更年期症状と食事を摂るタイミングの関連を調査 脂質食品をいつ摂るかが心臓の不快感の強さや頻度と関連

女性の更年期症状の現れやすさが、脂質食品を摂取するタイミングと関連しているとする研究結果が報告された。イタリアの過体重・肥満の閉経後女性を対象に行われた横断研究によるもので、著者らは更年期障害の栄養療法として時間栄養学の応用可能性を示すものとしている。

女性の更年期と時間栄養学

性ホルモン分泌の変化による女性の更年期は、体重増加、内臓脂肪蓄積、インスリン感受性低下、心血管代謝疾患リスク上昇などの変化をもたらしやすい。これらの変化が食習慣を含むライフスタイルにより修飾されることも知られている。

一方、多くの研究から食事摂取のタイミングが生体リズムに影響を及ぼし、疾患リスクにも影響を与える可能性が示唆されてきている。エネルギー産生栄養素の中でとくに脂質はホルモンバランスへの影響が大きいことが報告されており、また動物実験では脂質摂取の時間帯により概日リズムが変化することが示されている。

これらの知見から、更年期の女性、とくに過体重や肥満である心血管代謝リスクが高い閉経後女性では、脂質食品の摂取タイミングが更年期症状の出現に関係している可能性が想定される。しかしこれまでのところ、そのような視点で行われた研究の報告はみられない。

BMI25以上の閉経後女性100人の食事・栄養素摂取タイミングと更年期症状の関連を検討

この研究は、2023年にイタリアのフェデリコ2世ナポリ大学の内分泌外来を受診した、過体重または肥満の閉経後女性全員を対象にスクリーニングを実施し、適格条件を満たし研究参加の同意を得られた患者を対象に実施された。適格条件は閉経後(月経が1年以上ない、または子宮摘出後)でBMI25以上であり、除外基準はホルモン療法やインスリン療法中の患者、慢性疾患(呼吸器、腎臓、肝臓、脳などの疾患)、重度のメンタルヘルス疾患、食品アレルギー、何らかの特定の食事スタイルを採用していることなどだった。

100人の閉経後女性がこれらの基準を満たし解析対象とされた。おもな特徴は、年齢57.2±7.3歳、BMI36.0±7.4で、23%が喫煙者、81%が運動不足であり、44%が脂質異常症、43%が高血圧、13%が2型糖尿病だった。

更年期症状の評価

更年期症状の有無と強さは、更年期障害評価尺度(Menopause Rating Scale;MRS)で評価した。MRSは11の症状について、それぞれ0~4点で回答してもらい、合計スコアは0~44点の範囲となる。

本研究参加者の平均スコアは22.7±7.8で、中等度以下(スコア12点以下)が9%、やや重度(marked)が10%、重度(severe)が81%だった。頻度の高い症状は、不安、性的問題、関節や筋肉の不快感(いずれも85%)、睡眠障害(81%)などだった。

食習慣の評価

食習慣は7日間の食事記録により把握したうえで、起床から昼食にかけて摂取したものを1日の前半の食事、昼食終了の間食から就寝にかけて摂取したものを1日の後半の食事と二分し評価した。

摂取エネルギー量は1,436.3±401.2kcalで、1日の前半に53.3±13.5%、後半に46.7±13.5%摂取していた。炭水化物は170.7 ± 69.2gで、1日の前半に60.2 ± 17.1%、後半に39.8 ± 17.1%摂取していた。タンパク質は64.3 ± 18.5gで、1日の前半に46.9 ± 19.4%、後半に53.1 ± 19.4%摂取していた。脂質は58.0 ± 21.2gで、1日の前半に48.9 ± 19.4%、後半に51.1 ± 17.9%摂取していた。

脂質を1日の後半に多く摂るBMI25以上の閉経後女性は心臓の不快感が強い

エネルギー量と脂質摂取量の多寡は全体の中央値に基づき分類した。

まず、夕食の摂取エネルギー量の多寡で二分したうえで特徴を比較すると、年齢、初経・閉経年齢、BMI、閉経後の体重増加、運動習慣の有無、自然閉経/外科的閉経の割合、脂質異常症・高血圧・糖尿病の割合には有意差がなかった。評価した項目の中で唯一、喫煙率のみに有意差が認められ、夕食の摂取エネルギー量が多い群の喫煙率が高かった(10 vs 36%、p=0.002)。

1日の前半の摂取エネルギー量、脂質摂取量の多さは心臓の不快感の少なさと関連

次に1日の前半の摂取エネルギー量の多寡で二分したうえで、更年期障害評価尺度(MRS)のスコアを比較すると、心臓の不快感のスコアに有意差が認められ、摂取エネルギー量が少ない群のほうがその症状が強く認められた(1.5±1.3 vs 1.0±1.2、p=0.045)。その他の10項目の症状、および11項目合計のスコアは、有意差がなかった。

1日の前半の脂質摂取量の多寡で二分したうえでMRSスコアを比較すると、やはり心臓の不快感のスコアに有意差が認められ、脂質摂取量が少ない群のほうが強かった(1.5±1.3 vs 0.9±1.2、p=0.013)。一方、膀胱症状については、1日の前半の脂質摂取量が多い群で強く認められた(0.7±1.1 vs 1.2±1.3、p=0.040)。その他の9項目の症状、および11項目合計のスコアは、有意差がなかった。

1日の後半での脂質摂取量の多さは心臓の不快感の強さと関連

次に1日の後半の摂取エネルギー量の多寡で二分したうえでMRSスコアを比較すると、有意差のある症状は特定されず、11項目合計のスコアも有意差がなかった。

1日の後半の脂質摂取量の多寡で二分したうえでMRSスコアを比較すると、心臓の不快感のスコアに有意差が認められ、脂質摂取量が多い群のほうが強かった(0.9±1.2 vs 1.6±1.3、p=0.007)。その他の10項目の症状、および11項目合計のスコアは、有意差がなかった。

