「極論だと“夏実施をやめる”となりますが」酷暑の高校野球…高野連が悩む現場のリアル「地方大会は冷風機、扇風機の取り合いになるようで」(Number Web)
昨夏の甲子園(2024年:第106回全国高等学校野球選手権大会)は、酷暑の時間帯の試合を避けるために――史上初めて一部の日程が午前・午後の「二部制」で行われた。 【大会初日:8月7日】 午前の部:朝8時半から開会式→10時から第一試合 夕方の部:16時から第二試合 【二日目、三日目:8、9日】 午前の部:8時から第一試合、第二試合 夕方の部:17時から第三試合 第三試合の多くはナイトゲームとなった。この「二部制」は、今年、さらに時期を広げて実施される。 【大会初日:8月5日】 16時から開会式→17時半から開幕試合 【二日目から六日目:6〜10日】※すべての一回戦と二回戦の一部 午前の部:8時から第一試合、第二試合 夕方の部:16時15分から第三試合、第四試合 (8月8日は午前の部のみ) さらに、第二試合が13時45分までに、第四試合が22時までに終了しない場合は「継続試合」となる。また、試合前に行う恒例の「シートノック」も、時間を7分間から5分間に短縮。実施するかどうかは各校の選択制にすることになった。
この「二部制」の導入について、日本高野連はどのように評価しているのか。 「正直申し上げると、ドキドキしているという心境です」 日本高等学校野球連盟、井本亘事務局長に話を聞くと、こう切り出して続けた。 「今年の気温上昇は例年よりも早くて、6月末には猛暑になっていましたし、無事に終わることができるか、不安に思っているのが正直なところです。 年々暑くなっているのは間違いないところですから、極論を言えば、この時期に実施するのをやめるとか、どこか別の会場で、ということになりますが、1〜2年ですぐ動けるわけではありません。長期的な展望は持つべきかとは思いますが、それとは別に、今置かれた環境でなにができるのか? 猛暑によるリスクはゼロにはならないでしょうが、少しでもリスクを減らそうとの考えで、新たな施策を導入したわけです」 ――大会期間中の気温や湿度の変化などには、どう対応するのでしょうか。場合によっては試合を中止するようなことはあり得るのでしょうか? 「気温や湿度などは計測しています。確かにその数字は大事ですが、数字だけが独り歩きすると、何もできなくなってしまう可能性がある。もちろんWBGT(暑さ指数=湿度、日射・輻射など周辺の熱環境、気温の3つを取り入れた熱中症を予防する目的で考案された指標)も計測しますし、いろいろ情報を収集しながら判断します。グラウンドレベルに立ってみて、今日はちょっと暑くてより注意が必要なのではないかという時には、チームに注意を喚起したり、よりこまめな水分摂取を促したりします。また球場に待機している理学療法士や医師にも選手の状態をより注視してもらうなど、臨機応変な対応をしていきます」
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――地方大会は日本高野連ではなく各都道府県の高野連の主催試合だが、地方大会でも厳しい暑さへの対応に苦慮しています。日本高野連として、都道府県高野連に呼び掛けたりはしていないのでしょうか? 「暑さが厳しくなった数年前からは、都道府県大会も厳しくなっていますが、甲子園でやっていることを都道府県でそのままできないと思います。また都道府県によっても意識の差があります。 ただ数年前から、各地方でこういう『暑さ対策』をしていますという情報を資料にして配布しています。情報共有を進めているんですね。あと、大会で出る剰余金の中から、各都道府県に暑さ対策へ向けた助成をしています。 今、都道府県の選手権大会をやっている球場が約240〜250ほどありますが、中には何の施設もない球場もあります。そういうところで『冷風機とか扇風機などを仮設でもいいので設置して、そのレンタル料に助成金を使ってください』という呼びかけはしています。 ただレンタルの冷風機、扇風機は取り合いになるようで、入手が難しかった地方もあったようですが」
――地方大会ではいまだに、午後1時などカンカン照りの時間にプレーボールをしているところもあるのが現実です。 「球場によっては照明がなくて、ナイトゲームができないところがあります。そういうところでは遅くとも17時半くらいに試合を終えないといけなかったりする。また運営する人の配置や、審判の事情などで、開始時間を動かしたくてもできない連盟も結構あるようです。そんな中で工夫をしていただいています。富山大会は今年、9時と15時の試合開始になりました。 全国的に一日2試合が基本で、3試合する日程は、少なくなっていると思いますが、各都道府県でできる暑さ対策を精いっぱいやってもらっています。私どもは、それをできる限り支援している状況ですね」 筆者は今年も、各地の地方大会を回って試合を観戦している。昨年であれば、7月上旬はまだしのぎやすかったのだが、今年はすでに凶暴な暑さだった。高校野球を巡る環境は、毎年確実に厳しくなってきている印象だ。日本高野連も都道府県高野連も「夏の高校野球」を維持するために、必死に対策を練っている。 ただ、地球温暖化が今後も進行するとすれば、高校野球は次の段階に進まざるを得ない。井本事務局長の口ぶりからは「思い切った手を打つことも含め、あらゆる手段を考える」という強い意志が感じられた。
その酷暑対策に関連して高校野球ファンの中で賛否が起きているのが「7回制」である。先日、日本高野連が実施したアンケートの文面は、どのようなものだったか。〈つづく〉
(「酒の肴に野球の記録」広尾晃 = 文)
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――JFA(日本サッカー協会)は、WBGTが31以上の場合は原則的に試合はしない、と決めています。 「2023年のインターハイ(全国高校総体)は北海道で行われましたが、涼しいはずの北海道で気温が35度になってテニスや陸上競技など、複数の競技運営が大変だったと聞いています。これからはそういう時代になってきています。 確かにそういうことも考慮すべきでしょうが、野球は攻守交代があるので、少し事情が違うと思います。もちろん暑さ対策には万全を期しますが、必ずしも他の競技と同列で考えることはできないと思っています」
――インターハイなどは観客席がいっぱいになることは少ないが、甲子園の場合、多くの観客や応援団が観戦に訪れる。こうした観客席の暑さ対策も気になります。 「都道府県大会も同様ですが、高校野球は、入場料収入を主な収入源に大会を運営しています。 観客のみなさんは、暑い中を自分の意思でお金を払って観戦に来られます。そうはいっても、観客席で大きなアクシデントはあってはならない。私たちも気を使っているところです。熱中症になった人は、救護室で手当てをしています。 確か101回大会(2019年)から、甲子園球場のアルプススタンドの中に小さな部屋があるのですが、ここを臨時の休憩所にして、塩分補給のタブレットやドリンクなどを置いて、しんどくなる人に使ってもらうようにしました。本当に救護室に行って診察してもらわないといけなくなる手前の段階の人に、一息ついてもらって回復してもらうような目的ですね。 応援団の方に限ってはいますが、吹奏楽部の人なら5回のクーリングタイムにそこにいってもらうなどの対策もしています」 ――甲子園球場では、銀傘(屋根)がアルプススタンドまで拡張する工事が決まりました。 「3年先の話ですが、これによって応援席の6割くらいはカバーできると思います。 ただ、野球部の控え選手を中心とした応援団は暑さに慣れていますが、甲子園出場が決まって『さあ、応援に行こう』とやってきている一般の方が厳しいですね。今の時代、生まれたときからクーラーなど空調設備があるのが当たり前の生活をしている方が多くなっている中、猛暑の中で応援することになりますから。暑さ対策をしっかりして、応援していただきたいと思っています」