もう忘れない!「5つの箱」ではじめるライトナー式・最強記憶術

学んだはずなのに、いざという時に思い出せない

そんな悔しい経験、誰にでもあるはず。記憶がうまく定着していない原因は「脳の性質」を見逃している勉強方法のせいかもしれません。

普段私たちが行っている多くの学習法は「どう覚えるか」に焦点を当てていますが、同じくらい重要な、脳が「どう忘れるか」という避けられない要素は軽視されています。

そこで登場するのが「ライトナー式」勉強方法です。

これは、単語カードという古典的なツールを、脳の忘却メカニズムから逆手に取って科学的なシステムへと昇華させる、画期的な思考整理術です。

この記事では、単なる暗記テクニックではない「ライトナー式」の本質を解き明かしていきます。

なお、このシステムが目指すのは、一夜漬けの短期記憶ではなく、いつでも自在に引き出せる、長期的に役立つ知識の土台を築くこと。今こそ、取り組む絶好の機会なのです。

科学が証明した記憶術「ライトナー式」の正体

このシステムは、1972年に科学ライターのセバスチャン・ライトナーによって考案されたため、彼の名誉を称えてその名が付けられました。(彼の著書『How to Learn to Learn』が出典なのですが、この本はドイツ語版しか手に入らないようです。)

考案されてから数十年、この方法はもっぱら物理的なツール、つまり単語カードに頼ってきました。

自分で何かを書くことは記憶を定着させるのに役立ちますが、最近では、アプリなどもっと現代的な選択肢もあります。それについては後ほど触れましょう。

このシステムの核心は、単語カードに書き込む行為そのものよりも、間隔反復(Spaced Repetition)と呼ばれる、科学的根拠に基づいた学習原理にあります。

これは「忘れかけた頃に思い出す」という行為が記憶の定着にもっとも効果的であるという脳の性質を利用したものです。

完全に忘れてから学び直すのは非効率ですし、完璧に覚えていることを何度も復習するのは時間の無駄です。

ライトナー式は、脳に「忘れさせないための、最適な負荷」をシステムでかけ続ける仕組みなのです。

そしてこのライトナー式は、学ぶべき概念やフレーズ、アイデアが大量にあるけれど、学習期間にも余裕があるという場合にもっとも効果を発揮します

ですから、ほんの少しの新しいことを学ぶだけの単元ではなく、コース全体や非常にボリュームのある章に取り組む際に活用してみてください。

では、具体的にどうやって進めるのか見ていきましょう。

5つの箱でOK!ライトナー式、はじめの一歩

ここでは、昔ながらの方法、つまり単語カードとペンを使う例を紹介しましょう。

1. 単語カードづくり

何よりも先に、学習内容の単語カードを作成します。覚えたい語彙、新しい概念、フレーズ、重要な日付など、知っておくべき情報をカードに書き出していきましょう。

ここで1つ、より効果的にカードをつくるためのコツがあります。それは、効果的な読解法として知られるSQ3Rメソッドの考え方を応用することです。

これは、本格的に読みはじめる前に、まず見出しや要約などから「問い(Question)」を立て、次に文章を読みながらその「答え」を探していく(Read)という能動的な学習法。この考え方を利用し、見つけた「問い」と「答え」のセットでカードをつくってみましょう。

たとえば、カードの表に「ライトナー式の核心は?」と問いを書き、裏に「間隔反復の原理」と答えを書く、といった具合です。

このひと手間が、学習を受動的なインプットから「答えを探す」という能動的な活動へと変え、理解度を格段に引き上げてくれます。

すでに自信があると思う単語や概念も、すべて含めるのがポイントです。

一見、無駄に思えるかもしれませんが、このプロセスは「知っているつもり」という認知の罠をあぶり出し、自分の理解度を客観的に仕分けるための、極めて重要なステップなのです。

これこそが、この学習方法の肝となります。

2. 5つの「箱」を用意する

網羅的なカードの束ができたら、いよいよメソッドの実践です。

5つの箱(あるいは封筒、ラベルを貼ったクリップなど、カードの束をまとめられるものなら何でもOK)を用意します。

そして、学習頻度を設定し頻度の高い順にラベルを付けます。

たとえば、2カ月後に大きな中間試験があるなら、箱1は「毎日」、箱2は「1日おき」、箱3は「毎週」、箱4は「隔週」、箱5は「毎月」というように学習頻度ごとにラベルを付けます。

