深海の「メタン」を栄養源にする細菌を体に住まわせてエサとして食べる新種のウミグモが発見される
アメリカの東太平洋沿岸で発見された新種のウミグモ3種が、温室効果ガスとして知られるメタンを栄養源にする細菌を自分の体に住まわせる代わりに、これらの微生物をエサとして食べていることが報告されました。
Methane-powered sea spiders: Diverse, epibiotic methanotrophs serve as a source of nutrition for deep-sea methane seep Sericosura | PNAS
https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2501422122New Discovery of Deep Sea 'Spiders' Is Unlike Anything We've Seen Before : ScienceAlert https://www.sciencealert.com/new-discovery-of-deep-sea-spiders-is-unlike-anything-weve-seen-before
First methane-powered sea spiders found crawling on the ocean floor | CNN
https://edition.cnn.com/2025/06/17/science/spiders-deep-sea-methane-new-species陸上には植物などの光合成を基礎とする食物連鎖が存在しますが、太陽光が届かない深海に生息する生き物は、光以外のエネルギー源を利用しなくてはなりません。そのため、深海に生息する細菌の中には、メタンなどの硫化水素などの化合物を栄養源とするものも存在します。
アメリカ・オクシデンタル大学の研究チームは、2021年から2023年にかけて、カリフォルニアからアラスカの東太平洋沿岸にある3カ所のメタン湧出帯の遠隔調査を実施。この調査により、メタン湧出帯から25m以内の海底で新種のウミグモ3種が採集されました。
以下の動画は、ウミグモが採取されたメタン湧出帯のひとつであるカリフォルニア沖のデル・マー湧出帯の映像。水深1000mを超える深海でありながら、チューブワームや魚などさまざまな生物が生息していることがわかります。Inside the Del Mar Seep - YouTube
セリコスラ属に分類されたこれら3種のウミグモを調べたところ、メタンとメタノールを炭素とエネルギーに変換するメチル栄養細菌が、ウミグモの外骨格上に密集して生息していることが確認されました。 この結果から研究チームは、「ウミグモが自分の外骨格上に生息している細菌をエサとして食べているのではないか」という仮説を立てて、海底を模した環境でさらなる実験を行いました。実験では、メタンと二酸化炭素にそれぞれ異なる炭素同位体で印を付けて、ウミグモをこれらのガスにさらし、それぞれの同位体がどのように移動するのかを追跡したとのこと。
同位体分析の結果、ウミグモに生息する細菌がメタンまたはメタノールから炭素を作り出しており、さらにこれらの細菌がウミグモの消化組織に取り込まれていることが示されました。これはつまり、ウミグモが自身の外骨格上に生息する細菌をエサとして食べていることを示しています。
一般に多くのウミグモは陸生の近縁種と共通点があり、大きな管状の牙などを使ってクラゲなどの獲物を捕らえ、動けなくして体液を吸い取っているとのこと。しかし、今回発見されたウミグモを実験室で調べたところ、獲物を捕らえるための器官がないことがわかりました。論文の共著者でオクシデンタル大学の生物学教授を務めるシャナ・ゴフレディ氏は、「まるで朝食に卵を食べるみたいに、ウミグモは体の表面をはい回る微生物を栄養源として食べています」と述べています。
以下の写真に写っているのが、今回調査されたウミグモのメス(左)とオス(右)です。3種のウミグモは体長はわずか1cmしかないため、それほど遠くまでは移動できない可能性が高いとのこと。ウミグモと細菌の関係について、ドイツのマックス・プランク海洋微生物学研究所で共生部門長を務めるニコール・デュビリエ教授は、「(ウミグモの外骨格上に生息することで)細菌は必要なすべての条件がそろったちょうどいい環境を得ています。たとえ全体の80%がウミグモに食べられても、残りの20%が生存し、繁殖し続けることに価値があるのです」と指摘しています。なお、デュビリエ氏は今回の論文には関与していません。 また、ウミグモの外骨格上に生息する細菌は世代を超えて受け継がれる可能性があります。今回観察されたオスのウミグモは、卵の入った卵嚢を最大20日間持ち続けており、これらの卵がふ化すると親ウミグモの体に生息する細菌が子ウミグモに付着するとのこと。 以下の写真中で黄色い矢印で記されているのが、オスが持っている卵です。
ゴフレディ氏は、ウミグモやその体表に生息する細菌が、地球温暖化を悪化させるメタンが地球の大気に到達するのを防ぐ役割を果たしている可能性があると指摘。「深海はとても遠いように感じますが、すべての生物は互いにつながっています。たとえ小さくても、これらの生物は環境に大きな影響を与えています」とゴフレディ氏は述べました。
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