睡眠不足になると起きている時に脳脊髄液が流出して注意力が低下してしまうとの研究結果

サイエンス

睡眠不足になると集中しなければいけない時でも集中が途切れ、ぼーっとしてしまいやすくなります。マサチューセッツ工科大学の新たな研究により、睡眠不足の人の注意力が失われる時に脳内で何が起きているのかが明らかとなりました。

Attentional failures after sleep deprivation are locked to joint neurovascular, pupil and cerebrospinal fluid flow dynamics | Nature Neuroscience

https://www.nature.com/articles/s41593-025-02098-8

This is your brain without sleep | MIT News | Massachusetts Institute of Technology https://news.mit.edu/2025/your-brain-without-sleep-1029

睡眠は極めて重要な生物学的プロセスであり、睡眠不足が注意力やその他の認知能力の低下につながることが示されています。マサチューセッツ工科大学のローラ・ルイス准教授らによる2019年の研究では、睡眠中に脳を満たす脳脊髄液(CSF)の流れが生じ、これが日中に蓄積された脳の老廃物を除去するのに役立っていることが示唆されました。

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ルイス氏らの研究チームは新たな研究で、「睡眠不足の後に脳脊髄液の流れがどうなるのか」を調べる実験を行いました。実験には26人の被験者が参加し、「実験室で1晩睡眠不足にした後」と「十分に睡眠を取った後」の2回に分けて、認知タスク実行中の脳脊髄液の流れを調査しました。

被験者らは夜が明けた午前中に、睡眠不足の影響を評価するために一般的に使用されるタスクを実行するよう求められました。タスク実行中の被験者は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)スキャナーに入り、脳波を記録できる脳波計(EEG)キャップを装着しました。

今回の研究で、研究チームは脳内の血液酸素化だけでなく、脳内への脳脊髄液の流入/流出を測定できる改良版のfMRIを使用しました。また、被験者の心拍数や呼吸数、瞳孔の直径などについても測定したとのこと。 被験者はfMRIスキャナー内で、視覚と聴覚を用いる2つの注意タスクを実行しました。視覚タスクでは、固定された十字が表示されたスクリーンを見つめ、十字が四角形に変化したタイミングでボタンを押すように指示されました。一方聴覚タスクでは、ビープ音が鳴ったタイミングでスイッチを押すことが要求されました。

実験の結果、予想された通り睡眠不足の被験者は十分な休息を取った被験者に比べ、これらのタスクの成績が著しく低下しました。刺激に対する反応時間が遅くなっただけでなく、まったく刺激に反応できなかった被験者もいたとのこと。 さらに研究チームは、被験者がタスク中に注意力を失うのと同時に、脳脊髄液が脳から排出されていることも発見しました。流出した脳脊髄液は、注意力が回復すると再び脳に戻ってくることも確認されました。

研究チームはこの結果について、睡眠不足になると脳が睡眠中に行われる浄化作用を補うため、起きている最中に脳脊髄液の流れが生み出されるのではないかという仮説を立てています。ルイス氏は、「睡眠をとらないと、通常は目に見えない脳脊髄液の波が覚醒時にも現れ始めますが、脳脊髄液の波は注意力の低下を招きます」と述べています。 今回の研究では、注意力の喪失に関連して呼吸数や心拍数の低下、瞳孔の収縮といった生理学的変化が起きていることもわかりました。瞳孔の収縮は脳脊髄液が脳から流出する約12秒前に始まり、注意力が回復すると再び瞳孔が大きくなったと報告されています。

研究チームは、注意力の喪失や脳脊髄液の流出、その他の生理学的変化の間にみられた密接なつながりは、注意力とさまざまな身体機能を制御する単一の回路の存在を示唆していると考えています。 ルイス氏は、「興味深いのはこれが脳内の現象だけでなく、体全体にも影響しているように見えることです。この結果は、これらのシステムが緊密に連携していることを示唆しています。注意力が散漫になると、知覚的にも心理的にもそれを感じるかもしれませんが、それは脳と体全体で起こっている出来事を反映しているのです」と述べました。

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