ノーベルダブル受賞10年ぶり快挙も横ばい研究開発費、中国は30倍以上の驚異的伸び
今年のノーベル生理学・医学賞と化学賞にそれぞれ日本人が輝いた。2015年以来、10年ぶりとなる2分野での同時受賞に称賛が広がる一方、受賞決定時の記者会見で2氏から漏れたのが、若手研究者へのさらなる支援の強化だった。ノーベル賞の授賞対象の成果は大半が20~30年前のものとされる一方、この間の日本の大学部門の研究開発費は横ばい。驚異的な伸びを見せる中国などに大きく引き離されており、国の科学技術力の弱体化への危機感が募る。
息の長い支援の必要性
「日本の基礎研究に対する支援がだんだん不足しているように感じる。基礎研究に対する支援をお願いしたい」
今月6日、生理学・医学賞の受賞が決まった大阪大の坂口志文(しもん)特任教授(74)は、記者会見で、祝電を送った阿部俊子文部科学相に訴えた。
文科省科学技術・学術政策研究所などによると、ノーベル賞受賞者が、受賞の核となる研究内容である「コア研究」を始めてから受賞までにかかる年数は20~30年。坂口さんも1980年代の研究が今回の受賞につながった。
特に基礎研究は結実まで時間がかかり、息の長い研究支援が必要だ。しかし、日本では平成16年に国立大が法人化。研究などに使う国からの「運営費交付金」が削減された上、科学技術予算の「選択と集中」で、短期間で成果が期待できる分野や人工知能(AI)や量子技術など国家安全保障に関するテーマに重点的に配分される傾向が続く。
開く諸外国との「差」
研究開発資金は研究者にとっての生命線だが、諸外国と比較すると大学部門の伸び悩みは特に顕著だ。
同研究所が発表する「科学技術指標2025」によると、主要国別の23年の大学部門研究開発費(OECD推計)で日本は2・3兆円。トップの米国(9・7兆円)や12年に日本を上回った中国(7・2兆円)に大きく水をあけられている。
各国通貨換算で研究開発費の変化を比較すると、2000年を1とした場合、同じ東アジアの韓国は7・0倍、中国は35・9倍と驚異的な伸びを示した一方で、日本は1・0倍で主要国の中では最下位だった。
存在感増す中国
多くの研究者は、外部資金獲得のために研究以外の業務に忙殺されるが、研究時間の減少は国の科学技術力の弱体化に直結する。
科学技術指標2025によると、数多く引用され注目度が高い自然科学の論文数について、日本は2000年代初頭は4位だったが、21~23年の平均で13位となり、大幅に順位を落としている。一方で中国は5年連続で1位を維持。科学技術立国としての存在感を発揮しつつある。
今年の化学賞の受賞が決まった京都大の北川進特別教授(74)も記者会見で危機感をあらわにし、「今は何から何まで研究者がやる必要がある。若い人の研究時間を確保する施策が必要だ」と指摘し、環境改善を求めた。
研究力強化に向け政府も挽回を図ろうとしている。10兆円規模の基金を活用して支援する「国際卓越研究大学」の第1号として昨年、東北大を認定。今年度だけで約154億円を支援し、最長で25年間重点的に助成を行う。ただ、支援大学は論文数が多い上位の数校に限られ、「選択と集中」路線の継承には研究者らから批判の声も上がる。
「(研究の)最初の頃をいかにサポートするかが重要だ」と坂口さん。自身の研究も当初は懐疑的な見方があり、評価されない時期が長く続いただけに、その言葉は決して軽くない。その上で坂口さんは「研究というのは、これだけ(資金を)投下すると見合うだけの成果が出るというものでもない。最初は広く配分し、ある程度形が見えてくれば重点的な投資へという『両輪』が必要だ」と力を込めた。(小川恵理子)