「。」で傷つく人がいる? マルハラ解消新機能をSimejiと愛知大学生が共同開発!【言葉の日】
「体調が悪いので今日のバイトはお休みしますm(_ _)m」「了解です。」「承知しました。」――なんの変哲もないメッセージのやり取りですが、この「。」に恐怖心や不安を感じる人がいるのをご存知ですか?
昨今話題となっている「マルハラ」。「マルハラスメント」の略で、主にチャットなどのSNSの文面において、句点(。)を使用することで威圧感を与えてしまうことを表す造語です。みなさんは感じたことがありますか?
「。」を使用した側はそんなつもりはなくても、文面で相手に威圧感を感じさせてしまっていることもあるかもしれません。
世代間で生まれる価値観のズレや、テキスト表現の難しさ。この課題を解決するために、顔文字キーボードアプリ『Simeji』を提供するバイドゥ株式会社と愛知大学の学生研究チーム『JAWS』が、『マルハラをまぁるくプロジェクト』を発足。世代や立場を問わず使える「もっと円滑なコミュニケーション」の実現に向けて、『Simeji』の新機能を共同開発し、5月にリリースしました。
今回は元テレビ局芸能記者で現・フリー記者の筆者が、『マルハラをまぁるくプロジェクト』を取材。プロジェクトを通して生まれた『Simeji』の新機能は、どういったものなのでしょうか。(取材・文=コティマム)
「。」で終わるストレートな文章に”ちょうどいい絵文字”をつけてくれる
スマートフォンのキーボード画面/出典:フォトAC顔文字キーボードアプリ『Simeji』は、キーボードのデザインを変えることができるアプリ。自身の好きな写真はもちろん、ゲームやアニメ、キャラクター、Simejiが提供するトレンドに合わせた最新のデザインなどをキーボード画面に設定することができます。また通常のキーボードでは出てこない豊富な絵文字や顔文字も特徴で、20万種類以上から使用可能です。
さらに、クラウド超変換によりリアルタイム変換にも対応。2019年に新元号が「令和」と発表された時も、いち早く「令和」を漢字変換しました。2008年にAndroid版がリリースされて今年で17年目を迎え、4月に7000万ダウンロードを達成した人気アプリ『Simeji』、使用している方も多いのでは?
『マルハラをまぁるくプロジェクト』についてプレゼンする愛知大学の学生たち/筆者撮影この『Simeji』に5月から搭載された新機能が、『まぁるく変換(予測変換)』と『いろいろ感情(シーン別絵文字セット)』です。愛知大学の学生と共同開発したもので、何気ない一言を”まぁるく”、“ちょうどよく”届けます。
『Simeji』の新機能『まぁるく変換』と『いろいろ感情』/写真提供:『マルハラをまぁるくプロジェクト』例えば『まぁるく変換』は、文末の「。」が少し冷たく感じられてしまう時や、“言い回しのニュアンス”に悩んだ時に役立つ機能。入力したフレーズに対して、文末に“ちょうどいい絵文字”を添えた例文をいくつか自動で提案します。
「はやくして。」というフレーズに自動で適切な絵文字がつく/写真提供:『マルハラをまぁるくプロジェクト』この機能を用いて、”そのまま使える柔らかな表現”を選ぶことで、伝えたい気持ちを優しく届けることができるのです。上記の写真では、「はやくして。」と入力して変換すると、「早くして」の後の「。」が手の絵文字に変換されていますね。
『まぁるく変換』のその他の変換絵文字/写真提供:『マルハラをまぁるくプロジェクト』『まぁるく変換』では写真のように、入力するフレーズに対していろいろな絵文字をつけたパターンが用意されています。そのままストレートに伝えるよりも、絵文字がつくことで柔らかいニュアンスが伝わりますね。
12の感情に合わせた絵文字セットも用意
12の感情から選べる絵文字を用意した『いろいろ感情』/写真提供:『マルハラをまぁるくプロジェクト』そして『いろいろ感情』は、「感謝」や「謝罪」など12の感情の絵文字セットから選ぶことができる機能。どんな絵文字を使っていいか分からない人も、この機能で伝えたい気持ちが分かりやすくなります。
『いろいろ感情』の絵文字セット/写真提供:『マルハラをまぁるくプロジェクト』『いろいろ感情』も、「感謝」「謝罪」「悲しい」「尊い」などの12種類の顔に合わせた絵文字セットを用意しているので、自分がどんな感情を送りたいか、その感情に適している絵文字がどんなものかを確認することができます。
Z世代は約3人に1人が「。」が怖い
実際の『Simeji』新機能を使う様子/筆者撮影今回の新機能は、愛知大学の学生研究チーム『JAWS』から『Simeji』に提案して開発が実現したもの。「マルハラ」や、「おじさん構文/おばさん構文(絵文字や句読点、片仮名を多用する中年男性・女性特有の言い回し)」などの「テキスト表現の難しさ」に対して課題意識を持ち研究を始めた『JAWS』が、その研究結果と施策を『Simeji』に提案したことから、共同の『マルハラをまぁるくプロジェクト』が立ち上がりました。
