なんと、その数「10万超」…じつに「日本全土」を埋めつくしているネットワーク「三角点」。その標(しるし)にひそむ「壮絶な物語」(藤岡 換太郎)

宇宙で唯一の生命を育んだ「海」、あたりまえのようにそこにある「山」、そしてミステリアスな「川」……。地球の表情に刻まれた無数の凹凸「地形」。どうしてこのような地形になったのかを追っていくと、地球の歴史が見えてきます。 

「地球に強くなる三部作」として好評の『 川はどうしてできるのか 』『 海はどうしてできたのか 』『 山はどうしてできるのか 』を中心に、地形に関する選りすぐりのトピックをご紹介します。 

今回は、 山の高さを決める測量についてのトピックをお届けします。山登りで登頂の証にする方も多い三角点。じつは、近代日本の測量技術のドラマが詰まっていました。

*本記事は 川はどうしてできるのか 』『 海はどうしてできたのか 』『 山はどうしてできるのか (講談社・ブルーバックス)の内容を、再構成・再編集のうえ、お届けします。 

山の高さはどう測る…日本の高さの原点「水準原点」

山の高さはどのように測られているかを見ていきましょう。

陸上にある山の高さは海面を基準にして計測しています。日本の場合は「東京湾の平均海面からの高さ」と決められています。これは明治時代に陸軍測量部が数年間にわたって観測して決めたものです。海面は風や波、潮汐(ちょうせき)などによって時々刻々と変化するので、長期間にわたって繰り返し測量し、その平均を求める必要があります。

最初は隅田川の河口にある霊岸島 (現在の東京都中央区新川) を基準原点としていましたが、河口では測量に何かと不便なので陸に置いたほうがいいということになり、三宅坂にある陸軍測量部の中に置かれました (現在の国会前庭北地区の憲政記念館構内) 。ここが海抜24.5mになります(東日本大震災の影響で2011年10月21日に24.39mに改定)。

日本水準原点。年に1度公開される photo by 作者: kazu_m49

日本の地形の高さは、この基準原点をもとに、次々と基準点をふやしていくことで測定されているのです。

1等で973点、4等まで含めるとなんと10万以上ある「三角点」

1つの基準点が決まると、これをもとにした水準測量が始まります。基本的には高校で習う三角関数を使う三角測量という方法で求めていきます。その測量機器はトランシットと呼ばれ、水平角(平面における角度)と鉛直角(空間における角度)の両方を測ることができます。

基準点ではまず、その場所における水平を水準器で決めて、トランシットを用いて目標とする地点までの平面や空間での角度を精密に測ります。

次に、その目標点までの水平距離を正確に測ります。こうして目標点が新たな基準点として定められます。

このような測量を次々と繰り返し、日本全国を三角形のネットワークで埋め尽くしていくのです。

基準点は「三角点」といって、目印として四角い花崗岩が埋められています。三角点は高さによって一等三角点から四等三角点までの区分があります。全国に一等三角点が973個、二等三角点から四等三角点までは約10万点設置されています。これらの三角点は5万分の1地形図などに三角や点の記号で書き込まれています。なお、火山の噴火や地震による大きな地殻変動などが起こった場合は測定をやりなおします。

*参考:国土地理院による三角点の解説

宮古島の1等三角点 photo by gettyimages

物理学者で随筆家の寺田寅彦(てらだ・とらひこ)は、随筆『地図を眺めて』の「当世物は尽くし」で「安いもの」のひとつに5万分の1の地形図をあげています。コーヒー1杯の値段で手に入るのに、きわめて情報量が多いことからです(現在では地形図よりコーヒーのほうが高くつきますが)。

確かに地形図には大変な量の情報が盛り込まれています。地形図1枚を十分に読みこなすことができれば、その場所の風景が目に浮かぶようになります。

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