横並び志向の若者たちが「自己成長」で就職先を選ぶ複雑な心理(PHPオンライン)

19歳の渡辺と同年代の主に大学生について書かれた、1冊の本がある。衝撃的なタイトルだ。 ――先生、どうか皆の前でほめないで下さい。 金間大介『先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社、2022年)は、大学生から20代半ばまでの若い世代を「いい子症候群」と呼ぶ。不当に褒められる、不当に与えられる、そういう状況に居心地の悪さを感じ、平等で競争のない状況を好むのだという。 たとえばホールケーキをサークルのグループで分けるとき。「いい子症候群」の若者は、大きいケーキと小さいケーキがあることを嫌がるという。 --------------------------------------------------------- いい子症候群の若者たちは、とにかく差がつく状況が苦手であり、特に過敏に反応するのが「自分だけが何らかの利益を得る」状態だ。 円形をきっちり11等分しようとするのも、少なくなった人がかわいそうというより(その人自身は全然気にしない)、多くなった人の気まずさを意識してのものだ。 (金間大介『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』) --------------------------------------------------------- なぜ平等を好むのか? 金間はこれを現代の不況や閉塞感からくるものとして説明していたが、私はここにも「報われ度」の感覚を見出したくなってしまう。つまり、誰か一人だけ「報われ度」の不平等があることの居心地の悪さを感じているのではないか。 「報われる」とはつまり、本来与えられるべき量が実際に与えられる、という状態でもある。だとすれば、いい子症候群の若者たちは、本来与えられるべきケーキの量が実際に与えられていない状態に強烈なNOを感じてしまうのではないか。 ただ自分がケーキを味わうだけではなく、他人と比較してケーキがどれだけ与えられたかに関心を払ってしまう。――これがいまの世代の特徴なのである。金間が伝えたかった点もそういうことだろう。 『ようこそ!FACTへ』においても、自己啓発セミナーの教師が、渡辺に対し「同世代との比較」で惨めさを強調する場面が登場する。つまり他人と比較せよ、と説くのだ。 --------------------------------------------------------- 「同い年が車代に悩む時、君はジュース代に悩み、同い年がマイホームに悩む時、君はジュース代に悩み、同い年が子供の学費に悩む時、君はジュース代に悩む」 (『ようこそ!FACTへ』1巻) --------------------------------------------------------- 他人と比較し、自分の報われなさを知る。――ここから渡辺の物語は始まる。こうして引用しているだけでも胸が切り刻まれるような心地になる場面だが、同世代と比較することで、彼は「ジュース代から成長しない」ことを知るのである。 実際、彼のバイトは食肉の冷蔵倉庫の積み下ろしだ。冷凍肉の積み下ろしは永遠に続き、仕事は日々何も変わらない。成長の実感も何もない職場である。 「成長」。それさえあれば渡辺は救われたのだろうか。努力が報われる場所に向かうことができるような、成長できる実感をもてるような仕事があれば。――『ようこそ!FACTへ』が示す、渡辺の仕事に存在しなかった、「成長」。じつは、それはいま最も若い世代が求めるものだと言われている。

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