを持つ人を含め約1700組が体験に参加したようです。

取材時に、ちょうどあるパビリオンと提携し、内部のマップデータの作成を始めたと聞きました。開催中も常に改善が加えられているのがすごい。

未来の交通システムはどうなる? 試乗を通じて考える

でっかい万博会場。本当に歩いて回るだけが正解なんでしょうか?

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DAIHATSUは、今回の万博用に、利用者自ら運転できるパーソナルモビリティを開発。万博内で一般貸し出しも行ないました(現在は限られたコースでの使用のみ解放中)。

DAIHATSUが描くのは、歩行困難者、一般利用者関係なく、歩行者とパーソナルモビリティが共存する歩車混合交通システムが実現している未来です。

そんな世界をどうやったら創れるか、実機の市場体験を通して、万博内で模索しています。

Photo: 小野寺しんいち

現在は一般貸し出しを停止していますが、これもある意味では実験結果。

筆者も試乗してみましたが、モビリティの完成度は申し分ありません。あとはどうやったらトラブルなく実用化に至れるか。利用者含めて一緒に考えられる、万博は貴重な機会となっています。

ロボットたちの、人間との豊かな共存方法を模索中

ロボット&モビリティステーションの外では、ロボットを起動した実証実験が頻繁に行なわれています。

Photo: 小野寺しんいち

このロボットは、万博会場内に解き放たれて、リアルタイムに来場者がどれだけいるかを計測しています。

LiDARセンサーなどを搭載し、混雑度合いの計測、落とし物の検知、迷子の検知ができるロボットです。まさにたくさんの人が集まる万博じゃないと、テストできませんよね。

Photo: 小野寺しんいち

他にも、自動運転ができるロボットの稼働、人に追従するロボットの展示なども行なわれていました。

来場者を巻き込み、ロボットの改善に役立てるデータ収集、そして人間との共存の方法が模索されています。

新しい交通手段を、万博から

万博という特別な機会を皮切りに、新たな社会インフラを作る取り組みも行なわれています。

それが、"空飛ぶクルマ"。

Photo: 小野寺しんいち

会場内でデモ飛行が開催され、多くの注目を集めているこちら。実は、日本政府としてもこれから本格的に空飛ぶクルマの社会実装を目指していて、万博はそんな壮大な計画の序章なのです。

事実、政府が発表した資料の中でも、万博が重要な起点であると位置付けられています。

こんな新しい乗り物を飛ばすこと自体が実験。同時に、国内で初となる運航管理システムの検証なんかも行なわれました。

ただ、まだまだ実現までの壁もあり、当初は人を乗せての運航が予定されていたのですが、国の認可を得ることができずに断念した経緯も。

数年後、空飛ぶクルマが当たり前になった時、2025年の万博が始まりだったね、なんてなったらいいですよね。

最新技術で、世界初を実現

実験が行なわれているのは、マシンだけではありません。

NTTは、次世代の情報通信基盤「IOWN」による空間伝送技術を使って、世界で初めてのライブパフォーマンスをこの万博で実現させてしまいました。

Photo: 小野寺しんいち

それが、遠く離れた場所でパフォーマンスをしているPerfumeを、3D点群データ化し、別の場所に3D映像として表出してしまうというものです。現在NTTが保有する技術の粋を集めた万博ならではの挑戦です。

1970年の大阪万博で、NTTの前身である日本電信電話公社は、ワイヤレステレホンやテレビ電話などを展示しました。そうしたテクノロジーが実現した現代、NTTの新たな実験的取り組みは、未来の当たり前を作っていく起爆剤となるのかもしれません。

アート表現を通して、未来を問う

実験は、具体的なモノや技術にとどまりません。8人の個人がプロデュースする「シグネチャーパビリオン」は、これ自体が実験と言ってもいい試みです。

Photo: 小野寺しんいち

AIが浸透していく近い将来、人間がどのように生きていくべきかを問う落合陽一氏による「null²」や、人間とアンドロイドの距離が近くなった時に、人間の「いのち」の可能性はどう拡がるかを考える石黒浩氏の「いのちの未来」など、アート表現を通して人々や社会に疑問を投げかける、実験的な試みも用意されています。

こうした利益性よりも社会性を追求した大規模な挑戦は、まさに万博ならではです。

来場者も実験の参加者。ここは、未来社会の実験場

Photo: 小野寺しんいち

市場の原理に任せることで、イノベーションの加速を促せることもあるでしょう。

ただ、そこにはハマらないけれども、困っている人を救い、人類の未来をより良い方向へ導いていく、そんなテクノロジーもあるかもしれません。利益軸だけでなく、社会意義の軸でもトライアンドエラーができる万博のような場所は、私たち人間社会にとって、とても意義深い機会なのかもしれません。

大阪・関西万博のコンセプトは「未来社会の実験場」です。

特に、社会に開かれている万博は、来場者自身も主体者となり、共に考えられることが特徴です。

実用化できるか、それが本当に商品になり得るのか。わからなくても、地球人の大いなる実験場としてこの場から未来を描く。万博の本質的な価値も、会場内さまざまな場所で模索されていました。

Source: EXPO 2025 (1, 2, 3, 4, 5), 経済産業省, 日経XTECH

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