学生とSimejiが共同で開発/写真提供:『マルハラをまぁるくプロジェクト』「『マルハラ』というのは、文末にマルをつけることにより相手に不快感を与えてしまうことです。その印象を与えてしまう要因としては、マルに対する無機質なイメージや、冷たいイメージから来ていると感じました。そんなマルハラを優しく穏やかに柔らかく、“まぁるく”解決していきたいというところから。今回の名前をつけさせていただきました」(学生)
新機能搭載への道のりを説明する学生たち/筆者撮影「。」に関する調査を行った学生チームによると、「Z世代は約3人に1人が、文末にマルのついたメッセージに対して『怖い』『辛い』と感じた経験がある」といいます。
「Z世代が文末にマルをつける意図として、礼儀作法といった丁寧な表現として使っているという意見も多く見られました。一方、大人世代は特に意味もなく、文末記号としてマルを扱っていることが分かりました。句点という、ごく小さな表現でも、印象のギャップが生まれていることが明らかになりました」(学生)
世代によって「。」も感じ方が違う/写真提供:『マルハラをまぁるくプロジェクト』また、「絵文字がモチベーションや感情表現を後押しするツールになっているのか」も調査。例えば上司や先輩から頼み事を依頼された際、「至急で申し訳ないですが、こちらお願いします」という文章に対し、「絵文字がついているものと、マルのついているもの、どちらのほうがモチベーション高く対応できるか」という質問では、どの世代も約半数以上が絵文字のついた文章だと回答。特に15歳から24歳は約70%の割合という高い結果になりました。
「さらに、『絵文字付きメッセージでうれしい、心が軽くなった』と感じたことがある人は、どの世代も約半数以上でした。これは30歳以上の方が約70%と特に高く、非常に意外な結果となりました。これらの結果から、絵文字はテキストに気づかいや感情のトーンを添える補助ツールであることが分かります。絵文字を使うことで、世代を超えた”ちょうどいい気持ち”の添え方ができると考えます」(学生)
絵文字を不快に思う人もいる
一方で、絵文字も使い方によっては相手を不快にさせることもあるといいます。30歳以上の約25%、4人に1人は「絵文字を不快に感じたことがある」と回答してます。
絵文字が深いに感じる人もいる/写真提供:『マルハラをまぁるくプロジェクト』「見る人や文脈によっては、誤解やずれ違いが起きてしまっているようです。場合によっては皮肉・煽りに見えてしまったり、世代間の解釈にギャップが生まれていたり、単に絵文字を使えばいいというわけではなく、誰に送るのかTPOに合わせてその見極めが必要なようです」(学生)
『Simeji』新機能が”感情をテキストに込める”きっかけになってほしい
世代間でズレが生じやすいテキスト表現。『まぁるく変換』や『いろいろ感情』の機能があれば、メッセージも送りやすくなるかもしれません。『Simeji』を担当するバイドゥ・プロダクト事業部の古谷由宇氏は、「我々はマルハラを『ハラスメントだ!』と取りあげたいということではなく、『マルハラをきっかけにテキストコミュニケーションを考えていきたい』と思っています」と語ります。
バイドゥ・プロダクト事業部の古谷由宇氏/筆者撮影「僕は30代で、チームの若いメンバーとのコミュニケーションも気をつけています。ただやっぱり、忙しい時などに忘れてしまうこともあるし、皆さんもそういうご経験があると思います。ただ(コミュニケーションのズレは)相手との関係性も非常にあると思います。なので『マルが悪い』というわけではなくて、相手との関係や普段からのコミュニケーションの部分にも目を向けていただきたいです。
この機能は決して、Z世代だけに向けているものではありません。大人世代、もちろん若者世代もそうですが、皆さんがこの機能を使ってちょっとでも、絵文字などで感情をテキストに込めていただけるようなきっかけになっていただければと思います」(古谷氏)
「マルハラ」という言葉が独り歩きすると、何気ないメッセージも送りづらくなりますよね。そんな中で『Simeji』の新機能『まぁるく変換』や『いろいろ感情』は、テキストメッセージが苦手な方にとってはコミュニケーションの味方になってくれるかもしれません。
実はきょう5月18日は『言葉の日』。言葉を大切に使い、言葉を通して人と人のつながりを深め、暮らしを豊かにすることを目的とした記念日です。『言葉の日』のきょう、テキストコミュニケーションのあり方や進化に触れてみてくださいね。