手足が震え、足が出にくい…増えるパーキンソン病、治療法の進歩で支障のない暮らしも
高齢化に伴ってパーキンソン病の患者が増えている。パーキンソン病になると、動作が緩慢になったり、手足が震えたりといった運動症状のほか、鬱、睡眠障害といった精神症状が現れ、以前は寝たきりになるなど毎日の生活に大きな支障をもたらした。現在は治療法の進歩で支障なく暮らすこともできるようになったが、そのためには早期発見や早い段階からの治療、リハビリテーションが重要だ。
50歳以上の発症が多い
パーキンソン病は脳の中の神経伝達物質であるドーパミンを作る細胞(ドーパミン神経細胞)が減少し、脳からの情報が全身の筋肉に伝わりにくくなるために起きる指定難病。ドーパミンの減少は、ドーパミン神経細胞の中に異常にタンパク質が蓄積することで起こると考えられている。
このタンパク質は加齢とともにたまるようになり、発症する年齢はおおむね50歳以上。日本のパーキンソン病の患者は1000人に1~2人くらいだが、65歳以上になると100人に1人と、高齢になるにつれて発症率は高くなる。厚生労働省の調査によると、平成23年に約14万1000人だった総患者数は令和5年には約25万人になっている。
パーキンソン病の代表的な症状は、手足の動きが遅くなったり、小さくなったりする「動作緩慢」、手足が震える「振戦」、筋肉が硬くなる「筋固縮」。鬱や睡眠障害といった精神症状、便秘や頻尿、多汗といった自律神経症状もみられる。命を落とす直接的な原因にはならないが、放置すれば寝たきりになるなど生活に大きな支障が出る。
治療は主に薬物療法、手術、リハビリの3つ。薬物療法は不足しているドーパミンや、その作用を補う薬を服用する。薬物療法で症状が改善されない場合には手術を行うこともある。リハビリはパーキンソン病と診断されたらすぐに始めることが大切で、有酸素運動やストレッチなどを続けることで、日常生活に支障のない状態を保つことができるようになるという。
患者の8割に便秘症状
加齢が発症リスクになるため予防は難しいが、早期に治療を始めれば運動症状が改善することが明らかになっている。そのためには早期発見が重要で、動作緩慢に加え、振戦、筋固縮のどちらか、もしくは両方がみられた場合はパーキンソン病が疑われる。また、患者の8割に見られるのが便秘で、運動症状の前触れとして起こることもあり、判断材料の一つとされる。
長年にわたりパーキンソン病の研究と治療に取り組んできた順天堂大の服部信孝特任教授は「早期に治療を開始した人と何年も治療をしなかった人を比較した研究では、治療が遅れた人の方が、その後の病気の進行が早いということがわかっている」と指摘。「早期診断、早期治療が重要。治すことはできないが症状は緩和でき、天寿を全うできる」と話す。
服部特任教授によると、パーキンソン病かどうか、発症リスクが高いかどうかを判断できる血液検査を開発中で、早期発見が可能になる日も遠くないという。
似ているけど違うパーキンソン症候群
動作緩慢や振戦といったパーキンソン病と同じような症状がみられながら、別の原因によるものはパーキンソン症候群と呼ばれる。パーキンソン症候群には、細胞や組織が徐々に機能や構造を失っていく進行性の変性疾患と、薬剤の副作用など外部からの要因によって症状が現れる非変性疾患の2つがある。
非変性疾患のうち、原因が薬剤など明らかな場合は投薬を中止することなどが最優先で、これにより症状が改善することもある。脳室(脳の内部)に脳脊髄液がたまって脳を圧迫し、歩行障害などを来す「正常圧水頭症」といった場合は、手術により症状の改善が期待できる。
変性疾患によるパーキンソン症候群の場合は、パーキンソン病と同様に治療は薬物療法とリハビリが基本となる。ただ、パーキンソン病と原因が異なることからパーキンソン病の治療薬は効果が期待できない。 このため、根本的な治療法は現時点では確立されておらず、リハビリなどによる症状緩和が目標となる。服部特任教授は「リハビリなどでなるべく筋肉を使うようにしたり、歩く練習をしたり、そういうことが重要になってくる」と話している。(小島優)