宇宙最初の化学反応を再現したら、星が生まれる仕組みが新たに判明
ドイツの研究者たちが挑んだのは、星の誕生に欠かせなかった分子の化学反応を人工的に再現するという実験。
初期の宇宙がどのように冷え、星が生まれたのかという長年の謎に迫る新たな発見がありました。
宇宙で最初にできた分子「ヘリウムハイドライド」
約138億年前に起こったとされるビッグバンの数秒後、生まれたばかりの宇宙で最初の元素である電離した水素とヘリウムが結びつき、「ヘリウム水素分子(ヘリウムハイドライド)」と呼ばれる分子が誕生しました。
その後、最初の星が誕生するのは、それからさらに数億年後。星がどうやってできたのか、そしてその過程でどんな化学反応が起きていたのかは、科学者たちの長年の謎のひとつでした。
この星の起源にまつわる謎を解明しようと、ドイツ・ハイデルベルクにあるマックス・プランク核物理学研究所の科学者たちは、実験室でヘリウムハイドライドの再現に取り組み、無事成功。この分子が星の誕生において、これまで考えられていた以上に大きな役割を果たしていた可能性を発見しました。
ヘリウムハイドライドは、星の材料となるガス雲が冷えて収縮するのを助けていたのです。
初期宇宙の化学を見直す発見
2025年7月24日付で学術誌『Astronomy & Astrophysics』に掲載された内容によると、まず研究チームは、「ヘリウムハイドライド」と「重水素」との衝突を再現。重水素とは、水素の一種で、中性子を1つ持っているのが特徴です。この実験は、これまでに例のない新しいものだといいます。
研究結果によると、この反応速度は温度が下がっても一定に保たれることが分かりました。これは従来の研究と矛盾する結果なのだとか。
マックス・プランク研究所の研究者で本研究の筆頭著者であるHolger Kreckel氏は、次のように語っています。
従来の理論では、低温になるにつれて反応の確率は大きく低下すると予測されていましたが、我々の実験でも、理論計算でもそのような傾向は確認できませんでした。
ヘリウムハイドライドが中性の水素や重水素と反応することは、これまで考えられていた以上に、初期宇宙における化学反応において重要だったようです。
宇宙に星を生む「冷却材」
ヘリウムハイドライドが関わる2つの化学反応によって、「分子状水素(ぶんしじょうすいそ)」が生成されます。これは、初期宇宙での恒星の形成を促したと考えられています。
1つ目の反応では、重水素がヘリウムハイドライドとぶつかることで、「水素重水素分子(HD)」ができます。これは水素原子と重水素原子が結びついた分子です。2つ目の反応では、ヘリウムハイドライドが普通の水素原子(中性の水素)とぶつかって、「中性の分子状水素(H₂)」ができます。
これらの分子状水素は、いずれも「冷却材(クーラント)」として働きます。これが星の材料であるガス雲が熱を放出し、冷えて収縮するのを助ける役割を果たし、その結果ガス雲がやがて星になるのです。
実験はどのように行われた?
今回の実験では、マックス・プランク研究所にある「極低温蓄積リング(Cryogenic Storage Ring)」を使用。この装置を利用し、宇宙のような低温環境を再現し、実験を行なっています。
研究チームは、摂氏約マイナス267度の極低温の中で、ヘリウムハイドライドのイオン(電気を帯びた粒子)を最大1分間保存し、そこに中性の重水素原子をビームとしてぶつけ、2つの粒子の速度を調整することで、温度と衝突の関係を詳しく調査したのだとか。
これまでの考え方では、温度が低いほど化学反応は起きにくくなるとされていましたが、今回の研究結果では、温度が下がっても、反応の速さはほとんど変わらなかったのです。
この発見は、「ヘリウムハイドライドは、非常に冷たい宇宙環境でも化学的に活発に動く」ということを示しています。研究者たちは、これを受けて「宇宙初期のヘリウムの化学反応について、理論を見直す必要がある」と指摘しています。