妊婦への分娩誘発で肩甲難産減少
英・Perinatal InstituteのJason Gardosi氏らは、肩甲難産に対する予防介入としての分娩誘発と通常ケアを比較する多施設非盲検ランダム化比較試験Big Baby trialを実施。「在胎不当過大(LGA)が推測される妊婦に対し妊娠38週0~4日時点で分娩誘発を実施することで、肩甲難産が有意に減少する可能性が示唆された」とLancet(2025年5月1日オンライン版)に報告した。
分娩誘発による肩甲難産予防はガイドライン未推奨
肩甲難産とは、経腟分娩において児頭は娩出されているものの、肩が母体の恥骨や仙骨に引っかかり、通常の分娩介助によって肩甲が娩出されない状態。産道が胎児の胸部と臍帯を圧迫するため、胎児は呼吸困難となり、骨折や上腕神経叢損傷、低酸素脳症、新生児死亡の可能性がある。母体にも出血や会陰裂傷のリスクがあり、臨床スタッフの事前知識や準備が重要となる。
巨大児(macrosomia)やLGA児が肩甲難産リスクの上昇と関連するとされ、英国では子宮底長の連続測定が標準的なスクリーニングとなっている。LGA児の早期分娩を促すことで肩甲難産のリスクが軽減するかを検討した4つの試験について、通常ケア(待機的管理)に比べ誘発分娩の方が肩甲難産リスクが有意に低下することが報告されているが(Cochrane Database Syst Rev 2016; 2016: CD000938)、同じ4試験のデータを用いたシステマチックレビュー/メタ解析では、有意な低下は示されなかった(BJOG 2017; 124: 414-421)。
Gardosi氏らは「これらの報告には、Bouvainらによる大規模試験(817例)の結果が強く影響しており、そこでは妊娠37週で分娩誘発が行われた。しかし、早期正期産児(early term)には特別な教育ニーズ(special educational need)が伴うとの指摘があり(PLoS Med 2010; 7: e1000289)、さらには、分娩誘発による肩甲難産予防はガイドラインで推奨されていないことから、妊娠38週での分娩誘発のベネフィットとハームを検証する試験を実施した」と今回の試験の背景を説明している。
ITT解析では有意差出ず、肩甲難産少なく試験は中止
Big Baby trialは英国保健サービス(NHS)病院106施設が参加した第Ⅲ相非盲検試験である。2018年6月~22年10月に、LGAが疑われる胎児〔推定胎児体重(EFW)90パーセンタイル超〕を宿している18歳以上の妊婦を超音波で同定し、分娩誘発群(1,447例)または標準ケア群(1,446例)にランダムに割り付けた。分娩誘発群には妊娠38週0~4日の時点で分娩誘発を提案した。標準ケアは、各参加施設における通常のケア(38週5日以降の分娩誘発、自然分娩など)とした。
Intention-to-treat(ITT)解析の結果、分娩誘発群の33例(2.3%)、標準ケア群の44例(3.1%)が肩甲難産となった〔リスク比(RR) 0.75、95%CI 0.51~1.09、P=0.14〕。両群における妊娠期間と出生体重の平均差は、それぞれ-6.0日(95%CI -6.3~-5.6日)、-163.6g(同-190.0~-137.1g)だった。
標準ケア群における肩甲難産の数が想定よりも少なかったため、データモニタリング委員会は、参加者が目標の4,000例に達する前に試験の中止を勧告した。
プロトコル遵守例では肩甲難産を38%有意に抑制
試験プロトコルを逸脱する方法で出産したのは分娩誘発群のうち266例(38週以前の分娩誘発や自然分娩、38週以降の選択的帝王切開など)、標準ケア群のうち370例(38週以前あるいは38週0~4日に分娩誘発、選択的帝王切開など)で、これらを除いたper-protocol解析を行ったところ、肩甲難産は分娩誘発群27例(2.3%)vs. 標準ケア群40例(3.7%)、RR 0.62(95%CI 0.41~0.92、P=0.019)と分娩誘発群で有意なリスク低下が認められた。
分娩誘発群の1例が敗血症と先天性肺炎により死亡、標準ケア群で肩甲難産となった1例が、周産期仮死となりその後死亡した。母体の有害事象発生率は分娩誘発群6.1%、標準ケア群7.5%で差がなかった(P=0.13)。重篤な有害事象の報告例数も同等であった。
今回の結果について、Gardosi氏らは「ITT解析で肩甲難産発生率に有意差が出なかったのは、標準ケア群で想定よりも早期の出産が多く、在胎週数と出生体重に事前に計画した差が出なかったからだろう」と説明。「しかし、per-protocol解析では38週0~4日の分娩誘発により肩甲難産が有意に減ることが示された。今回の知見は、38週での分娩誘発でも母体の有害事象は増えなかったことから、LGA児を宿す妊婦や臨床医に、出産方法の選択肢と意思決定に資する重要な情報を提供するものである」と付言している。
(医学ライター・木本 治)