3. カードを仕分け、復習する

さあ、単語カードを1ラウンドやってみましょう。

正解したカードはすべて箱2へ移動させ、間違えたカードは箱1に残してください

このように正解するごとにどんどん学習頻度の低い箱にカードを移動させましょう。

しかし、一度でも間違えたらカードは再び箱1に戻します

要するに、正解したカードは学習頻度が低い箱へと進み、間違えたカードは学習頻度がより高い箱へと戻されるのです。

最終的に、箱5までたどり着いたカードは、あなたが情報を効果的に記憶し、本当に理解しているものなので、それほど頻繁に復習する必要はありません。

一方、番号の若い箱にあるカードは、まだ定着していない情報なので、もっと頻繁に目を通すべき、ということになります。

自分流にアレンジ!ライトナー式を使いこなすコツ

このシステムをどう使うかは、学習に使える時間や学ぶべき量によって変わってきます。

たとえば、学びたい概念が少ししかない場合や、大きなテストまで2週間しかない場合は、「毎日」「1日おき」「毎週」と設定した3つの箱を使うのも良いでしょう。

間違えたカードの扱いにも、少し工夫の余地があります。

ライトナー式にもっとも忠実なやり方は、どの箱に入っていたカードでも1度間違えたら問答無用で箱1に戻す、というものですが、1度間違えたからといって毎日勉強する必要があるか、それとも1つだけ前の箱に戻すだけで十分か、自分で判断しても構いません

個人的には、思い切って箱1に戻すことにデメリットはないと思っています。

もし単なる度忘れで間違えただけなら、すぐにまた上のレベルの箱に戻ってくるでしょう。

そうではなく、情報が本当に記憶から抜け落ちていたのなら、それをしっかり覚えるまで毎日向き合う価値は十分にあります。

また、複数の箱を復習する日が重なった場合は、戦略的に進める必要があります。

たとえば、月曜にはじめて「毎日」「1日おき」「毎週」の3つの箱を使っていると、金曜日は3箱すべてが学習対象になり、結構大変です。

そんな日は、その日のもっともレベルの高い箱(この場合は箱3)からはじめ、逆順に進めていきましょう。

こうすることで、間違えて下の箱に戻したカードはその日のうちに再度学習できますし、正解して上の箱に進んだカードを2度やる手間が省けます

この学習法の目標は、すでに知っていることを何度も繰り返す無駄を省き、なかなか覚えられない情報だけを徹底的に叩き込むことにあります。

カードが上の番号の箱に移動していくにつれて、新しい章の情報を追加していけば、あなたのカードデッキは、試験や、ひいては実社会で長期的に役立つ知識の包括的な知識となるでしょう。

面倒くさがりでも大丈夫!アプリではじめるライトナー式

たしかに、手書きのカードをつくり、物理的に箱の間を移動させるという古典的なアプローチには、それなりの良さがあります。

しかし、そのプロセスは手間がかかり、時間も食うし、管理も少し大変です。

大量の単語カードをどこに保管しますか?外出先に持ち運んで勉強しますか?おそらく答えはノーでしょう。

そうなると、カードの束を持ち運ぶのが億劫で、勉強をさぼる日が出てくるかもしれません。それでは本末転倒です。

そこで活躍するのがアプリです。勉強のためにスマホを使う際は、数回タップするだけで無関係なメッセージやアプリに気を取られてしまう危険性があるので、常に注意が必要です。

しかし、自制心さえ発揮できれば、単語カードアプリは正直このプロセス全体をはるかに簡単にしてくれます。

どんな形式であれ、単語カードは記憶から答えを引き出す「積極的想起」を促すため、非常に役立ちます。

どんな単語カードアプリでも、何もしないよりはましです。ただし、すべてのアプリがライトナー式を採用しているわけではないので注意してください。

ライトナー式に特化したアプリとして、私のおすすめはBrainscape(個人的に1番のお気に入りです)、Cram、そしてFlashcard Labです。

  • Brainscape: 洗練されていて完成度の高いアプリで、多くの既製デッキと、自分でつくるためのシンプルなオプションが用意されています。
  • Cram: 非常にベーシックですが、使いやすいのが特徴です。
  • Flashcard Lab: 自分のスプレッドシートから単語カードを作成してくれるので、作成の手間がほとんどかかりません。

これらのアプリはすべて、正解か不正解かを示すことができ、その結果に応じてカードの復習スケジュールを調整し、表示頻度を自動で変えてくれます。

カードの作成と分類をテクノロジーに任せることで、勉強そのものにより多くの時間を割くことができます。プロセス全体が効率化され、ライトナー式を継続するハードルも低くなるはずです。

知識の習得とは、単に情報を「暗記」することではありません。

それは、必要な時にいつでも自在に引き出せる、信頼できる「思考の道具」を自分の中に築き上げていくことなのです。

ライトナー式がもたらす最大の価値は、「覚えていない知識を選別する」効率性だけではありません。

それは、自分の理解度を日々客観視し、知識が血肉に変わっていく成長の過程を可視化してくれることにあります。

まずは、あなたが今まさに学ぼうとしている10個の重要概念から、この知的な実験をはじめてみてはいかがでしょうか。

その1歩が、あなたの学びの質を根底から変えることになるはずです。

著者紹介:Lindsey Ellefson

Lifehackerの特集エディター。現在は、勉強法や生産性向上術、家事やデジタルの片付けなどを中心に取材。Lifehacker入社以前は、Us Weekly、CNN、The Daily Dot、Mashable、Glamour、InStyleといったメディアでメディアや政治を取材していた。

Source:Amazon(1, 2, 3), SageJournals

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