中国は擁護者か破壊者か 「反帝国」掲げて進む国際秩序の先は
その電話は、「G2」時代に至る道標として語られることになるのだろうか。
11月24日、中国の習近平(シーチンピン)国家主席とトランプ米大統領との電話協議は約1時間にわたった。
2人は10月30日に、韓国・釜山で直接会談したばかりだった。だが電話協議の後、中国側から発表された内容は、1カ月前とは明確な違いがあった。
中国が最重要視する台湾問題への言及だ。
高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁をめぐり、日中間の応酬が激しさを増していた。習氏が電話協議を好機と捉えたのは間違いない。米紙ウォールストリート・ジャーナルの報道によると、習氏が台湾問題を提起し、協議の半分もの時間を台湾問題に費やした。
第2次対戦終結から80年の今年は、止まらない武力侵攻や、「米国第一主義」をかかげるトランプ米大統領の再登板で、各国の主権が尊重される世界が脅かされていることが鮮明となりました。揺らぐ国際秩序を追うシリーズの第4章は、米国が背を向けた空白を埋めるかのように存在感を増す超大国・中国と、その恩恵も脅威も受け止めるアジアの姿を描きます。
トランプ氏2期目の大統領就任直前から数えて計4回の対話で、台湾への言及は2回。いずれも「台湾問題は慎重に対処すべきだ」という控えめな主張だった。ただ、今回は過去にない言い回しで米側にくぎを刺した。
「台湾の中国への回帰は戦後国際秩序の重要な構成要素だ」
習氏は「中米はかつてファシズムと軍国主義に共に立ち向かった。第2次世界大戦の勝利の成果を共に守るべきだ」とも語りかけている。中国外務省は協議を通じ、台湾問題の重要性についてトランプ氏の「理解」を得たと喧伝(けんでん)した。
トランプ米大統領が「中国の習近平国家主席と私のG2会談は両国にとって素晴らしいものだった」などと投稿したSNSの画面=トゥルース・ソーシャルから米側の発表では、台湾に関する記述はなかった。ただトランプ氏は協議後、自身のSNSで「我々の中国との関係は極めて強固だ!」と良好な関係をアピールした。韓国での会談前後には、米中両国を「G2」と表現。G7(主要7カ国)ではなく、米中が世界をリードする構図に満足している、とも受け取れる。
中国にとっても、それは大きな意味を持つ。習氏がトップ就任直後にオバマ政権(当時)に対して求めるも拒まれた「新型大国関係」が、実質的には実現していると言えるからだ。
中国は戦勝国の一員として作り上げた今の国際秩序の擁護者であり、その国際秩序には中国への台湾の帰属も含まれている――。中国は戦後80年を機会に、こうしたナラティブ(物語)を世界に向けて宣伝しようとしている。
台湾周辺の海域を航行する中国の空母「山東」。台湾軍が3月31日に撮影した=台湾国防部提供だが、台湾海峡や南シナ海などで軍事的威圧を強める中国の動きは、周辺国からは「力による現状変更」と映る。
習氏は、中国など東洋側が力をつけ、米国など西洋側の支配が後退する「東昇西降」と呼ぶ世界観を持つとされる。現行の秩序に決して満足していないことも示唆する。
「反帝国主義」をうたって建国し、戦後秩序の擁護者を自任する中国が、国際秩序を塗り替える新たな「帝国」のような存在になりかねない、との懸念は消えない。
中国が持ちつつある力と、それがはらむ懸念。両方を同時に世界へ突きつけたのが、今年9月3日だった。
習氏は軍事パレードで何を見せたかったか
「中国は各国人民と共に人類…
この記事を書いた人
- 井上亮
- 中国総局|政治外交担当
- 専門・関心分野
- 中国社会、人口減少、移民
- 河野光汰
- ジャカルタ支局長
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