【米国市況】S&P500上げ削る、関税巡る不安で-ドル一時143円台
29日の米金融市場では、前日のエヌビディア決算を好感して始まった株式相場が上げを削る展開。経済減速を示す指標とトランプ大統領の関税政策に関する司法判断の行方が見通せないことが重しとなった。またトランプ氏はパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長に対して改めて利下げを要求した。ドルは主要通貨に対して全面安となり、円は対ドルで一時143円台まで上昇。米国債は堅調な7年債入札を受けて一段高となった。
株式
主要3株価指数はそろって反発。ただ、S&P500種株価指数は一時約1%高まで値上がりしたが、0.4%高で終了した。
株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 5912.17 23.62 0.40% ダウ工業株30種平均 42215.73 117.03 0.28% ナスダック総合指数 19175.87 74.93 0.39%米連邦高裁はトランプ米大統領が世界各国・地域に対して課した関税の大半を違法とした米国際貿易裁判所の判断について、その効力を一時的に停止する判断を下した。
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UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのウルリケ・ホフマンブチャディ氏は「通商政策や財政政策に関する材料が出てくる中で、市場のボラティリティーは今後さらに高まると予想している」と指摘。「米国株は今後12カ月に上昇するとみているが、年内の短期的な値上がり余地は限られるだろう」と述べた。
朝方発表された1-3月(第1四半期)国内総生産(GDP)改定値は0.2%減となったほか、個人消費が約2年ぶりの低い伸びとなった。また米失業保険統計では継続受給者数が増加し、2021年11月以来の高水準となった。5月の失業率上昇を示唆している可能性がある。
トランプ大統領はこの日、パウエルFRB議長とホワイトハウスで会談し、利下げを強く求めた。トランプ氏が2期目を迎えて以来、両者によるホワイトハウスでの会談は初めて。
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個別銘柄では、エヌビディアが3.2%高と、大型ハイテク株の上昇をけん引した。セールスフォースは3.3%安。決算で人工知能(AI)エージェント製品が今後、収益面での柱になる可能性を示唆したが、売上高の伸び鈍化に対する投資家の不安を和らげるには至らなかった。
米国債
米国債相場は上昇。弱い経済指標に加え、7年債入札が堅調な内容となったことで相場は一段高となった。こうした中、来年初頭までに2回の利下げが行われるとの見方が強まった。
国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.92% -5.5 -1.12% 米10年債利回り 4.42% -5.7 -1.28% 米2年債利回り 3.94% -5.4 -1.34% 米東部時間 16時54分短期金融市場では、来年1月までに合計で55ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げを織り込んでおり、次の利下げは10月になるとの見方を反映している。
ソシエテ・ジェネラルの米金利戦略責任者スバドラ・ラジャッパ氏は「債券市場が注視しているのは、こうした不確実性が経済成長にこの先どのような影響を与えるのかという点だ」と指摘。「FRBは可能な限り現行政策を維持しようとするだろう」と述べた。
7年債入札(発行額:440億ドル)では、最高落札利回りが4.194%と、入札前取引(WI)水準の4.216%を大きく下回った。また応札倍率も改善するなど、引き合いが強かったことを示した。
今週実施された入札では、2年債、5年債のいずれも堅調な需要を集めており、「米国売り」に対する懸念を和らげる格好となった。
為替
ニューヨーク外国為替市場では、ドルが主要通貨に対して全面安。GDP統計と失業保険データが弱い内容になったことに加え、トランプ関税の司法判断に関する動きにも注目が集まった。
為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1215.10 -5.28 -0.43% ドル/円 ¥144.17 -¥0.67 -0.46% ユーロ/ドル $1.1370 $0.0078 0.69% 米東部時間 16時54分ブルームバーグ・ドル・スポット指数は約0.5%低下。失業保険の継続受給者数の増加とマイナス成長となったGDPが投資家の不安を高めた。
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円は対ドルで上昇。一時は約0.6%高の143円96銭まで買われた。
ソシエテ・ジェネラルのストラテジスト、キット・ジャックス氏は、今回の関税違法判断を巡り「関税による米国の輸入価格と需要への影響が明らかになる時期がさらに遠のくことだけは確かだ」と指摘。「すでに高い不確実性の度合いがさらに高まったと確実に言える。決定が先延ばしされる投資や支出が増え、米国資産を保有する外国人投資家は、これまでより幾分居心地の悪い状況に置かれるだろう」と述べた。
原油
ニューヨーク原油相場は反落。トランプ大統領の関税措置にいったん司法のブレーキがかかり、リスクオンのセンチメントが広がったものの、景気の軟化を示唆する統計と供給増への懸念で相殺された。
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の産油国で構成するOPECプラスは、31日の会合で供給引き上げを決定するようだと、インタファクス通信がカザフスタン当局の情報として報じた。引き上げ幅はまだ決まっていないという。1-3月の米実質GDPは改定値もマイナスとなり、金融市場全般で高値を離れる動きが見られ、これも原油相場への圧力を強めた。
TDセキュリティーズの商品ストラテジスト、ダニエル・ガリ氏は「持続的な価格上昇への道はなおも極めて狭い」と指摘。向こう数カ月はOPECプラスからの供給増加で、市場は消化に苦戦するだろうと述べた。短期的には週末の会議に向けて、アルゴリズムによる売りが価格に下押し圧力をかけるとの見通しを示した。
原油相場は1月中旬から下落基調にある。トランプ政権が仕掛けた関税戦争の影響が懸念される中、OPECプラスによる供給増という向かい風が吹いている。貿易の緊張は世界市場を揺さぶり、経済成長と商品需要に対する不安を高めている。
一方、カナダではアルバータ州のオイルサンド地帯で発生した山林火災の影響で、同国原油生産の約5%が脅かされている。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物7月限は、前日比90セント(1.5%)安い1バレル=60.94ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント7月限は1.2%下げて64.15ドル。
金
ニューヨーク金相場は反発。欧州時間ではドル高を受けて下落していたが、ドル相場が下げるに伴い金はプラス圏に浮上した。ドル安は米国外の買い手にとって金の投資妙味を高める。
ドルは今年に入り地合いが悪化。ホワイトハウスが仕掛けた貿易戦争を受けて、投資家は従来の米資産投資を見直しており、いわゆる「米国売り」が始まっている。先行きが見通しにくい状況は、金など安全資産の需要を高める要因にもなっている。
元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長のジム・オニール氏は「向こう1年間を見渡すと、ドルの一段安以外に考えられない。ドルは著しく過大評価されているからだ」とブルームバーグテレビジョンとのインタビューで話した。
金価格は先月記録した過去最高値を約180ドル下回っているが、年初からは依然25%余り上昇している。
TDセキュリティーズのシニア商品ストラテジスト、ダニエル・ガリ氏によれば、関税を巡る状況がどう展開しようと、向こう数週間にはトレンド追従の商品投資顧問業者(CTA)からの買いが入ると見込まれている。
金スポット価格はニューヨーク時間午後2時42分現在、前日比33.52ドル(1%)高い1オンス=3321ドルちょうど。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は、前日比21.50ドル(0.7%)高の3343.90ドルで引けた。
原題:S&P 500 Rally Fades on Tariff Angst as Bonds Climb: Markets Wrap
Treasuries Extend Gains After Strong Sale, Signs of US Slowdown
Dollar Erases Gains on US Tariff Ruling, Eco Data: Inside G-10
Oil Declines as OPEC+ Supply Concerns Overshadow Tariff Relief
Gold Rebounds as Dollar Gives Up Gains From Trump Tariffs Ruling(抜粋)