力の誇示に傾くトランプ氏、悲願の軍事パレードも開催-歯止め役不在

トランプ米大統領は不法移民摘発に反対するロサンゼルスの抗議デモに米軍を派遣するとともに、14日には米陸軍創設250周年を祝う盛大なパレードを実施する。これで米軍を使って武力と政治的な権力を誇示するという長年の目標がかなうことになる。

  第1次政権では、米本土への兵士投入に慎重な閣僚らがトランプ氏のこうした野望を抑えてきたが、返り咲き後は従順な取り巻きで周囲を固めており、歯止め役は消えた。トランプ氏は週末に州兵をロサンゼルスに派遣したのに続き、9日には海兵隊員700人の動員を命令。さらに同日夜には、追加で2000人の州兵派遣を承認しており、動員する州兵の数を合計4000人に引き上げた。

  カリフォルニア州のニューサム知事は「挑発行為だ」と強く反発。同州は州兵や海兵隊の派遣は違法だとして提訴に踏み切った。

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  兵士派遣に加え、14日には1期目では実現できなかった悲願の軍事パレードが計画されている。トランプ氏にとっては、移民政策への関心を高め、愛国主義的なムードを盛り上げることで、イーロン・マスク氏との対立や関税権限を巡る司法争いといった目の前の問題から有権者の注意をそらす効果もありそうだ。

  トランプ氏は2期目に入っても過去の慣例を次々と覆しているが、今回の動きは限界をさらに押し広げるものだ。同氏は岩盤支持層の期待に応えることを優先し、ニューサム知事とはあえて対立をあおる姿勢を鮮明にしている。

  トランプ氏は9日、白人警官による黒人男性ジョージ・フロイドさんの殺害を契機に起きた抗議デモを念頭に「私はミネアポリスが燃えるのを目にした」と発言。「われわれは各地で起きた炎上を放置した。政治的に正しくあろうとし、穏便に済ませようとした」と語った。

  だが、返り咲き後は同じ姿勢を取ることを拒否。中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領といった強権的な指導者が好んで使う演出に傾倒する姿勢を示している。中ロ両国とも、戦車や弾道ミサイル、兵士による軍事パレードで武力を誇示することで知られており、歴代の米大統領はこうした行為を不要に好戦的だとして距離を置いてきた。

ロサンゼルスの連邦ビルの前に立つ州兵ら(6月9日)

  トランプ氏の一連の行動に対しては民主党に加え、穏健派の一部からも怒りの声が出ている。同氏が2021年1月6日の連邦議会襲撃事件への関与で有罪となった約1600人を恩赦する一方で、ロサンゼルスの抗議デモに軍を動員したことで、偽善だとの批判も上がっている。

  民主党のロン・ワイデン上院議員(オレゴン州)は「トランプがロサンゼルスを本気で助けたいと思っているかのような振る舞いはやめよう」とソーシャルメディアに投稿。「トランプは米本土に軍を展開し、さらなる対立と暴力をあおろうとしている」と断じた。

  トランプ氏は10日、ノースカロライナ州フォートブラッグ基地を訪問する。同基地の名称は政治的な対立の象徴でもある。バイデン前政権は南北戦争で南部連合軍の将軍だったブラクストン・ブラッグにちなんだ名称を改め、フォートリバティー基地へと変更した。

  だが、ヘグセス国防長官は「ウォーク(社会的正義に目覚めた)」と見なすバイデン政権時代の政策見直しの一環として、同基地の名称を再びフォートブラッグに戻した。ただ、今回は第2次世界大戦で活躍したローランド・ブラッグにちなんだ改名だとしている。

  首都ワシントンで14日に開催される悲願の軍事パレードは、トランプ氏の79歳の誕生日とも重なる。

  トランプ氏は9日、「われわれは陸軍をフラッグデー(星条旗制定記念日)に祝う。私の誕生日ではない」と発言。「確かに私の誕生日だが、それを祝うのではなくフラッグデーを祝う。たまたま同じ日に重なっただけで、少し批判も受けるが、フラッグデーは適切な日だ」と述べた。

  陸軍関係者によれば、この大規模な記念行事は、トランプ氏の大統領返り咲きとは関係なく、陸軍創設250周年という節目を踏まえて企画されていた。軍事パレードの費用は、現地のインフラ損傷の可能性も含めて最大で4500万ドル(約65億円)に上ると試算されている。

「インベスト・アメリカ」ラウンドテーブル会議に出席するトランプ氏(9日)

原題:Unrestrained Trump Turns to Military in Second-Term Power Play(抜粋)

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