〈目撃〉ボノボが「ごっこ遊び」、何かのふりがわかると判明 注ぐまねのジュースを認識

 現実ではない状況をよそおったり想像したりする能力はヒトにしかないように思われるかもしれない。しかし新たな研究により、私たちに最も近縁のボノボ(Pan paniscus)も、想像上のモノの概念を理解できることが明らかになった。 【動画】「ごっこ遊び」を理解するカンジ  研究者たちは、カンジという名のボノボを使って一連の「お茶会ごっこ」実験を行った。カンジは言語訓練を受けたボノボで、2025年に死亡するまで、数十年にわたって科学的知識を提供してきた。2026年2月5日付けで学術誌「サイエンス」に発表された論文は「ごっこ遊び」で想定されたモノをカンジが一貫して理解できたことを明らかにしている。  今回の発見は、少なくとも一部の霊長類が、想像力を働かせて世界を見る能力を持っている説得力のある証拠だと科学者たちは述べている。 「この実験は、豊かな精神生活を持つ動物は人間だけではないことを示しています」と、論文の最終著者である米ジョンズ・ホプキンス大学の進化認知科学者のクリストファー・クルペンイェ氏は説明する。ボノボは生息地のコンゴ民主共和国で絶滅の危機に瀕しており、「こうした発見を通じて、人々がボノボの保護に関心を持つようになることを願っています」とも氏は言う。

 人間の子どもたちは、ごっこ遊びを通じて自分の想像力を試すようになる。目の前の現実とは異なる「二次表象」と呼ばれる想像上の状態を思い描いたり、これに入り込んだりする遊びだ。  研究者たちは長年、想像上のシナリオを編み出せるのは人間だけだと考えてきた。  一方、正式な実験ではないものの、科学者たちはこれまでに、飼育下の幼いチンパンジーが床の上で想像上のブロックを押す様子や、野生のメスのチンパンジーが乳児を抱くように棒や丸太を抱く様子を観察してきた。しかし、英セント・アンドリューズ大学の比較心理学者で、論文の筆頭著者であるアマリア・バストス氏は、こうした特異な行動が正式に調べられることはこれまでなかったと言う。  そこで氏のチームは、類人猿が単に模倣をしたり研究者の指示に反応したりするのが得意だと示唆しているだけなのか、それとも、実際に何かの「ふり」をしているのかをはっきりさせたいと考えた。  バストス氏らは、その答えを伝説的なボノボ、カンジに求めた。カンジは1980年に米エモリー大学のヤークス・フィールド・ステーションで生まれ、その後ジョージア州立大学に移り、2005 年にアイオワ州の霊長類イニシアチブ研究センターに移った。  カンジは2025年3月に死去したが、その44年の生涯の中で、霊長類の認知能力、初期の道具作り、言語の進化的起源について、画期的な科学的知識をもたらした。「この分野においてカンジは本当に特別な存在で、私たちは彼に魅了されていました」とバストス氏は語る。  この聡明なボノボは、言語による指示に応答したり、「レキシグラム」(意味を表す抽象記号)や指差しを通じて研究者とコミュニケーションをとることさえできた。カンジはこの実験にとって理想的だった。「私たちは、幼児の想像力を測るのとほとんど同じ方法で彼をテストすることができました」とクルペンイェ氏は言う。このときカンジは43歳だった。  研究チームがカンジに対して行った「お茶会ごっこ」実験はこうだ。  研究者の1人がテーブルを挟んでカンジの向かい側に座り、空のピッチャー1個と透明なコップ2個をテーブルに置く。科学者はまず、ピッチャーから2個のコップにジュースを注ぐふりをし、続いて、一方のコップの中身をピッチャーに戻すふりをした。それからカンジに、「ジュースはどこ?」と尋ねた。  するとカンジは、正答率68%で仮想のジュースが入っている方のコップを指さすことができた。  想像上のジュースが注がれたコップに実際にはジュースが入っていないことをカンジが本当に理解しているかどうかを確かめるため、研究者は第2の実験を実施した。想像上のジュースを注いだ空のコップと本物のオレンジジュースが入っているコップから、ジュースが入っているコップを選ばせたところ、カンジは常に本物のジュースが入っている方のコップを選んだ。  第3の実験では、第一の実験と同様に、研究者が想像上のぶどうを2本の広口瓶に入れるふりをし、続いて、一方の広口瓶の中身を取り出すふりをして、ぶどうが入っているのはどちらかとカンジに尋ねた。すると正答率69%で正しい方の広口瓶を指さした。  この実験では、カンジの正答率は100%ではなかったが、ジュースとブドウという異なる種類の想像上のモノの行方を一貫性をもって追跡できたことは、彼が現実にはないモノを識別する能力を持っていたことを示しているとバストス氏は言う。

ナショナル ジオグラフィック日本版

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