「家畜化」した日本人はリスクをきらって貧しくなった

経済

日本人がこの30年に貧しくなった大きな要因は、資産運用がへただったことだ。家計金融資産のうち預貯金が51%で、保険・年金などが25%。つまり76%がゼロ(マイナス)金利の金融商品なのだ。このようなリスク回避的なポートフォリオは世界にも類をみない(図1)。

図1

10年で資産が4.5倍になるチャンスがあった

2010年代は、資産形成のチャンスだった。株高とドル高が進み、2012年にNYダウのインデックス投信を100万円買っていれば、今ごろ450万円になったはずだ。

トウシル

図2 NYダウ(円建て)

そんな結果論をいってもしょうがない、と思う人が多いだろう。確かに為替相場は結果論だが、株式の収益率が預金より高いことは経済学の教える数少ない実用的知識である。これを平均・分散アプローチと呼ぶが、考え方は単純である。

図3 平均・分散アプローチ

期待リターンの大きい資産(図3の右側)はリスク(標準偏差)も大きい。それに対して個人のリスク選好を無差別曲線で描くと、その接点が資産選択になる。ところが日本人は極端にリスク回避的で、コーナー解で接しているため、最適にならない。

企業も家計もリスクを恐れて「家畜化」した

この原因は、日本人がリスクを避けて家畜化したからだ。動物が集団を形成するとき、狼が犬になるように家畜化する。ホモ・サピエンスの顎の骨は、ネアンデルタール人に比べると小さくなり、他の個体を噛み殺す機能が失われて犬に近くなった。

このように集団で生活する動物が家畜化する傾向は文化レベルでもみられ、集団主義的な文化をもつ民族は対外的な戦争に強く、国家などの大規模な集団を形成しやすい。戦争の少ない定住社会だった日本では、敵をつくらない家畜型の人が生き延びる傾向が強い。

終戦直後の日本人は飢死しないために必死に働いたが、政府が貯蓄を奨励したため、貯蓄率は上がった。低金利の銀行預金のおかげで資本コストが低く、これが戦後の高度成長を支えたが、それが投資過剰となり、不動産バブルが形成されて崩壊した。

その反動で1990年代以降は極端な貯蓄過剰(投資不足)になった。これを政府部門が吸収したため財政赤字が大きくなり、家計貯蓄が国債を支える構造が続いている。労働者は職を失うリスクを恐れ、賃上げを自粛して雇用を守った。

このように企業も家計も家畜化し、リスク回避的になったことが、日本の衰退した原因だというのが拙著で論じた問題である。

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