アップル、中国市場で苦戦 新型iPhone「16e」で巻き返し狙うも課題山積

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米アップルは中国市場でスマートフォン「iPhone SE」の後継機種を発売し、巻き返しを狙う。かつて中国のスマホ市場でシェアトップを誇っていた同社だが、近年は中国勢の猛追に苦しんでいる。特に、vivo(ビボ)や華為技術(ファーウェイ)は、低価格で高性能なスマートフォンを投入し、アップルのシェアを奪っている。

こうした状況でアップルは新型iPhone「16e」を市場投入した。その中国における販売価格は4499元(約9万3000円)から、となる。中国政府は2025年1月20日、6000元(約12万4000円)以下のスマホを対象に、販売価格に対し15%(最大500元)の補助金を支給し始めた。すなわち、iPhone 16eはこの補助金の支給対象になる。これにより同社は、より多くの消費者にiPhoneを訴求する狙いだ。

アップル取り巻く事業環境、中国の景気減速

米調査会社のIDCによると、2024年のビボ、ファーウェイ、アップルのスマホ平均販売価格は、それぞれ、298米ドル、658米ドル、1007米ドルだった。IDCのアナリストは「中国の景気減速により、人々はより安価な選択肢を検討している」と指摘する。

アップルを取り巻く中国の事業環境は厳しいと言われている。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、中国政府は地場企業、特にファーウェイを積極的に支援している。政府や共産党と関係のある組織からの優先購入契約や補助金の形で、数十億米ドル(数千億円)をファーウェイに投入している。

ファーウェイの台頭、中国スマホ市場で4年ぶり首位 アップル3位転落

香港の調査会社カウンターポイントリサーチによると、2024年10〜12月の中国スマホ市場においてファーウェイの販売台数が約4年ぶりに首位に浮上した。ファーウェイは2020年まで首位だったが、米政府による重要部品の輸出規制を受け、下位に後退していた。

ファーウェイは2019年に米政府の技術輸出規制の対象になり、半導体など重要部品の調達制約を受けた。これにより、スマホの生産が減少したほか、低価格スマホ事業の売却を余儀なくされた。その後、部品や基本ソフト(OS)の独自開発を進め、2023年8月に7ナノメートル(nm)技術で製造された半導体を採用したスマホを市場投入した。同社はそれ以降、中国市場で徐々にシェアを伸ばしてきた。

2024年10〜12月におけるファーウェイ製端末の販売台数は前年同期から15.5%増加した。これに対しアップルは18.2%減少し、順位は3位に後退した。

生成AI「Apple Intelligence」の展開に腐心

中国のスマホメーカーは、画像編集ツールや即時言語翻訳などのAI機能を既に展開している。しかし、中国では国外の生成AIが禁止されており、アップルは生成AIサービス「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」を展開できていない。同サービスの機能の1つである米オープンAIのチャットボット(対話型AI)「ChatGPT」も同国で利用が禁止されている。

そこでアップルは中国ネット通販最大手のアリババ集団や中国ネット検索最大手の百度(バイドゥ)と連携することにした。これより、2025年後半にも中国でAI機能の承認を得たい考えだ。

中国は、アップルにとって非常に重要な市場であり、今後の成長戦略において同国での成功は不可欠である。今後の展開に注目が集まっている。

アップルのCEO(最高経営責任者)であるティム・クック氏は先の決算説明会で、「iPhone 16でApple Intelligenceが利用できる市場では、同サービスが利用できない市場に比べて(業績が)好調だった」と述べていた。

筆者からの補足コメント:

Apple Intelligenceは、主に3つのAI機能で構成されており、これらを中国で展開するには相当の調整が必要になると指摘されています。3つとは、①デバイス上で実行されるアップルのAI機能、②アップルのインターネットサーバーで実行されるアップルのAI機能、③米オープンAIのインフラ上で実行されるチャットボット(対話型AI)「ChatGPT」、です。

①については、アリババのソフトウエアが、問題となるコンテンツを検閲する最上位レイヤーとして機能するようです。②の機能の中国版(検閲版)を実現するためには、アリババクラウドなどと連携する必要がありそうです。③のChatGPTは、中国で利用が禁止されているためアップルは、アリババの「通義千問(Tongyi Qianwen)」や百度の「文心一言(ERNIE Bot)」などを代替機能として利用する必要がありそうです。

  • (本コラム記事は「JBpress」2025年3月11日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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