科学者たちが「放射性廃棄物」を核燃料に変える大胆な計画を提案
核融合の研究は近年めざましい進展を見せており、クリーンで効率的なエネルギーが現実に近づいているように思えます。が、懐疑的な専門家たちは将来核融合炉が実用化されたとき、必ず問題にあるであろうことを指摘しています。
現在の原子力発電所は「核分裂(ウランのような重い原子を分裂させる反応)」を利用しており、大きな発電力を持つ反面、長期間放射能を持つ副産物を生み出します。
「この廃棄物は国中に『ただ置かれている』状態で、管理に毎年数億ドルが費やされ、100万年もの間危険性が残るとされている」
と、Gizmodoのビデオインタビューで話したのは、米ロスアラモス国立研究所の原子核物理学者 Terence Tarnowsky氏。核融合エネルギーにおける問題の解決に取り組んでいます。
トリチウム不足という深刻な問題
その問題の1つは、核融合に不可欠な「トリチウム」という放射性同位体の供給不足です。成功する核融合炉では、軽い水素の同位体であるトリチウムと重水素が融合し、その過程で莫大なエネルギーを放出します。
トリチウムは核融合に不可欠ですが、非常に不安定な水素同位体なうえ、自然界にはほとんど存在せず、地球上に存在する量は天然と人工を合わせてもわずか数十キログラムしかありません。しかも今、世界中の核融合実験が、そのわずかな備蓄を驚くべきスピードで消費しています。
放射性廃棄物からトリチウムを作る
Tarnowsky氏は来週開催される「ACS Fall 2025」にて研究成果を発表する予定で、数千トンに及ぶ放射性廃棄物を利用してトリチウムを生産するという提案を進めています。
実験室でトリチウムを「増殖」させることは理論的に可能ですが、まだ完全な方法が見つかっていません。
その理由をTarnowsky氏は
「今トリチウムを増殖しても、30年後に備蓄して使うことはできません。
なぜなら、すぐにヘリウム3に崩壊してしまうから。それに水素の化学的性質を持つので、容器から逃げ出したり、壁に入り込んでしまうことも起こりやすく、非常に扱いにくい」
と話しています。要はトリチウムの半減期は12.3年で、時間が経つと「ヘリウム3」という別の物質へ変わってしまうということです。
そこでTarnowsky氏は、従来の理論と最新の技術を組み合わせた提案をしました。
超伝導リニア加速器(粒子を強力に加速させる装置)を使い、溶融リチウム塩(高温で溶けたリチウム化合物の液体)に囲まれた放射性廃棄物にビームを照射するという方法です。
その結果、核廃棄物中のウランやプルトニウムの原子が崩壊し、中性子のバーストやその他の核反応を引き起こし、最終的にトリチウム原子が生成されるというのが仕組みです。
将来への警鐘と希望
設計が適切であれば、この方法は「同じ熱出力の核融合炉よりも10倍以上のトリチウムを生産できる」とプレスリリースでは述べられています。
ただし、Tarnowsky氏自身も、このロードマップの実現には、公共部門と民間部門の双方から大胆なコミットメントが必要だと認識しています。
「核融合経済はある意味で不可逆的だ。トリチウム増殖が大失敗しても、スイッチを入れれば代替システムが動くというものではない。非常に長い時間軸で前もって計画する必要がある」
と強く説明しています。
さらにTarnowsky氏は、現在の原子力発電について警告もしています。
「待てば待つほど事態は悪化する。毎年、私たちは非常に安全に原子力発電所を運転しているつもりだが、そのたびに使用済み放射性燃料が新たに約2,000トンずつ増える。つまり負債は年々積み上がっているのだ」
同氏は最後に、核融合によってクリーンエネルギーへ移行される希望を語りました。
「10年前なら、こうした提案はほとんど関心を持たれなかっただろう。人々は原子力発電所に警戒心を抱いていたからだ。その代わりに石炭を燃やしていたけれども。
さて、それでどうするのか? 今はこうして議論できている。しかも人々は恐怖だけで反応しているわけではない」