地球の周りで稼働する人工衛星のリミット、2050年までに超えるかも

Image: Albert89 / Shutterstock

宇宙のイメージが強くて忘れちゃいそうですけど、地球の軌道は有限なんですよね。

いま地球の上空には、1万2000基近い人工衛星が飛び交っているといいます。過去5年で地球を周回する人工衛星の数が2倍以上に増えるなど、今後も増加は続くと考えられており、専門家はその影響を懸念しています。

低軌道で安全運用できる衛星の上限は10万基

専門家によると、地球の低軌道(高度約2,000km)で安全に運用できるアクティブな人工衛星の上限は10万基程度だといいます。

この数を超えると、宇宙ごみのドミノ倒しが始まって、最悪の場合、軌道を使えなくなってしまうおそれがあるそうです。

よくないことに、いまのペースで人工衛星が増え続けると、2050年までにその上限を超えてしまうかもしれないのだとか。

地球のサイズや周回軌道の高さの幅を考えると、10万基くらい余裕で、まったく混み合わないんじゃないかって思いませんか?

地球上で10万人が散り散りに生活していたら、ほぼ出会う機会がなさそうとか、10万匹しか生息していない動物に偶然出くわすとか、起こりそうにないことを想像してしまうので、だだっ広い空にたった10万基しか衛星がいちゃいけないのかと思ってしまいました。

地球周回軌道には1万1700基の衛星が飛び回る

さて、地球の軌道上には、2025年5月の時点で約1万1700基の稼働中の人工衛星が周回しているそうです 。これも意外に少ないと感じました。

近年に増加した人工衛星の約60%を、SpaceX(スペースX)が運用するインターネット通信衛星のStarlinkが占めていて、2019年以降にStarlinkだけで7,500基が打ち上げられたといいます。

過去を振り返ると、20世紀後半から2010年代前半までは、年間60~100基の衛星が打ち上げられていましたが、その後、2020年までに年間1000基以上の衛星が宇宙へ送り込まれるようになりました。

2021年9月には、周回軌道上の衛星が8,000基近くに達し、それから3年8カ月後の今年5月には1万2000基に手が届くところまできました。この期間で衛星の数が1.5倍に増えたことになります。

2024年に打ち上げられたロケットは259基にのぼり、4年連続で最多記録を更新しているそうです。だいたい1日半に一度ロケットが打ち上げられている計算になります。

昔と比較してなぜこんなに人工衛星が増えているのかというと、再使用型ロケットの技術革新によって毎回新規のロケットを用意する必要がなくなり、コストも低くなり、より頻繁に打ち上げを実施できるようになったとのことです。

こういった技術の進化に伴って、メガコンステレーションと呼ばれる大規模な人工衛星群の打ち上げが可能になったこともあって、再使用型ロケット「ファルコン9」を使用しているSpaceX以外にも、Amazon(アマゾン)や中国も同様にメガコンステレーションを計画しているそうです。

つい最近も、近い将来の宇宙事業への進出を目指して、まだ小規模ながらホンダが再使用型ロケットの離着陸実験を行ない、成功をおさめています。こちらは衛星の打ち上げや輸送の持続可能性を高めたいとの思いから取り組みを始めたといいます。

メガコンステレーションが衛星を増やす

数百基規模の衛星からなるメガコンステレーションが「人工衛星10万基超え阻止」を妨げる大きな壁になって立ちはだかっています。2023年の研究結果によれば、すべての計画が実現するとは考えられないものの、300件のメガコンステレーションが計画されており、すべての計画が実施されれば100万基以上の衛星が打ち上げられることになるといいます。

宇宙が身近になったことから、人工衛星が放つ光を利用して低軌道上に広告を出す計画を立てる企業や、宇宙広告事業を計画する企業も現れています。地上で行なわれているドローンによるショーを宇宙空間でやろうとしているわけです。

また、Starlinkとは別のスタートアップ事業が、宇宙携帯基地局を展開するために、低軌道を周回する商業用としては過去最大の人工衛星を5基打ち上げましたが、計画通りに進めば規模はさらに大きくなりそうです。