脂質摂取のタイミングが心臓の不快感の強さと有意に相関

最後に、1日の前半の脂質摂取量(%)、および、1日の後半の脂質摂取量(%)と、心臓の不快感のスコアとの関連を検討。交絡因子未調整モデルで、1日の前半の脂質摂取量が多いほど心臓の不快感のスコアが低く、反対に1日の後半の脂質摂取量が多いほど心臓の不快感のスコアが高いという有意な関連が認められた。

年齢、BMI、総摂取エネルギー量を調整後にも同様の有意な関連が認められた(r=0.219、p=0.028〈1日の前半の脂質摂取量についてはr=-0.219〉)。

この結果に基づき著者らは「エネルギーと脂質を1日の後半に摂取する習慣は、過体重・肥満の閉経後女性における更年期症状の頻度や強さと関連していた。この食習慣は、これらの女性の心血管系の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。よって、エネルギーと脂質を1日の早い時間帯に摂取するという時間栄養行動を採用することが、過体重または肥満の閉経後女性に有益である可能性がある」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Timing matters: lipid intake and its influence on menopausal-related symptoms」。〔J Transl Med. 2025 Aug 18;23(1):934〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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経済的に困窮している人の生活の保障を目的とする生活保護において、高齢男性の利用者では食品多様性が乏しいことが明らかになった。神奈川県立保健福祉大学の研究グループの成果であり、「International Journal for Equity in Health」に論文が掲載されるとともに、日本老年学的評価研究のサイトにプレスリリースが発行された。

著者らは、この研究結果が、経済的支援だけでは日々の食生活の質、すなわち“食の豊かさ”を十分に支えきれていない可能性を示しているとしている。一方で、日常的に誰かと食事をする(=共食)習慣はすべての高齢者の食品多様性を高める傾向があり、特に生活保護利用者の共食習慣は経済的支援だけでは補えない“食の豊かさ”を支える手がかりとなることが示唆され、こうした結果は、高齢者が健康で尊厳ある生活を送るためには、経済的支援とあわせて、社会的関わりを育むなど孤食を防ぐための支援の重要性を示しているという。

食品多様性とは

野菜、果物、肉、魚、豆類など、さまざまな種類の食品が食事にとり入れられていること。食品多様性が高いと、栄養素の摂取や健康状態、生活の質が向上することなどが報告されている。

図1は、生活保護利用有無と「共食習慣」(毎日誰かと一緒に食べる習慣)有無別の食品多様性スコアを示している。

図1 生活保護利用有無と共食習慣有無別の食品多様性スコア

※年齢、独居、婚姻状況、教育歴、世帯収入、疾患(糖尿病、高脂血症、高血圧、がん、うつ病)、オーラルフレイルリスク、手段的日常生活動作(IADL)、歯の本数、義歯の使用、飲酒、喫煙で調整。

(出典:神奈川県立保健福祉大学)

男性では、共食習慣がない場合、生活保護を利用している人の食品多様性は非利用者よりも低く(p=0.04)、生活保護制度が“食の豊かさ”を十分に支えきれていないことが示された。一方、共食習慣のある男性では、生活保護の利用にかかわらず、食品多様性が比較的高く保たれている傾向があった(交互作用p=0.07)。女性ではこのような差はなかった。

これらの結果は、共食習慣をもつことが、生活保護利用者と非利用者の間にみられる食の豊かさの差を緩和できる可能性を示唆している。

研究の背景:高齢者の健康的な食生活に影響を及ぼし得る習慣とは

食品多様性が豊かであることは、健康で文化的な生活に欠かせない要素。しかし、経済的困窮は食習慣の悪化を招き、食品多様性を損なう要因となる。

日本の生活保護制度は、経済的に困窮する人に対し「健康で文化的な最低限度の生活」を保障することを目的としているが、生活保護の利用が健康的な食生活を十分に保障できているのかは明らかではない。その一方で、「毎日誰かと食事をする(共食)」は健康的な食生活を保障できる可能性が国内の研究で指摘されてきた。

そこで本研究では、高齢者における生活保護の利用および共食習慣が高齢者の食品多様性に与える影響を検証した。

対象と方法:生活保護利用の有無、共食習慣の有無で食品多様性スコアを比較

日本老年学的評価研究のデータ(2022年)を用い、65歳以上の1万4,467人(男性7,353人、女性7,114人)を対象とした。食品多様性は食品多様性スコア(0~10点)で評価した。関係性を検討した項目は生活保護の利用有無および共食習慣(毎日誰かと食事をしているか)有無とし、一般線形モデルを用いて解析した。年齢、独居、婚姻状況、疾患などを調整し、生活保護利用と共食の交互作用を検討した。

結果:男性の生活保護利用者は食品多様性スコアが低いが共食習慣があると有意差なし

生活保護利用者は男女ともに非利用者より食品多様性スコアが低く、とくに男性でその差が顕著だった(3.5点 vs 1.9点、4.5点 vs 4.1点)。社会人口学的要因を調整した後も、生活保護利用男性は非利用男性に比べて食品多様性スコアが低く(調整後β=-0.72、p=0.04)、健康的な食生活が十分に保障されていなかった。それに対して女性利用者では、非利用者との差はなかった(p=0.66)。

一方で、共食習慣は男女ともに、食品多様性を高める要因となっていた。とくに生活保護を利用する男性ほどその効果は大きく、共食習慣により食品多様性が非利用者と同じ水準まで向上する可能性が示唆された。

結論:孤食を防ぐ支援が「健康で文化的な最低限度の生活」の実現に重要

生活保護を利用している高齢男性は、利用していない高齢男性に比べて、食品多様性が乏しいことが明らかとなったが、その差は共食習慣が緩和できる可能性がある。経済的な支援だけではなく、社会かかわりを育む孤食を防ぐための支援が、「健康で文化的な最低限度の生活」の実現に重要であることが示唆された。

著者らは、「本研究は生活保護利用者の食生活に関するエビデンスを提供し、福祉政策や地域支援に示唆を与えるもの」としている。

プレスリリース

所得の少ない高齢者の”食の豊かさ”を保障するには経済的支援だけでは不十分~共食習慣は生活保護利用者の食を豊かにできる可能性~(日本老年学的評価研究機構)

文献情報

原題のタイトルは、「Public assistance program and food diversity among older people: a cross-sectional study using the Japan Gerontological Evaluation Study data : Public assistance program and food diversity」。〔Int J Equity Health. 2025 May 12;24(1):134〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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暑熱環境下や脱水が、長時間運動中の呼吸交換比、炭水化物酸化、グリコーゲン利用にどのような影響を及ぼすかを、システマティックレビューとメタ解析で検討した結果が報告された。暑熱環境では炭水化物の利用が高まるものの、脱水の影響は暑熱環境でのみ有意だという。

地球温暖化によるスポーツパフォーマンス低への対策

地球温暖化の影響により、暑熱環境でのスポーツ大会開催が増加している。暑熱環境では、炭水化物代謝が変化し、グリコーゲン利用の増大、炭水化物酸化の増加、乳酸の蓄積が生じ、これらはとくに持久系競技のパフォーマンス低下に関与すると考えられている。また、暑熱環境下での運動では脱水が起こりやすく、脱水もまたエネルギー基質の利用を変化させる可能性が示唆されている。

これらの影響について、今回取り上げる論文の研究背景に述べられているところによると、これまでに2報のナラティブレビュー論文が報告されているにとどまり、システマティックレビューとメタ解析のための優先レポート項目(preferred reporting items for systematic reviews;PRISMA)に準拠したレビューは実施されていないという。これを背景として著者らは、PRISMAに則したシステマティックレビューとメタ解析によって、暑熱環境および脱水が、長時間運動中の炭水化物利用に及ぼす影響を検討した。

5件の研究報告を統合して暑熱と脱水の影響を検討

PubMed/MEDLINE、SportDiscusに2023年12月までに収載された論文を検索し、2024年11月に追加の論文の有無を確認した。包括条件は、暑熱や脱水、またはそれら両者が、長時間(15分以上)の持久運動中の呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)、炭水化物の酸化、グリコーゲンの利用に及ぼす影響を、18歳以上の成人を対象として検討し、査読のあるジャーナルに掲載された英語による原著論文とした。ヒットした論文の参考文献もハンドサーチで検索した。論文発表の時期は制限しなかった。

一次検索で9,273報がヒットし、重複削除後に2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。251報を全文精査の対象として最終的に51件の研究報告を適格と判断した。

抽出された研究の特徴

51件の研究の参加者は合計502人(女性6%)で、2件の研究は女性のみを対象としていたほか、5件の研究に女性が含まれていた。暑熱環境の影響を検討した研究は29件(57%)で、脱水の影響を検討した研究は23件(45%)だった。また、脱水の影響を検討した研究のうち、11件(48%)は暑熱条件(34.9±3.9℃、相対湿度36.3±10.7%)で実施され、13件(57%)は温暖条件(20.6±5.9℃、相対湿度40.3±9.2%)で実施されていた。1件は、暑熱条件と温暖条件、および脱水条件と非脱水条件で検討されていた。

運動の負荷には自転車、ランニング、傾斜のあるトレッドミルなどが用いられていた。

脱水は暑熱環境下でのみ炭水化物利用に影響を及ぼす

暑熱負荷はRER上昇、炭水化物酸化亢進、グリコーゲン利用増加に関連

暑熱負荷のRERへの影響

暑熱環境が長時間運動中の呼吸交換比(RER)に及ぼす影響を検討した研究は23条件で実施されており、そのうち6条件で、暑熱負荷によりRERが有意に上昇することが示されていた。メタ解析の結果、暑熱負荷によりRERが有意に上昇することが示された(標準化平均差〈SMD〉=0.33〈0.16~0.50〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=27%)。

暑熱負荷の炭水化物の酸化への影響

暑熱環境が長時間運動中の炭水化物の酸化に及ぼす影響を検討した研究は21条件で実施されており、そのうち5条件で、暑熱負荷により炭水化物の酸化が有意に亢進することが示されていた。メタ解析の結果、暑熱負荷により炭水化物の酸化が有意に亢進することが示された(SMD=0.29〈0.08~0.51〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=50%)。

暑熱負荷のグリコーゲン利用への影響

暑熱環境が長時間運動中のグリコーゲン利用に及ぼす影響を検討した研究は9条件で実施されており、そのうち5条件で、暑熱負荷によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示されていた。メタ解析の結果、暑熱負荷によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示された(SMD=0.78〈0.22~1.34〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=71%)。

脱水による炭水化物利用への影響は暑熱負荷の有無で異なる

脱水のRERへの影響

脱水が長時間運動中のRERに及ぼす影響を検討した研究は24条件で実施されており、そのうち3条件で、脱水によりRERが有意に上昇することが示されていた。メタ解析の結果、脱水によりRERが有意に上昇することが示された(SMD=0.27〈0.12~0.42〉)。研究間の異質性は低かった(I2=13%)。

これを、暑熱負荷の有無別にサブグループ解析した場合、暑熱負荷を加えた場合には脱水によりRERが有意に上昇する一方(SMD=0.37〈0.10~0.64〉、I2=42%)、暑熱負荷を加えない場合は脱水によるRERの有意な上昇は認められなかった(SMD=0.21〈-0.00~0.43〉、I2=0%)。

脱水の炭水化物の酸化への影響

脱水が長時間運動中の炭水化物の酸化に及ぼす影響を検討した研究は17条件で実施されており、そのうち4条件で、脱水により炭水化物の酸化が有意に亢進することが示されていた。メタ解析の結果、脱水により炭水化物の酸化が有意に亢進することが示された(SMD=0.31〈0.11~0.51〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=41%)。

これを、暑熱負荷の有無別にサブグループ解析した場合、暑熱負荷を加えた場合には脱水により炭水化物の酸化が有意に亢進する一方(SMD=0.37〈0.14~0.60〉、I2=17%)、暑熱負荷を加えない場合は脱水による炭水化物の酸化の有意な亢進は認められなかった(SMD=0.27〈-0.14~0.67〉、I2=59%)。

脱水のグリコーゲン利用への影響

脱水が長時間運動中のグリコーゲン利用に及ぼす影響を検討した研究は7条件で実施されており、そのうち2条件で、脱水によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示されていた。メタ解析の結果、脱水によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示された(SMD=0.62〈0.22~1.03〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=48%)。

これを暑熱負荷の有無別にサブグループ解析した場合、暑熱負荷を加えるか否かにかかわらず、脱水によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示されたが、暑熱負荷を加えた1条件の研究では、より大きな影響が認められた。具体的には、暑熱負荷を加えない場合がSMD=0.47(0.14~0.80)であるのに対して(I2=35%)、暑熱負荷を加えた1報の報告はSMD=1.62(0.49~2.75)だった。

暑熱下では脱水回避、非暑熱下では体幹温度を上げない戦略がグリコーゲン温存に働く

これらの結果は、以下の3点に整理される。

  • 呼吸交換比(RER)、炭水化物の酸化、グリコーゲンの利用で評価される炭水化物の利用は、暑熱環境では一貫して増加する。
  • 脱水は、RER、炭水化物の酸化、グリコーゲンの利用を増加させる。しかし、暑熱環境下とそうでない場合とで分けると、脱水は暑熱環境でのみ、RERと炭水化物の酸化を有意に増加させ、非暑熱環境では脱水による炭水化物利用への有意な影響は認められない。
  • これらの結果は、長時間の持久力運動中の暑熱曝露によって炭水化物の利用が亢進し、その一方で脱水の影響は非暑熱環境では明らかでないことを示唆している。

著者らはこのトピックに関する既報文献の考察を加えたうえで、「炭水化物の需要を増やす主な要因は、体幹温度の上昇、とくに筋温の上昇であると考えられる。これらの知見は、とくに暑熱環境でない場合、運動中の炭水化物利用を抑制するための最も重要な戦略が水分補給ではない可能性があることを示唆している。むしろ、長時間のランニングなど、水分摂取の可能性が限られる状況においては、体幹温度を管理するための冷却戦略を実施することが効果的である可能性がある」と結論付けている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effect of Heat Stress and Dehydration on Carbohydrate Use During Endurance Exercise: A Systematic Review and Meta-Analysis」。〔Sports Med. 2025 Aug 20〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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大阪府で特定健診を受診した男女約17万人を対象に、飲酒量と腎機能との関連を調べたところ、毎日日本酒2合相当(アルコール40g)以上飲む男性では、将来、腎機能が30%以上低下するリスクが高いことが判明した。大阪大学の研究グループの成果であり、「Journal of Nephrology」に論文が掲載された。この研究では、詳細な飲酒量カテゴリの設定と長期間の追跡により、これまでは影響が不明確だった2合以上3合未満の飲酒について、腎機能低下との関連を調べることが可能になった。著者らは、「飲酒量に応じたリスク評価や生活習慣改善の指導など、効果的な保健指導が行われることが期待される」としている。

研究の背景:腎機能低下リスクとなる飲酒量を詳細に探る

多量飲酒と腎機能との関連について検討した過去の疫学研究では、多量飲酒の定義が「1日あたり日本酒1合相当以上」や「2合相当以上」など、研究ごとにばらついており、相反する結果が混在していた。近年実施された大規模疫学研究では、日本人30万4,929人(男性12万5,698人、女性17万9,231人)を対象とし、中央値1.9年間追跡することで、「1日あたり2合未満」の飲酒では腎機能の低下はみられなかったが、「1日あたり3合以上」の飲酒では、男性の腎機能低下のリスクが高いことが報告されていた。しかしながら、毎日2合以上3合未満の飲酒と腎機能との関連については、明確な結論が得られていなかった。さらに、女性は男性よりも飲酒の影響を受けやすいことが知られており、性別による影響の違いも考えられていた。

これらのことから、飲酒量の詳細なカテゴリを設定し、男女別で腎機能との関連を検討する必要があった。

研究の内容:男性は1日2合以上で、eGFR30%低下と有意に関連

2012~17年度の大阪府で特定健診を受診した16万9,272人(男性8万765人、女性8万8,507人)のデータを用い、飲酒量と腎機能(推算糸球体濾過量〈eGFR〉)低下との関連を男女別に検討した。飲酒量は、(1)飲まない、(2)たまに飲む、(3)毎日1合未満、(4)毎日1~2合未満、(5)毎日2~3合未満、(6)毎日3合以上の6カテゴリに分類された。

中央値2.8年間観察したところ、男性では1,231人(1.5%)で腎機能が30%以上低下した(図1)。とくに毎日2合以上飲酒する群(カテゴリ5と6)は、飲まない群(カテゴリ1)と比較し、腎機能低下のリスクが高いことが示された(カテゴリ1を基準〈リスク=1.00〉とした場合、2〜6リスクはそれぞれ、1.05倍〈95%信頼区間0.87~1.27〉、0.99倍〈0.80~1.21〉、1.05倍〈0.88~1.26〉、1.23倍〈1.01~1.51〉、1.61倍〈1.22~2.11〉となった)。

一方、女性では飲酒者が少なかったことから、十分な検討ができなかった。

図1 アルコール摂取量と腎機能30%以上の低下

(出典:大阪大学)

本研究成果が社会に与える影響:従来考えられていたよりも低用量で腎機能が低下

厚生労働省は、毎日日本酒1合相当を適量飲酒とし、それ以上の飲酒では健康リスクとなることを提唱している。腎臓に関して、過去に行われた日本人を対象とした大規模疫学調査より、毎日2合未満の飲酒では腎機能低下のリスクとはならず、3合以上の飲酒で男性の腎機能低下のリスクが高いことが報告されていた。

今回の研究では、毎日2合を超える飲酒で男性の腎機能低下リスクが高い可能性が示された。この知見は、飲酒による腎機能への影響が、従来考えられていたよりも低用量の飲酒で現れる可能性を意味しており、腎臓においても飲酒量に関する、より慎重なリスク評価が求められる。

関連情報

毎日日本酒2合相当の飲酒から、 男性の腎機能低下リスクが高まる 大阪府特定健診のビッグデータが示す、飲酒と腎機能低下の関係(大阪大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Alcohol Consumption and Incidence of Decline in Glomerular Filtration Rate and Proteinuria: The Osaka Kenko Innovation (TOKI) Study」。〔J Nephrol. 2025 Jul 13〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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朝食抜きと遅い夕食の習慣が、骨粗鬆症性骨折リスクの上昇と関連していることが、初めて明らかにされた。奈良県立医科大学の研究グループの研究結果であり、「Journal of the Endocrine Society」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

研究の背景:食習慣は骨粗鬆症による骨折リスクに関連があるのか?

骨粗鬆症による骨折は、とくに高齢者においてADL(日常生活動作)の低下を引き起こし、本人および家族のQOL(生活の質)を大きく損なう。寝たきりや施設への入所につながることもあり、生命予後にも影響を及ぼす。また、骨折による手術費、リハビリテーション費、そして介護費など、経済的負担も大きくなるため、骨粗鬆症を正しく診断・治療し、骨折を予防することは非常に大切。

骨粗鬆症の予防には、リスクの高い人を把握する必要がある。骨粗鬆症のリスクは、加齢、家族歴、薬剤に加え、さまざまな生活習慣がリスクとして関連している。これまで、喫煙、運動不足、睡眠不足が骨粗鬆症のリスクであり、食事のカルシウムやビタミンDの摂取不足の関連は言われていたが、いわゆる食習慣そのものに関する報告は限られていた。朝食抜きは骨密度の低下と関連する可能性があると報告されていたものの、実際の骨折リスクとの関連は不明だった。また夜遅い夕食に関しては、骨粗鬆症との関連を調べた研究自体が存在しなかった。

そこで今回の研究では、健康診断結果と紐づけられた日本の大規模なレセプトデータベース(病院や薬局が保険者へ請求する「診療明細(レセプト)」を匿名化して集めた巨大なデータベース)を活用し、生活習慣に関する問診に答えた人を対象に、「朝食抜き」「遅い夕食」という食習慣が骨粗鬆症性骨折に与える影響を調べた。

研究の成果:食習慣だけでなく、さまざまな生活習慣が骨折リスクに関連している

1,100万人の健診データが連結された日本の大規模レセプトデータベース(DeSCデータベース)を用いて、2014~22年に健康診断を受診し、骨粗鬆症の既往がない20歳以上の人を対象に解析を行った。生活習慣に関する情報は、健康診断時の問診票から取得し、朝食抜き(週3回以上朝食を抜いた)、遅い夕食(週3回以上、就寝2時間以内の夕食を摂る)に加えて、喫煙、運動、睡眠の質など、ほかの生活習慣もあわせて収集した。アウトカムは、レセプトデータに基づき、骨粗鬆症性骨折(大腿骨・橈骨遠位端・脊椎・上腕骨の骨折)の診断とした。

健康診断日を起点として、骨粗鬆症性骨折の発生または観察終了日までを追跡し、不健康な生活習慣の有無による骨折のリスクをCOX比例ハザードモデル※2により求めた。個々の生活習慣による独立したリスクを正確に計算するために、交絡因子となり得る既知の骨粗鬆症のリスクである、年齢や性別、ステロイド薬などの薬剤歴、関節リウマチ・糖尿病などの疾患の有無などで調整した。

対象者92万7,130人を、中央値2.6年追跡したところ、2万8,196人に骨粗鬆症性骨折が発生していた。骨折リスクについて、ほかのリスク因子を調整した後の骨折リスクハザード比(95%CI)は、朝食抜きが18%増加(調整ハザード比※3〈aHR〉1.18〈95%信頼区間※41.12~1.23〉)、遅い夕食が8%増加(aHR1.08〈1.04~1.12〉)を示した。その他の生活習慣では喫煙が11%増加(aHR1.11〈1.06~1.17〉)、運動習慣なしが9%増加(aHR1.09〈1.06~1.11〉)、不十分な睡眠が5%増加(aHR1.05〈1.02~1.07〉)と関連していた。さらに、朝食抜きと遅い夕食習慣をあわせ持つ人は、骨折リスクが23%増加(aHR1.23〈1.13~1.34〉)と、相加的にリスクが増加するという大きな影響が認められた。

とくに重要な点として、朝食を抜く習慣のある集団では、男性が多く、遅くに夕食を摂る、喫煙、運動不足、睡眠不良、体重増加傾向など、複数の不健康な生活習慣の集積が認められた。このことは、朝食抜きという習慣そのものよりも、その背景にある生活スタイルを明らかにして介入することの重要性を示唆している。例えば、働き盛りで忙しい男性では、朝食を摂る時間が確保できず、帰りが遅く夕食も遅くなりがちであることや、ストレスによって喫煙や飲酒量が増える可能性なども考慮する必要がある。

本研究の限界として、観察研究であることから因果関係を示すものではない点が挙げられる。生活習慣の改善によって本当に骨折を予防できるかどうかの証明には、前向きの介入研究が必要。一方で今回の結果は、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などは生活習慣病として知られているが、骨粗鬆症も重要な生活習慣病の一つであることを明確に示している。骨の健康のためにも、健康的な食習慣とともに運動習慣、禁煙、お酒を飲み過ぎないなど総合的な指導が大切と言える。

プレスリリース

朝食抜き・遅い夕食の習慣は骨折リスクを高める可能性があるー1100万人のデータ解析で食習慣との関連を初めて明らかにー(奈良県立医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Dietary Habits and Osteoporotic Fracture Risk: Retrospective Cohort Study Using Large-Scale Claims Data」。〔J Endocr Soc. 2025 Aug 28;9(9):bvaf127〕 原文はこちら(Oxford University Press)

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スポーツ栄養Web編集部


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日本のアスリートは百日咳ワクチンの追加接種を受けるべきではないかとする、岡山大学病院感染症内科の萩谷英大氏の論文が、「IJID Regions」に短報として掲載された。要旨を紹介する。

ポストコロナで百日咳が世界的に流行

百日咳は百日咳菌による感染症で、基本再生産数は15~17と報告されており感染力が強い。罹患すると風邪症状に始まり、数週間から数カ月にわたり咳が続くことがある。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック終息後には、マクロライド耐性株による流行が世界的規模で発生している。

幼児期から思春期にかけて、ワクチンの繰り返し接種が世界標準

百日咳の最も効果的な予防法はワクチン接種であり、国際的には幼児期から思春期にわたり繰り返し接種が推奨されている。例えば米国疾病対策センター(CDC)は、生後6カ月までに初回シリーズ(3回)を接種し、生後15~18カ月、就学前期(4〜6歳)、思春期初期(11〜12歳)の追加接種を推奨している。

日本の定期接種は乳幼児期までで終了、ワクチンのタイプも異なる

一方、我が国では、生後6カ月までに3回、12〜18カ月に1回の計4回が定期接種として行われるものの、それ以降は任意接種となるため大半の人は幼児期以降にブースト接種を受けていない。さらに、日本で用いられているワクチンは、ジフテリア、百日咳、破傷風に対する三種混合(DPT)ワクチンのみであり、抗原毒素量が海外で使われているものよりも多く、接種後の局所副反応が強く現れやすいという差異も存在する。

国際大会参加アスリート間で流行した事例がある

アスリートが百日咳に罹患した場合、軽快するまでの長期間、トレーニングに支障が生じたり、大会参加が制限されたり、パフォーマンスが低下する懸念がある。実際、過去にはポーランドの射撃ナショナルチームの選手間で百日咳が流行し、期待された成績を上げられなかったという事例の報告がある。

日本のスポーツを世界水準にするためには、ワクチン接種を世界標準に

国際化の進展とともに、人々の感染症罹患リスクは高まっており、国際大会に出場するアスリートも同様と言える。これらを論拠として萩谷氏は、「我が国のスポーツを世界水準に引き上げるためには、ワクチン接種政策を国際標準にあわせることが不可欠」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Should Japanese athletes undergo booster vaccination for pertussis?」。〔IJID Reg. 2025 Jul 31:16:100718〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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思春期におけるインターネット依存やソーシャルメディア使用障害は、食事の質の低下を介して摂食障害のリスク上昇と関連しているとする研究結果が報告された。トルコの高校生を対象とする横断研究の媒介分析とネットワーク分析からの知見であり、著者らはネット依存をターゲットとする介入が、この世代の食習慣と精神的健康を向上させ得ると述べている。

思春期のネット依存や食習慣の乱れは、後年の健康にも影響を及ぼす可能性がある

思春期は心理社会的発達の重要な時期であり、保護者の影響力の低下、および、感受性の高まりにより仲間から受ける力の上昇によって行動パターンが形成され、それが精神的・および身体的健康を左右する。思春期の行動パターンのうち、乱れた食行動(disordered eating;DE)は、有病率の高さと影響の及ぶ範囲の広さから、とくに重要な懸念事項として浮上している。最近のシステマティックレビューとメタ分析では、思春期の約22%に乱れた食行動(DE)がみられると推定されている。DEはしばしば、食事制限、過食、体型への過度なこだわりと結びつき、摂食障害(eating disorders;ED)のリスクと関連している。

一方、思春期のもう一つの問題として近年、インターネット依存症とソーシャルメディア使用障害の双方を含めた、問題のあるインターネットの使用(problematic internet use;PIU)の重要性が指摘されるようになった。PIUは、感受性とアイデンティティー形成が進む思春期において不適応な行動を増やすと考えられており、かつDEの修正可能な危険因子として報告されている。

他方、健康的な食習慣を含む健康的なライフスタイルは、ストレスや不安を軽減し、感情を安定させることが示されている。よって、健康的な食生活を守ることは、DEとPIU双方のリスクを抑制する可能性がある。

健康的な食習慣のパターンとして、地中海食が世界中で広く知られ実践されている。大うつ病性障害を含む精神疾患の治療における地中海食の有効性に関するエビデンスも存在し、さらに思春期世代の心理的苦痛の軽減や自己管理力との関連の報告もある。

以上を背景として本論文の著者らは、地中海食の実践状況で評価した食事の質が、思春期の子どものPIUの少なさやDEリスクと関連している可能性を想定し、以下の研究を行った。研究仮説として、(1)PIUはDEリスクと正の相関関係にある一方、食事の質は負の相関関係がある、(2)食事の質はPIUとDEリスクの関係を媒介する――という2項目が設定された。

トルコ国内の高校生を対象に横断調査を行い、媒介分析およびネットワーク分析

研究対象は、トルコ国内から無作為に選ばれた高校3校の生徒647人。乱れた食行動(DE)または問題のあるインターネットの使用(PIU)のため治療中の生徒、出席していない生徒、保護者の同意のない生徒は除外されている。なお、事前の統計学的検討で、この仮説の検証に必要なサンプルサイズは631と計算されていた。

PIUやDEのリスク、食事の質などの評価には次項に挙げる、いずれも精度検証済みの評価法を用いた。

解析対象となった高校生の特徴

解析対象者のおもな特徴は、年齢16.0±0.90歳、男子46%で、BMIは20.8±3.0であり、31%が低体重、11%が過体重・肥満だった。

摂食態度調査票(Eating Attitudes Test;EAT-26)は26項目で、それぞれ0~4点のリッカートスコアで回答し、合計20点以上の場合、乱れた食行動(DE)のリスクありと判定する。本研究では平均13.1±11.0点であり、20点以上でDEリスクありとされたのは18.2%だった。

若年者対象インターネット依存度テスト短縮版(Young Internet Addiction Test;YIAT-SF)は、12項目でそれぞれ1~5点のリッカートスコアで回答し、スコアが高いほど依存度が高いと判定する。本研究では平均31.3±9.6点であり、乱れた食行動(DE)リスクの有無で比較すると、DEリスクなし群(30.0±9.0点)に比較しDEリスクあり群(36.0±10.64点)は、スコアが有意に高かった(p<0.001)。<>

ソーシャルメディア障害(Social media disorder;SMD)尺度は、9項目の質問の5項目以上に該当する場合に、ソーシャルメディア障害と判定する。本研究での平均該当項目数は3.1±2.3であり、乱れた食行動(DE)リスクなし群(2.9±2.2)に比較しDEリスクあり群(4.1±2.5)は該当項目数が有意に多かった(p<0.001)。<>

地中海食品質指数(Mediterranean Diet Quality Index;KIDMED)は16項目からなり、3点以下は食事の質が悪い、4~7点は改善が必要、8~12点は食事の質が良いと判定する。本研究では平均4.4±2.3点であり、DEリスクなし群(4.3±2.3点)に比較しDEリスクあり群(5.0±2.4点)は、スコアが有意に高かった(p=0.004)。

このほかに、DEリスクの有無で、性別の分布(女子の割合)、世帯収入、父親の教育歴、および、1日のネット利用が2時間以上の割合については有意差がなかったものの、母親の教育歴に有意差がみられ、DEリスクあり群で大学・大学院以上の割合が有意に高かった(18.0 vs 28.0%、p=0.04)。

ネット依存度と乱れた食行動のリスクとが有意に正相関

前記の各指標の相関を検討すると、若年者対象インターネット依存度(YIAT-SF)とソーシャルメディア障害(SMD)との間に強い正相関が認められた(r=0.679、p<0.001)。また、乱れた食行動(de)リスクは、yiat-sf(r=0.300)およびsmd(r=0.274)と中程度の正相関があり、地中海食品質指数(kidmed)とは弱い正相関(r=0.153)が認められた(すべてp<0.001)。一方、bmiはすべての行動指標とも有意な相関を示さなかった。<>

このほかに媒介分析からは、問題のあるインターネットの使用(PIU)は地中海食品質指数(KIDMED)の低さ(β=-0.12、p=0.002)と関連しており、地中海食の遵守が乱れた食行動(DE)のリスクの上昇(β=0.15、p<0.001)と関連していることが示された。間接効果は有意であり(β=-0.02、p=0.016)、部分的な媒介効果が認められた。<>

ネットワーク分析から、YIAT-SFはDEリスク、SMD、およびKIDMEDをつなぐ中核的な因子であることが示唆された。

これら一連の結果を基に論文の結論は、「インターネット依存症は、食生活の質を介した乱れた食行動のリスク上昇と関連しており、思春期世代への介入において、この課題への対処が求められる」とされている。また著者らはこのトピックに関する、より長期にわたる研究の必要性を述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「The interaction between problematic internet use, diet quality, and disordered eating risk in adolescents: a mediation and network analysis」。〔Eat Weight Disord. 2025 Aug 4;30(1):61〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)と関連していることが示された。間接効果は有意であり(β=-0.02、p=0.016)、部分的な媒介効果が認められた。<>0.001)。また、乱れた食行動(de)リスクは、yiat-sf(r=0.300)およびsmd(r=0.274)と中程度の正相関があり、地中海食品質指数(kidmed)とは弱い正相関(r=0.153)が認められた(すべてp<0.001)。一方、bmiはすべての行動指標とも有意な相関を示さなかった。<>0.001)。<>0.001)。<>

