北極海情報、中ロ独占懸念に対処 研究船をグリーンランドに派遣へ

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政府は北極海の研究のため、新造した砕氷船をデンマーク自治領グリーンランドに派遣する方針だ。世界各国の研究者が観測データを収集する基盤をつくる。北極海では航路の開拓や資源の開発が期待される。ロシアや中国が調査を独占する懸念に対処する。

上川陽子前外相が1日にグリーンランドに向け出発し、現地で研究船「みらいⅡ」の運用へ協力を求める。同船は日本の研究船として初めて砕氷機能を持つ。気候変動や資源、航路の探査など北極海での海氷域の国際研究を任務とする計画がある。

みらいⅡは3月に進水式をしたばかりだ。海洋研究開発機構(JAMSTEC)が発注し、ジャパンマリンユナイテッドが建造した。船内工事などを経て2026年11月に完成させ、27年夏にも北極域の航行を始めることをめざす。

日本政府は北極域のグリーンランドでの運用を見込む。科学調査には北極域の先住民や地域住民の関与も欠かせない。上川氏はグリーンランド自治政府の閣僚やデンマーク議会関係者に理解や協力を求める予定だ。

上川氏は北極の開発を先住民の人々にも恩恵のある形で進めるため「北極における生態系や環境変化のメカニズムなどを十分に理解する必要がある」と自著で主張している。

北極圏は気候変動の影響で氷が溶け、東アジアと欧州を結ぶ新たな航路として期待が高まる。スエズ運河を通るルートに比べ日本と欧州の距離を3〜4割ほど短縮でき、サプライチェーン(供給網)の強化につながる。

氷の融解は石油や天然ガスといった資源開発の可能性も広げる。グリーンランドなどはレアアース(希土類)などの地下資源が豊富だと指摘される。

北極周辺の経済活動や環境保護などは米国、ロシア、カナダなど北極圏8カ国で構成する北極評議会が対話の舞台になってきた。日本もオブザーバーの立場で参加する。ところが、22年からのロシアのウクライナ侵略を受け機能は停滞している。

北極海の沿岸でロシアが占める割合は大きい。ロシアが情報を独占的に集め、資源開発などを進めることに懸念が高まる。

北極海はロシアだけでなく大国の米中も関与を強める。

中国は「氷上のシルクロード」と呼び北極海航路に関心を寄せる。18年に北極海の利用に関する基本方針を示した「北極政策白書」を発表した。中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」と結ぶ方針を示している。

米国はトランプ大統領がグリーンランドの領有に意欲を示し、バンス米副大統領が3月に訪れた。バンス氏は中ロが権益を狙って活動を活発化させているとの危機感を強調した。

日本は中ロによる独占利用を防ぐことが課題になる。大国が資源や航路を占有するのでなく、国際社会に開かれた北極海を志向する。みらいⅡの運用にはまず研究目的で国際協力を主導する狙いがある。

みらいⅡは気象や海洋、海氷などさまざまな観測が可能な設備を搭載する予定だ。積極的に各国の研究者を受け入れる構えだ。

上川氏は北極海開発に関する議員連盟に所属し、外相就任前から北極政策に取り組んできた。議連の要請を受けて政府は15年に「我が国の北極政策」を策定し①研究開発②国際協力③持続的な利用――の3分野を推進すると明記した。

北海道大学の大西富士夫特任准教授は「北極の研究フィールドの半分はロシアにある」としたうえで、ウクライナへの侵略を続けるロシアとの協力は「不透明だ」と指摘する。「北極政策を通じて日本が欧州とともにトランプ米政権を国際秩序に引き戻すよう行動すべきだ」と話す。

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