突然、大地に“巨大穴” 相次ぐ陥没穴の発生を予測せよ トルコ中部で家がひび割れ傾く被害も 地下水枯渇が生む危機
FNNプライムオンライン
トルコ中部の農業地帯コンヤで突然、超巨大な陥没穴が次々できている。その数は700個以上。また家屋が一瞬で傾く被害も。危険を回避するため地盤の動き等を計測し、陥没穴の発生を予測する事業が開始。水なし農業への転換も待ったなしの状況だ。
◆700個超の巨大穴 住民を襲う“陥没の恐怖”畑の真ん中に現れた巨大な穴。直径は約28メートル。穴のそばにいる記者と比較するとその巨大さが分かる。穴の深さは35メートルほどで、11階建てのビルに相当し、落ちれば危険な状況だ。畑で働く男性は当時の恐怖を語る。「戦闘機が襲ってきたような音ですぐに起きあがって見たら、畑の中から煙が上がっていました。穴が大きく開いていてとても怖かったです。あっちにいったりこっちに来たりうろうろして夜は全然眠れませんでした」トルコ中部コンヤの農業地帯では近年、こうした穴が次々と現れ、その数は実に700個以上にのぼっている。しかし、異変が起きているのは畑だけではない。◆家が突然、ひび割れ傾く被害が相次ぐ陥没穴が多発している地域にある家屋が突然、傾く被害が相次いでいる。2024年、地盤が沈下したという家の中を見せてもらうと、耐震にも影響が出るとみられるほど多くの壁にひび割れができている。床は置いたオレンジが勢いよく転がっていくほど傾いていた。家の住民は突然の出来事だったと話す。「大きな音がして、急に壁にひびが入りました。家が大きく傾いて、至る所、ひびだらけです。怖かったので、慌てて外に飛び出しました」家が傾いたのは早朝で、住民は飛び起きてすぐに外に出た。その後、トルコ当局が調査し、傾いた家は倒壊の危険があるとして住まないよう通達があった。一方で、生活を再建するための支援金などは受け取っていないという。しかし、住民は生活の基盤があるこの場所を離れられないため、近くに新たな家を建てたというが、陥没への不安は残ったままだ。「新居を建てましたが、陥没穴がまたできるのか、見当もつきません。しかし、他に選択肢がないので仕方がないんです」◆気候変動による水不足と違法な井戸の存在が原因なぜこのような現象が起こるのか。陥没穴を長年、研究しているコンヤ工科大学のアルック教授は気候変動と人為的な問題が複合していると話す。「この地域の降水量は非常に少なく、トルコ全国平均の約半分です。気候変動で雨量が減り、地下水が減少。それに加えて農業に使うために過剰な地下水の利用により陥没穴ができています」気候変動により雨の量が減り、地下水の水位が年々下がっているコンヤ。しかし、トルコでも有数の農業地帯でもあるコンヤは、小麦やとうもろこしなどの穀物を育てるために地下水をくみ上げる必要がある。問題は地下水のくみ上げ量。当局に登録されている「正規の井戸」は3万カ所あり、水のくみ上げ量が管理されているという。一方、地図の赤色で示されているのが、「違法に作られた井戸」でその数は10万カ所以上にのぼる。管理されることなく井戸から過剰に地下水をくみ上げすぎているという。そのため地下水がなくなった後には地下に大きな空洞ができあがる。その空洞が突然、陥没することで、巨大な穴ができるのだ。これまで陥没穴などで死亡した人はいない。しかし、いつ巨大な陥没穴に巻き込まれるのか不安を抱きながら多くの人が生活している。◆「どこで、いつ」陥没穴の発生予測 実証開始こうしたなか、アルック教授は陥没穴がいつできるかを予測するという実証事業をEUと共同で2026年から始めた。設置した機器には複数のセンサーが組み込まれていて、地盤の水平方向と鉛直方向の動きや土壌にあるガスの量、土壌の水分状態などを測定し、そのデータは監視センターにリアルタイムで共有される。仮に地盤の動きなどに通常の範囲を超える変位が生じた場合には分析。危険な状態と判断した場合には関係機関に情報が伝えられ、この場所からの避難や退去、人々を遠ざけるための警告が出されることになる。「センサーはすべての場所に設置する必要はありません。人に関係する場所に設置すれば十分で、例えば多くの人が集まるホテルには1カ所の観測地点で十分です」「工業地域のような場所であれば少なくとも3カ所で測定を行い、それぞれのデータを比較することで、地盤全体の動きを把握できます」さらに地下に空洞など異変がないかを調べるために地中レーダーを搭載したドローンも活用。レーダーは地下30メートル程度まで調べることができるほか、地盤の条件が良ければ最大50メートルまでの地下構造を解析できるという。実際にドローンを飛ばしてみると、異常がある場所にはタブレット上で赤い印が表示される。その後の分析で断層なのか、パイプラインなのか、もしくは陥没穴ができる兆候である空洞であるのかを明らかにしていくという。これらの技術を使って陥没穴が多く発生している地域で、いつ崩落してもおかしくない場所や陥没するタイミングを明らかにしていきたいと話す。「このままではいずれ家や道路、交通機関、工場などあらゆる場所が危険な状況になる可能性が高い」「私たちにできるのは、水の使用を効果的に管理することだけです。このような地下水位の低下が続けば、危険性はますます大きくなっていきます。地下水位の低下を抑えることができれば、中長期的には陥没穴や地割れの発生も抑制できると考えています」◆なるべく水を使わない農業への転換をそのためコンヤの農業を持続可能なものにするための研究も進められている。トルコ国内で唯一の干ばつ試験センターを持つバフリ・ダーダシュ国際農業研究所では干ばつ対策のための品種改良を行っている。水をあげることなく雨だけで育つ大麦や小麦などを開発するなどこれまでに50品種の栽培に成功するとともに、そのうち約20品種はすでに農家の手に渡っているという。取材した品種改良中である「加工用のトウモロコシ畑」では通常の水の半分の量しか与えられていないにも関わらずしっかりと実がなっていた。実用化できれば、さらに多くの地下水をくみ上げる必要がなくなることに繋がる。研究所のオスマン・イェネル所長は農家に技術を知ってもらうことが重要だと話す。「農家の畑で実際に栽培し一緒に収穫を行い、評価してもらいます。例えば、我々が開発した干ばつ耐性品種と市場に出回っているほかの品種との収穫量の違いを農家が直接、確認できるようにすることで干ばつ耐性品種を選んでもらえるようになります」また干ばつ対策は品種改良だけではない。研究所では土壌をなるべく耕さない栽培方法を推奨している。耕さないことで土壌にある水分の蒸発を抑えることができ、新たに水を撒くことをしなくても作物が効率よく育つという。また耕うん機を動かすための燃料や排ガスなども削減できるメリットもある。灌漑に関する研究も行っており、水を効率的に利用し、より少ない水でより多くの収穫量を得ることを目指した研究を行っている。「新しい方式を取り入れ、水の使用量が少ない作物を栽培し、水の使用量が少ない灌漑システムを利用すれば、地下水の減少を防ぐことができます。陥没穴の発生原因のうち人間の活動によるものについては、こうした農法によって防ぐことができるんです」巨大陥没穴が多発するトルコ中部のコンヤ。落ちれば命の危険もあるほどの大きく深い穴が突然、できる恐怖と向き合いながら市民が生活していた。一方でお金を稼ぐために多くの水を使い穀物を育てなければいけない農家の方たちがいるのも現実。陥没穴から自らの命を守りながら将来にわたって生活を守るためにも、コンヤ全体で持続可能な農業への転換が早急に求められている。【取材・執筆=フジテレビ イスタンブール支局長 加藤崇】