繁殖期にオスが黄色くなるカエル、メスへのアピールではなかった 驚きの理由が明らかに

 毎年、インドと東南アジアでモンスーンの雨が降り始めると、文字通り輝きを増すヒキガエルがいる。ヘリグロヒキガエル(Duttaphrynus melanostictus)のオスがわずか10分ほどで茶色からレモンイエローに変わるのだ。この変化が2日間にわたる狂乱の繁殖行動と一致することは長く知られていたが、2025年9月2日付けで学術誌「Ichthyology & Herpetology」に発表された論文で、具体的な役割が解明された。 【関連写真】ヘリグロヒキガエルの爆発的繁殖行動の様子  オーストリアの首都ウィーンにあるシェーンブルン動物園の研究者たちは調査のため、3Dプリンターでカエルをつくった。茶色いものと黄色いものを用意し、交尾(抱接)のために集まる本物のカエルの中に配置した。  その結果、オスのカエルは黄色のモデルをほぼ無視したが、メスと思われる茶色のモデルには頻繁に交尾を試みた。モデルの重さ、大きさ、色の彩度など、ほかの要素も変えてみたが、オスが最も引かれるモデルに影響を与える要素は色のほかにないようだった。  研究チームによれば、この結果は、カエルたちが間違いを防ぐため、自らを色分けしていることを強く示唆しているという。ほかの種のオスはしばしば、メスを引き付けるために鮮やかな色を誇示する。ところが、このヒキガエルではそうではなく、オスが信号機のような黄色に変化して、ほかのオスを避けられる信号(シグナル)を送っているという。 「爆発的に繁殖する種では、間違いが頻繁に起こります」と研究を主導したシェーンブルン動物園の研究員ズザンネ・シュテュークラー氏は話す。氏によれば、オスは興奮状態になると、ほかのオスや違う種のヒキガエル、魚、さらには無生物とでも交尾を試みるという。  繁殖期が非常に短いため、カエルたちは素早く交尾相手を見つけなければならない。メスが少ないせいで、激しい競争が繰り広げられる。「密集したストレスの多い環境では、正しい交尾相手を見極めるのが困難なことを示唆しています。体色はおそらく、この問題に対する一つの進化的な解決策でしょう」とシュテュークラー氏。  このような研究は、動物の系統樹における色の進化について、科学者が考え方を改めるきっかけになるかもしれないと、米カリフォルニア科学アカデミーの爬虫類担当学芸員レイナ・ベル氏は言う。ベル氏は今回の研究に参加していない。 「カエルにおけるこの種のシグナリングを証明する研究はこれが初めてではありません。しかし、本当に興味深いのは、鳥やチョウのようなより魅力的な例を含め、私たちがすでに理解していると考えているグループでさえ、色彩シグナルの解釈を変えてしまう可能性があることです」とベル氏は話す。 「研究が進んでいない動物に注目することで、シグナリング全般について、私たちが既知と考えていたことを再評価させる新たな発見が得られるかもしれません」  タコやカメレオンは数秒で色を変えられるが、オスのヒキガエルが完全に黄色くなるには10分ほどかかる。神経で直接制御される皮膚細胞ではなく、ホルモンによって体色変化が引き起こされるためだ。黄色は最大2日間持続し、その後茶色に戻る。  では、どのように色を変えているのだろう? ヘリグロヒキガエルの皮膚の下では、色素胞と呼ばれる特殊な細胞が層になっている。黒い色素を含むものもあれば、黄色や赤色の色素を持つものもある。さらに、3つ目のタイプは小さな鏡のように光を反射する。アドレナリンのようなストレスホルモンがカエルの体に作用し、色素の配置を変え、反射板を傾けるよう仕向けるようだ。  色の変化は、自然界では珍しいオスたちの協力関係のように思われるかもしれない。しかし、ヒキガエルたちは依然として激しい競争状態にある。  すでに交尾しようとしているほかの「オスと彼らは争い、蹴り、追い払おうとします。複数のオスが同じメスに(同時に交尾を)試み、『交尾の塊』を形成することもあります。その結果、メスが溺れることさえあります」とシュテュークラー氏は説明する。  このように、ヘリグロヒキガエルの繁殖は慌ただしく、タイミングが重要だが、気候変動によってさらに緊迫感が増す可能性もある。  モンスーンの季節は数カ月続くが、多くの両生類がそうであるように、ヘリグロヒキガエルはモンスーンに入ってすぐ、1~2日という特定の期間に繁殖する。冬が来る前に、子どもが可能な限り成長し、生存率を高める必要があるためだ。  雨が降り始め、水たまりができると、カエルたちは素早く交尾し、生息地が再び乾燥する前に、オタマジャクシが小さなカエルへと成長する時間を稼ぐ。  しかし、気象パターンが変わり、モンスーンの時期と強さが乱れている。これにより多くの生物種が、もともと少ない繁殖の機会をさらに失う恐れがある。  長い晴天が続く前の短い雨の期間に産卵すれば、「卵はすべて乾燥してしまい、数年間にわたって個体数が減るでしょう」と研究に参加したインド、スリシュティ・マニパル芸術デザイン技術研究所の両生類専門家K・V・グルラジャ氏は述べている。  ヘリグロヒキガエルのような爆発的に繁殖する種が生き残るかどうかは、モンスーンの変化に対応できるかどうかにかかっているのかもしれない。

文=Ashley Balzer Vigil/訳=米井香織

ナショナル ジオグラフィック日本版

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