榴弾砲の砲身をFPV自爆ドローンから守る裂いた金属ワイヤー装甲(JSF)
2022年2月24日から始まったロシア-ウクライナ戦争ではドローンが猛威を振るっており、特に2023年後半あたりから使い捨てのFPV自爆ドローンが主流となっています。ドローンに対戦車ロケットの成形炸薬弾頭を搭載して体当り攻撃を仕掛けるもので、電動プロペラで飛ぶ遅いが射程の長い安価な対戦車ミサイルのような存在となっています。FPVとはFirst Person View(一人称視点)の略で、ドローンに搭載されたカメラの映像を専用のゴーグルを通してリアルタイムで視認して遠隔操作を行います。また2024年春ごろからは光ファイバー有線式FPV自爆ドローンが登場し始めて、無線電波妨害を無効化しています。
そしてこれに対抗して防御側もFPV自爆ドローン対策を行うようになりました。まず効果的だと判明したのは網を張ることです。対戦車ミサイルよりも速度の遅いドローンは簡単な網を張るだけでも止められることが判明しました。上手くいけば網で柔らかく受け止めて弾頭の不発を狙えます。また網装甲への接触時にドローンの姿勢を乱すことで、成形炸薬弾頭の起爆時にメタルジェットの射出方向を逸らして、直撃を回避するという効果も狙えます。また単純に距離を取って起爆させることで、適切ではないスタンドオフ距離により成形炸薬のメタルジェットの貫通力を弱める効果も狙えます。
しかし高速で突入して来る対戦車ミサイルでは網程度では止められません。弾体への接触で大きく姿勢を乱すことも難しいでしょう。つまり対戦車ミサイルに対しては網装甲よりも、スラット装甲(細長い薄板)によって対戦車ミサイル自身の速度を利用して成形炸薬弾頭のライナーを切り裂いた方が効果的になります。
関連記事:戦車のコープケージ装甲の役割の変遷:ジャベリン対策からドローン対策へ(2023年12月16日)
ただしスラット装甲よりも網装甲の方が作ることが簡単であり、ジャベリン対戦車ミサイルよりも遥かに安いFPV自爆ドローンの出現頻度の方が圧倒的に多くなると、装甲車両に装着されるのは自然と網装甲が主流になりました。なおスラット装甲も網装甲もTOW2B対戦車ミサイルのようなフライオーバー式の自己鍛造弾によるトップアタック攻撃には全く無力なのですが、TOW2Bは戦場で見かける数は少ないのであまり注意を払われていないようです。
なお「接触時にドローンの姿勢を乱すことで、成形炸薬弾頭の起爆時にメタルジェットの射出方向を逸らして、直撃を回避する」という効果に特化した網ではない別種の装甲も登場しています。これは「ハリネズミ装甲」または「タンポポ装甲」と呼ばれるもので、金属ワイヤーを裂いて広げて車両に突き出して装着します。突入して来たFPV自爆ドローンが接触した際に弾頭よりも先に機体に金属ワイヤーが引っ掛かれば大きく姿勢が乱れてしまい、成形炸薬弾頭が起爆しても射出されたメタルジェットは大きく逸れて、車両には貫通ダメージが生じないということになります。裂いた金属ワイヤーはタンポポの綿毛が枝分かれしている構造によく似ています。
前置きが長くなりましたが、このタンポポの綿毛のような裂いた金属ワイヤーを、榴弾砲の砲身に装着したものが初めて報告されました。2026年6月24日にウクライナ陸軍第68独立砲兵旅団が追加装甲を装着した「2P-22ボフダナ-BG牽引榴弾砲」の写真を公式Facebookで掲載しています。出典:68 окрема артилерійська бригада
榴弾砲の砲身を守る裂いた金属ワイヤー対ドローン装甲
ウクライナ陸軍第68独立砲兵旅団より追加装甲を装着した2P-22ボフダナ-BG牽引榴弾砲上記の写真を拡大、砲身に裂いた金属ワイヤーを多数装着している榴弾砲の砲身を守ろうとしているのは、既にウクライナ軍とロシア軍の両軍の間でFPV自爆ドローンで敵の榴弾砲の砲身を意図的に狙って破壊する戦法が常態化しているからです。この砲身の防護を目的とした裂いた金属ワイヤーの装甲は新たな試みです。細い砲身は僅かでもFPV自爆ドローンの成形炸薬弾頭のメタルジェットの射出方向を逸らせれば無傷で済むでしょう。
上記の写真を拡大、砲基部は鳥籠のような網装甲が張られているウクライナ陸軍第68独立砲兵旅団より追加装甲を装着した2P-22ボフダナ-BG牽引榴弾砲このように牽引式の榴弾砲であっても砲の基部は鳥籠のような網装甲を張る対策がすでに両軍ともに普及済みとなっています。また砲に直接網を張るのではなく、陣地の上部に偽装ネットを張って牽引式榴弾砲を収納して、砲身だけ偽装ネットから突き出して砲撃する運用もよく見られました。つまり剥き出しになりやすい漸弱な砲身が敵ドローンに狙われていたのです。肉厚の砲身も、戦車の装甲を貫通できる成形炸薬弾頭のメタルジェットが直撃すれば容易に穴が貫通してしまいます。しかしメタルジェットさえ直撃しなければ爆風程度では砲身はビクともしません。そこで砲身を守るために、試験管を洗うブラシのような形状の新装備が登場したのです。