35はレーダー未搭載機、TR3完成も遅延
F-35 Block4の新型レーダー(AN/APG-85)は強引な開発スケジュールが破綻し、秋以降に納入される米軍向けの全F-35はレーダー未搭載機になり、戦闘能力を備えたTechnology Refresh3のソフトウェア完成も2025年春から2026年夏にずれ込み、F-35を取り巻く状況は混沌としている。
参考:Air Force Plans $1.7 Billion Retrofit Of APG-85 Radar On 181 F-35As In Lot 17 And Prior
F-35 Block4を完成させるには「Block4のソフトウェア」「システムインフラストラクチャーを刷新するTechnology Refresh3」「F135の能力を強化するEngine Core Upgrade」「電力・冷却システムを改良するPower and Thermal Management System」の4要素、さらにAN/APG-85への換装、AN/ASQ-239、EOTS、DASの強化、ウェポンベイへのサイドキック搭載なども必要で、現時点で完成しているのはAN/ASQ-239のアップグレードとサイドキックぐらいしかなく、TR3はLot15から量産機への組み込みが始まっているもののソフトウェアが未完成だ。
出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus
Block4のバックボーンとして機能するTech Refresh3問題の中身に言及すると話が長くなるので割愛(詳しく知りたい方は過去記事を参照)するが、現在生産されているTR3を組み込んだF-35は「戦闘能力を除外した暫定バージョン」のソフトウェアで作動しており、Lockheed Martinは戦闘が可能な完全バージョンのリリース時期について「1年以上先=2025年春以降になる」と予想していたものの、2025年1月「リリース時期は2026年にずれ込む」と言及。
2026年夏以降に完全バージョンの運用テストが始まるため、まだまだ完全バージョンの承認や実装は当分先の話で、戦闘能力を除外した暫定バージョンで動くTR3構成機は現在も米軍、同盟国、パートナー国に納入され続けているが、米軍はAN/APG-81からAN/APG-85へのシームレスな切り替えに失敗し、2026年秋以降に納入される全機体がレーダー未搭載になるという問題も抱えている。
出典:Northrop Grumman AN/APG-81
この問題を真面目に書くと非常に複雑なので割愛(詳しく知りたい方は過去記事を参照)するが、簡単にいうとノースロップ・グラマンは「Lot17(2025年から始まる生産ブロックのこと)からのAN/APG-85組み込みは無理だ」と警告していたにも関わらず、F-35JPOとロッキード・マーティンは警告を無視してタイトな開発スケジュールを維持したが、ロッキード・マーティンも2025年「AN/APG-85には遅延のリスクがある」「Lot20生産機に向けて現実的な選択肢を提供するため積極的な措置を講じている」「設計チームは2025年1月に新しい機体の設計を開始した」と言及。
F-35のレーダーマウント・バルクヘッドはAN/APG-81とAN/APG-85の両方に対応しておらず、米海兵隊はF-35BへのAN/APG-85導入のためLot17でAN/APG-85対応のマウント・バルクヘッド機を発注したものの、AN/APG-85が搭載可能になるのは2029年1月頃(Lot21)で、Lot18では米空軍向けF-35A、米海兵隊向けF-35B、米海軍/米海兵隊向けのF-35CもAN/APG-85対応のマウント・バルクヘッド機に切り替わるため、2026年秋以降に納入される米空軍向けの全機体はレーダー未搭載になる。
出典:Lockheed Martin
この問題を議会が追求したためAN/APG-85納入が2028年4月に前倒しされる見通しだが、約2年間の間に納入される米空軍向けの全機体は依然としてレーダー未搭載で、AN/APG-85の問題を最初に報道したDefense Dailyは6日「米空軍は2027会計年度将来防衛計画(FYDP)の中でLot17以前の機体181機にAN/APG-85を搭載するための改修費用17.3億ドルを計上する方針を示した」「FYDPによればFY2031に14機分の改修費用として1.3億ドルが計上され、AN/APG-81からAN/APG-85への改修費用(レーダー本体を含む)の平均単価は950万ドル=約14.8億円だ」「残りの167機の改修費用として16億ドルを費やす予定だ」と報じた。