衛星が増えすぎる弊害

人工衛星の増加によって、宇宙ごみと、天文学研究の妨害という2つの大きな問題が懸念されています。

運用を終えた人工衛星は大気圏に再突入して燃え尽きますが、軌道上を漂流し続けて宇宙ごみを生み出すものもあります。

こうしたゾンビ衛星が増えると、そのうち衝突が起こったり、分解してバラバラになったりしながら、小さな宇宙ごみが増えてさらに衝突を繰り返す負のループに陥る可能性があるといいます。

欧州宇宙機関(ESA)は、今年3月に発表した報告書で、現在の運用を続けると、宇宙ごみの密度が高くなりすぎて、一部の軌道領域が使用不能になるおそれがあると指摘しています。

ESAによると、通常、大きな宇宙ごみは1年に4~5回の頻度で破損しながらバラバラになっていくそうです。つまり、いますぐに人工衛星の打ち上げを完全にやめたとしても、宇宙ごみは増え続けることになります。

もうひとつの問題は、地上で行なう天体観測への影響です。先述の宇宙広告や宇宙携帯基地局、Starlinkなどの人工衛星群が放つ強い光は、天体観測の妨げになっています。

宇宙広告に対しては、アメリカ天文学会が禁止するよう求める声明を発表し、「国際条約や協定、法律によって禁止されるべき」と、世界規模での禁止を呼びかけています。

空には国境も壁もないため、見える範囲に住む人々は影響を受けてしまいます。一国や一部の地域だけが禁止しても意味がないんですよね。

SpaceXは、地上からの天体観測で画像に人工衛星が映り込むのを極力避けるためにと、Starlinkが周回する高度を下げていますが、数が増え続けたら映り込む可能性も大きくなると思われます。変えなきゃいけないのは高度だけじゃないような。

研究者や研究機関にとって、人工衛星に天文学分野の発展を妨げられるのは問題ですけど、個人レベルで天体観測をしている人たちにとっても、望遠鏡に映し出される光が天体じゃなくて人工衛星だらけになったりしたら、趣味として楽しめなくなると思うんですよね。見たことない星かとワクワクしたら実は人工衛星だったとか、ガックリじゃないですか。

国際的なルールづくりが必要

宇宙事業の多くは、複数の競合企業が同じ目的で衛星を打ち上げているため、企業同士が協力しあって衛星の数を抑える努力をすれば、10万基の上限を超えないんじゃないかと考える専門家もいるようですが、企業は利益を追求するので、譲りあいを期待するのは難しいでしょう。

ESAは、2030年までに同機関のミッションによって地球と月の軌道の宇宙ごみを大幅に削減するために、運用終了後の地球再突入や安全な軌道への移動の高確率での保証、地球軌道上に滞在する時間の大幅な削減、軌道内での破壊や、衛星の損壊や機材・部品の放出防止などの対策をまとめた「Zero Debris approach(ゼロ・デブリ・アプローチ)」と呼ばれるガイドラインを公表しています。

ESAのような宇宙機関が宇宙ごみを減らす影響は決して小さくありませんが、単独で行なう「努力目標」だけでは不十分でしょうし、せめて民間事業主体にもESAのガイドラインに沿った行動を求めないと、衛星の打ち上げに比例して宇宙ごみも急激に増え続けると思われます。

それに、地球上で起こっているプラスチックなどのごみ問題もそうなのですが、ごみを減らすためのもっとも効果的な対策は、ごみになりそうなものを増やさないことなんですよね。

そうなると、いますぐ一気に変えるのは現実的ではないとしても、少しずつ宇宙事業を持続可能にしていくために、国際社会が話し合ってルールづくりをするのが最善策なのではないでしょうか。

これまでと同じように、運用が終わった衛星をいつまでも漂流させていると、半世紀以上たってから謎の信号を送りつけられて、なんじゃこりゃって慌てることになりますよ。

Source: Live Science

Reference: Live Science (1, 2), The Conversation, Falle et al. 2023 / Science, ESA (1, 2)

関連記事: