【解説】コーミー元FBI長官の起訴、トランプ氏が強く要求 ただし大統領自身の言動が逆効果に?
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トランプ米政権が連邦捜査局(FBI)のジェイムズ・コーミー元長官を議会への偽証と司法妨害の罪で起訴した直後、ドナルド・トランプ大統領は長年にわたり敵対してきたコーミー氏の起訴を称賛し、元長官が「幅広く嘘をついた」とソーシャルメディアに投稿した。
他方、今回の起訴についてトランプ氏が発言した内容と、起訴確保のために司法省に公然と圧力をかけ続けたことが、起訴内容の説得力を損ない、有罪判決の獲得を難しくした可能性があると、複数の元連邦検事たちが指摘している。
元検事たちは、トランプ氏がコーミー氏を公然と攻撃したことや、起訴に至った異例の経緯が、司法手続きの公正性に疑念を生じさせ得ると話す。
「これはひたすら、大統領の政敵を重罪で起訴するという、その目的だけのために、性急に裁判所へ持ち込まれたように見える」。首都ワシントンで連邦検察官を30年間務めたケヴィン・フリン氏はこう言う。
コーミー氏に対する起訴状はわずか2ページの短い文書で、詳細な情報がほとんどない。そのためこの起訴状から、嫌疑の確かさや証拠の内容を精査するのは難しい。
場合によっては起訴状が簡潔なこともあるにはあるが、これほど政治的に注目される案件で、起訴状がこれほど簡略なのは「異例というだけでは済まされない」と、ジョージ・W・ブッシュ政権下でフロリダ州南部地区の連邦検事を務めたマルコス・ヒメネス氏は話す。
政府がコーミー氏を有罪にするには、コーミー氏が議会に対して故意に虚偽の陳述をしたと、合理的な疑いを超えて証明しなくてはならない。そのためには、証人の証言や文書やその他の決定的な証拠によって、コーミー氏が議会を欺いていたと陪審に示す必要がある。
「しっかりした偽証事件には裏付けが伴うものだ」と、フリン元検事は言う。
連邦検察官は25日、大陪審に対し、コーミー氏を3件の罪状で起訴するよう求めたが、陪審は起訴に相当する証拠が十分にあるのは罪状2件についてのみだと判断した。大陪審の審理は非公開で、記録も封印されるため、元長官の起訴にあたってどのような証拠が検討されたのかは限られた人にしかわからない。
ヒメネス元検事は、大陪審を説得するのに必要な証拠の確かさの基準は、公判で求められるより基準よりも低いと説明。「大陪審のレベルでは『この出来事が起きた可能性があるかどうか』が判断基準になる」のだという。
コーミー元長官ほどの高官経験者の起訴は異例だが、コロンビア大学ロースクールのアンマリー・マカヴォイ教授はBBCに対し、議会に対する虚偽陳述や議会調査の妨害で、公職者が起訴された前例はあると話した。教授はさらに、有罪判決の可能性はあるものの、難しい展開になる可能性があると述べた。
コーミー氏は、FBI捜査の関連情報を報道機関にリークすることを許可したかどうか、2020年の議会公聴会で尋ねられた際、これを否定したことが虚偽陳述にあたるとして起訴された。
マカヴォイ教授によると、「もしも、誰かが『自分は確かにジェイムズ・コーミーから情報を受け取った』と証言するのなら、検察側には起訴の根拠がある」のだという。
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コーミー元長官の起訴に至る1週間、トランプ氏は自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、コーミー氏や他の政敵の起訴を公然と要求していた。
ヴァージニア東部地区の連邦検事は、コーミー元長官を起訴することを拒否して辞任した。トランプ氏はその後、側近のリンジー・ハリガン氏をこの連邦検事に指名。このハリガン氏が、コーミー元長官の起訴を主導した。
複数の法律専門家はBBCに対し、トランプ氏の行動が元長官側に、政府側の行為は選別的または報復的な起訴に相当すると主張する余地を与えたと指摘。元長官はこれを根拠に、訴訟を退けるよう求める根拠を得た可能性があるという。
コーミー元長官の起訴後、トランプ氏はトゥルース・ソーシャルで元長官を「汚い警官」と呼び、偽証だとされる行為について「大きな代償を払うべきだ」と書き込んだ。
これに先立つ9月20日には、大統領は複数の政敵に対して法的措置をとるための「動きが何もない」とする長文を投稿。コーミー元長官を含む政敵たちは、「とんでもなく有罪だ」と断じていた。
米ヴァンダービルト大学ロースクールのジェフリー・ベリン教授は、「検察にとって、大統領のソーシャルメディア投稿や発言は、法的にも実務的にも大問題だ」と話す。
「外から見ると、この起訴は大統領の直接の要求によって、プロの検察官の反対を押し切って、政敵に対して行われたように見える。しかもそのやりとりは全て、公衆の面前で起きている」
「これは復讐ではなく正義だ」。大統領は26日、ホワイトハウス記者団の質問に答えて言った。