米空軍のFY2027調達予算文書によればAN/APG-85の量産単価(2年分の先行調達資金を含む)は約880万ドル=約13.8億円で、レーダーはエンジンと同様に政府支給装備として納入されるため、AN/APG-85の調達コストはロッキード・マーティンから購入するF-35の機体単価には含まれない。
出典:Marine Corps photo by Lance Cpl. Joseph E. DeMarcus
ロッキード・マーティンはAN/APG-81が間に合わないリスクを軽減するため、AN/APG-81とAN/APG-85の両方に対応したデュアル・マウント・バルクヘッド機の生産をLot20から開始する予定で、米軍発注のLot20向けにAN/APG-81の調達も開始し、もしLot20にAN/APG-85が間に合えば調達したAN/APG-81はスペアパーツとして活用され、ノースロップ・グラマンはリスク軽減策にかかる費用の25%を負担させられている。
ちなみに、Defense Dailyはレーダー未搭載について過去「飛行中のバランスを保つため機首に重りを追加する必要がある」「レーダー未搭載機もデータリンクを備えたAN/APG-81搭載機が随伴すれば飛行可能」と報じ、下院軍事委員会の戦術航空・陸上部隊小委員会で委員長を務めるロブ・ウィットマン議員も「現在のところAPG-85搭載機はバラストを積んで生産される予定だ」「これにより当面は戦闘任務に就けない機体を生み出すことになる」と述べ、別の関係筋も「飛行可能な機材として使用できても戦闘任務に適した機材ではない」「そのため制限された訓練にしか使用できない」と明かしていた。
出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Eduardo Otero TR2仕様のコックピット
この件についてDefense Dailyは「レーダー未搭載機もデータリンクを備えたAN/APG-81搭載機が随伴すれば飛行可能だが、このような運用はF-35の高度なセンサーフュージョン機能をもってしても問題が多く、1機のみがレーダーを有する編隊ではゴースティング現象が増加する」「ある戦闘機パイロットはレーダー未搭載機について訓練任務に参加可能だが、演習中におけるパイロットの学習効率が低下し、演習全体においても重大な能力低下が生じる」と指摘。
“パイロットにとってレーダー操作は覚えなければならない重要なツールだ。レーダーが欠けている機体のソフトウェアに代替シミュレーターを組み込む予定があるのかは分からない。どちらにしてもレーダー未搭載のF-35は部隊全体の戦闘能力に重大な影響を及ぼし、私の見立てではレーダー未搭載機は海外や作戦地域への展開に100%不向きだ。最終的に基準を下げて運用せざるを得ない状況になるかもしれないが、レーダーは攻撃や防御だけでなく飛行中の安全にも不可欠なので、かなりの戦闘損失が発生しない限りそうした妥協はしたくない”
出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Andrew Lee
要するに「センサーフュージョン機能があるからレーダー未搭載でも役に立つはず」というのは幻想に過ぎず、現役パイロットが「演習に参加することは可能でも、パイロットの学習効率や演習全体の能力に問題がある」「海外や作戦地域への展開などもってのほか」「かなりの戦闘損失が発生しない限り妥協=運用基準の引き下げはしたくない」と述べているので、TR3のソフトウェア問題と合わせて米軍向けのLot17~Lot20生産機は両問題が解決するまで高価なカカシといっても過言ではないかもしれない。
念の為言及しておくが、AN/APG-85は輸出許可が下りていないため、F-35プログラム参加国やFMS経由でF-35を購入するパートナー国に影響を及ぼさない。TR3のソフトウェア問題はF-35プログラム参加国やFMS経由でF-35を購入するパートナー国に影響を及ぼしている。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Jana Somero