人工知能を使った論文は、どこまで開示が必要か?
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4月24日号のNature誌のNews欄に「Science sleuths flag hundreds of papers that use AI without disclosing it」という記事が出ている。科学探偵がAI(人工知能)を利用しているにも関わらず、それを開示していない数百の論文を見つけたという記事だ。
生成AIが利用されるようになって2年以上が過ぎた。英語の論文を執筆する際に、ChatGPT-4などを利用すると格調の高い文章にしてくれるので、利用者は増えてきている。生成AIには決まった言い回しがあるようで、利用痕跡はプログラムを使うと簡単にわかるようだ。出版後にこっそりとAI利用の痕跡を消していた雑誌もあるようで、これを科学の尊厳を損なうと批難していた。
お金を払って英文校正をしてもらっている研究者は少なくない。AIに英文校正してもらうのと、人間に校正してもらうのとどこが違うのかと思う。マイクロソフトのワードを使っていても、より適切な言い回しを提示してくれる。
研究の立案まで人工知能にしてもらっているなら別だが、統計解析など多くの場合ソフトに頼っているのだから、人工知能だからといって特別なわけでもない。共同研究として統計学者に依頼するのと人工知能に依頼するのとどこが違うのか?
より適切な表現を生成AIに指導してもらうことなど、非英語圏の研究者にとっては重要だ。アジア人の著者というだけで、有料で英文校正をしてやるがどうだと高圧的に言ってきた雑誌もあった。
私は、30年以上、誰の助けも借りずに論文を執筆・校正していたが、特に問題になったことはない。しかし、かつての部下たちからの推薦状を書いて欲しいという依頼に対して、GPT-4 に頼ってみた。書類作成のあまりの多さに閉口して、どの程度のものかを試してみたのだが、GPT-4に被推薦者の要点を入れるとエレガントな文章を書き上げてくれたことに驚いた。
冒頭のNews欄にはAIを利用した場合には、透明性をもって正直に書くべきだと強く主張していたが、もちろん、推薦状に生成AI作成とは書かない。
学生がレポートを、人工知能を使って作成し、教授が人工知能を使ってそれを採点するという漫画的な世界がそこまで来ている。実力を調べるには、教室で監視下にレポートを書かせる、あるいは、対面で口頭試験をして学生を評価するというアナログな世界に戻るしかない。面倒くさい世の中になってきたものだ。
人工知能をどのようなルールで利用していくのか、もっと議論があってもいいと思うが、アナログの時代を生きてきたわれわれと、デジタルの時代を生きてきた若者たちとは、価値観が大きく異なる。答えは見つからないが、人を鍛え、育てることがだんだんと難しくなってくる。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。