中南米の刑務所はなぜ世界有数の凶悪なギャングを生み出してしまうのか
世界最大級の巨大刑務所CECOTの警備にあたるエルサルバドルの兵士=4月4日/Alex Peña/Getty Images
(CNN) トランプ米政権が違法薬物を米国に持ち込むギャングの取り締まりを強化するなか、政権による海上での軍事攻撃と国境警備の強化に注目が集まっている。
米国が公然と介入を強める一方で、専門家らは政治家が重要な戦場、すなわち地域全体の刑務所を見落としている可能性があると警告している。
中南米で特に強力な複数の犯罪組織は、国境地帯や街中などではなく、この地域の刑務所内で形成された。過密状態で資源が不足し、事実上自治が行われていることも多いこれらの施設は、長きにわたり武装集団がメンバーを募り、再編成し、影響力を拡大する温床となってきた。地域全体では少なくとも10の組織が刑務所内で創設・強化された。
トコロンからサンパウロへ
トレン・デ・アラグアがまさにそれだ。麻薬密輸船とみられる船舶への最近の攻撃をめぐり、トランプ政権は標的としてこの犯罪組織を挙げている。攻撃はベネズエラのマドゥロ大統領との緊張を高めたが、これらの船舶と同犯罪組織との関連を示す確固たる証拠はなかった。
ベネズエラの人権団体の報告書によると、この組織は2010年代初頭にアラグア州のトコロン刑務所内で結成された。当初は内部秩序を確立し、改善された生活環境を確保することを目指していたという。
「その背後には社会的な不満、つまり受刑者の扱いをめぐる国家への憤りがあった」と、ベネズエラ人ジャーナリスト、ロナ・リスケス氏はCNNに語った。「非人道的な環境と国家による支援の欠如が、この犯罪組織の台頭に直接的な影響を与えたのだ」
リスケス氏によれば、「彼らは完全な支配権を握っていた。国家警備隊や刑務所長は彼らの命令に従った」。犯罪組織は受刑者に課税し、禁制品の流通を統制し、刑務所外での強奪や誘拐さえも行っていた。政府は23年にトコロン刑務所を捜索し、犯罪組織を解散させたと主張しているが、リーダー格の2人は依然として逃亡中だ。
同様の動きは、この地域全体で見られる。ブラジルでは、1970年代後半から90年代にかけて、受刑者が過密状態、虐待、ままならない生活環境に反発し、首都第一コマンド(PCC)やコマンド・ベルメーリョ(CV)といった組織犯罪集団が刑務所内で台頭した。
殺人の罪で16年服役した刑事弁護士のグレゴリオ・フェルナンデス・デ・アンドラーデ氏は、監房は非常に混雑していてスペースがないため、受刑者は天井につるした即席のハンモックに重なり合って過ごしたことが多かったと語った。「4メートル四方の監房に40人の受刑者が詰め込まれていたこともよくあった」
連邦データによると、ブラジルの刑務所の収容率は140%で、50万人未満を想定した施設に70万人以上の受刑者が収容されている。これは中南米諸国ではよくあることだ。
組織のメンバーにとって、受刑者の需要はビジネスへと発展し、衛生用品から食料、身体の安全、法的支援まで、あらゆるものをさばいている。
2000年代半ばまでに、PCCはサンパウロの刑務所を支配するようになっていた。「州の刑務所の約90%にPCCが存在し、殺人事件は事実上ゼロだ。PCCによって20年近くもの間、刑務所は『鎮圧』されてきた」と、社会学者でABC連邦大学のカミラ・カルデイラ・ヌネス・ディアス教授は述べた。
監房の鍵をめぐる争い
中南米全域の刑務所では縄張りをめぐる虐殺が頻発している。ベネズエラのウリバナ刑務所では、13年にギャングのボス同士の抗争により少なくとも61人が死亡した。ブラジルでも同様の抗争がきっかけとなり、1992年にサンパウロのカランジル刑務所で虐殺が発生し、111人の受刑者が死亡。この事件によってPCCが台頭した。
エクアドルでは、この傾向がはるかに強まっている。グアヤキルのような地域は、世界のコカイン輸出において戦略的な役割を担っていたため、メキシコのカルテルやコロンビアの反体制派といった外国勢力が地元のギャングに入り込むことを許していた。リーダーが収監されると、支配権をめぐる争いは刑務所へ直接持ち込まれた。
エクアドル高等研究所(IAEN)安全保障防衛学部長のダニエル・ポントン氏は、同国の刑務所は派閥ごとに支配する監房棟で構成されており、それが衝突を誘発していると指摘する。
「各棟には独自の経済圏と指導部があり、すべてがギャングによって私有化され、支配されていた」とポントン氏は語る。「もし私が犯罪組織のリーダーともめたら、私はその棟を襲撃し、彼を殺害し、犯罪組織を乗っ取る」
こうした現実は、ロス・チョネロスを長年率いていたホルヘ・ルイス・サンブラノ(通称「ラスキーニャ」)氏が2020年に暗殺されたことで、はっきりと露呈した。サンブラノ氏の死は、同氏が維持してきた派閥間の均衡を崩壊させた。派閥は分裂し、主導権をめぐって争い始め、3年足らずのうちに複数の州で400人あまりの受刑者が虐殺されたという。
ギャングのリーダーにとって、流血は利益によって正当化される。エクアドルの刑務所の市場規模は現在、年間2億ドル(約310億円)を上回り、刑務所制度を監督するSNAIの連邦運営予算(21年は約9900万ドル)の倍以上に達している。