パウエル議長講演で急伸の米国債相場、雇用・インフレ指標が試金石に

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が22日の講演で9月利下げに道を開いたと受け止められ、米国債相場は急伸した。しかし、9月以降の利下げ幅や国債相場の上昇余地は、経済動向に左右されるとみられる。

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  パウエル議長はワイオミング州ジャクソンホールでのカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(ジャクソンホール会合)で講演し、労働市場のリスクの高まりに言及。「リスクのバランスが変化しており、政策スタンスの調整を正当化する可能性がある」と述べた。利下げのシグナルを強く発した格好となり、国債相場は上昇(利回りは低下)。長短金利差は過去4年で最大に拡大した。これはFRBがハト派姿勢を強める局面で典型的にみられる市場の反応だ。

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  市場には安心感が広がったが、利下げ幅には依然として不透明感が残る。先物市場では、9月連邦公開市場委員会(FOMC)会合での0.25ポイント利下げが確実視されているわけではなく、同利下げ確率は約80%と織り込まれている。米国債利回りは22日に大きく低下したものの、今月に入って付けた水準を下回っていない。投資家は次回会合前に発表される雇用統計やインフレ指標を見極めようとしている。

  こうした比較的抑制的な市場の反応は、FRBが直面する難しい綱引きを映す。労働市場の減速と、トランプ関税によるインフレ再燃リスクとの間でFRBはかじ取りを迫られている。

  今週は、FRBが重視する主要なインフレ指標、7月の個人消費支出(PCE)価格指数が29日に発表される。変動の激しい食料品とエネルギーを除くコア指数の上昇ペースは加速した可能性が高い。2年、5年、7年債の入札では投資家の需要が試されるだろう。また、パウエル議長が政策転換を示唆したとはいえ、昨年の再現となる可能性もある。FRBは緩和サイクルに踏み切ったものの、経済が予想外の強さを示し続けたため、今年1月に利下げを停止した経緯がある。

  PGIMフィクスト・インカムのグレゴリー・ピーターズ共同最高投資責任者(CIO)は「パウエル議長講演で9月の利下げ観測が強まった」とした上で、「今後6カ月の経済情勢は不透明で、強弱入り交じるデータが続くなか、債券市場は神経質な展開を余儀なくされるだろう」と述べた。

  政策金利動向に敏感な2年債利回りは22日、一時11ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余り低下し、雇用統計ショックで8月初旬に付けた水準に迫った。金利スワップ市場では、年内3回の利下げの可能性もわずかながら織り込まれた。  

  これについてナティクシス・ノース・アメリカの米金利ストラテジスト、ジョン・ブリッグス氏は「市場が利下げを織り込むのは適切な反応だ」としながらも、「雇用統計の発表前に2回半を超える利下げを織り込むのは行き過ぎだ」と述べた。

  ブルームバーグのマクロストラテジスト、キャメロン・クライス氏は「9月利下げに道は開かれたものの、まだ確実ではない。中期的な金融政策スタンスは5年前と比べてハト派色が薄れている」と語った。

原題:Bond Market’s Big Powell Rally Needs Supportive Data to March On(抜粋)

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