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グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1受容体作動薬)を用いた肥満治療の社会的な影響を考察した、欧米の研究者によるレビュー論文の要旨を紹介する。GLP-1受容体作動薬使用中止後のリバウンドに対するサポート体制が不備であること、コストの点で治療を受けられる人とそうでない人の格差が生じており、持続可能性に課題があることなどが述べられている。

イントロダクション

世界では約7人に1人が肥満であり、この割合は2035年までに4人に1人へと増加すると予測されている。肥満は2型糖尿病や心血管疾患などのリスク因子であり、医療経済へ多大な負のインパクトを与え、また個人のQOL低下を招く。

この肥満に対して、グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1受容体作動薬)は、初めての極めて有効かつ安全な薬物治療の選択肢として登場した。治験段階では最大15~25%の減量効果が報告され、臨床においても高い減量効果が示されている。しかし、治療適応のあるすべての人が同薬にアクセスできるわけではなく、また補助的な行動療法の最適化に関する知見が限られており、さらに使用中止後のリバウンドへのサポート体制はほとんど確立されていない。

GLP-1受容体作動薬から最良の結果を得るために、GLP-1受容体作動薬がもたらし得る社会的な影響の総括が必要とされている。

GLP-1受容体作動薬は減量に非常に効果的である

GLP-1受容体作動薬による肥満治療により、体重の有意な減少とともに心血管イベントリスクの低下も報告されている。安全性プロファイルは一般に良好であり、高頻度に現れる消化器症状も多は時間の経過とともに軽減する。ただし場合によっては治療中止につながる。この点に関しては、GLP-1受容体作動薬とともに、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)の分泌刺激作用をもつGLP-1受容体作動薬/GIPデュアルアゴニストでは、消化器症状の頻度が低く、GIPの制吐作用が影響している可能性がある。

GLP1-RA使用に関連する別の懸念は、減量後の除脂肪体重、特に骨格筋の減少である。除脂肪体重の相対的減少は脂肪量の相対的減少よりも小さいため、身体機能の改善につながる可能性があるものの、この考え方はまだ推測の域を出ない。十分なタンパク質摂取とレジスタンス運動を併用することで、フレイルが懸念される場合の有用な緩和戦略となる可能性がある。

GLP-1受容体作動薬による肥満治療を提供する医療従事者の課題

これらの新薬は、今後数年間で体重管理の基盤となる可能性が非常に高い。米国では、2030年までに全人口の9%がGLP-1受容体作動薬を使用するとする推計もある。しかし、医療システムがそのような急速な普及を妨げる律速因子となるかもしれない。プライマリケア医が患者の体重管理にあてる時間は限られていて、補助的な行動支援をなし得る環境が整っていないことが多い。

今後のGLP-1受容体作動薬治療の成功は、治療提供者である一般開業医、看護師、栄養士、臨床心理士などのサポートが鍵となる。GLP-1受容体作動薬治療の有効性が社会的に認知されるようになり、その治療を求めて受診する患者が増加しているが、その需要に対応できる体制が整っていない医療機関も存在している。また、患者が高い期待を抱く一方で、当然ながら臨床医は処方と継続的なモニタリングの責任を負うことになり、一部の医療者が慎重になる傾向もみられる。

リバウンド

GLP1-RA治療では、その中止後にしばしば比較的大きなリバウンドがみられる。リバウンドの速度は、行動療法による介入で減量を達成後し介入を中止した場合に比べ、より速い傾向が報告されている。例えば、行動療法による介入後のリバウンドは年間0.12~0.32kgというデータがある一方、セマグルチドと補助的な行動支援ではその中止から1年後に、減少した体重の3分の2(約11.5kg)が戻ったという報告がある。

この課題に対する容易な解決策は、GLP-1受容体作動薬を使い続けることである。しかし米国での初期のデータによると、自己負担で治療を継続する患者は稀であり、肥満治療では約半数が1年以内に使用を中止している。将来的にGLP-1受容体作動薬の特許が切れ、より安価な薬剤が利用可能になれば変化することも考えられるものの、現状では減量とリバウンドを繰り返す「ヨーヨーダイエット」の懸念がある。

体重管理における不平等を拡大させるリスク

米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、および欧州の一部など、GLP1-RA療法が最も普及している国では、社会経済的格差がこの治療へのアクセスの差となって表れている。現在、GLP1-RAはわずかなメーカーの寡占状態であり、これが他の医薬品の場合と同様に高コストにつながっている可能性が高い。

特許が切れ始めると価格が下がる可能性があるが、すべての肥満患者がGLP-1受容体作動薬療法を受けられるようになるのは、たとえ高所得国であっても遠い先のことと思われる。低栄養と過栄養という二重不可に直面している国では、肥満治療のためにコストをかけることは困難であることが多いと考えられ、アクセスの不平等が拡大するのではないか。

肥満によるスティグマ

肥満の状態にある人は、体重に関連するスティグマを経験することが多い。GLP-1受容体作動薬治療の普及によって、このようなスティグマが緩和されるのではないかという考え方もある。しかし、減量・代謝改善手術を受けた人を対象とする研究からは、そうはならない可能性が示唆されている。定性的な研究によると、手術によって大幅に減量が達成された後も依然としてスティグマを抱えているという。

さらに、減量・代謝改善手術を受けた人は、「安易な選択肢を選んだ」と批判されていると感じていると報告されている。今後の研究では、GLP-1受容体作動薬による減量が肥満関連のスティグマにどのような変化を及ぼすのか調査する必要がある。

治療に効果的な反面、予防の妨げになる可能性

GLP-1受容体作動薬という極めて効果的な減量手段が、肥満治療の改善につながるという確かな見通しがある。しかしながらこの治療法が普遍的に利用可能な手段でないことは既に明らかであり、長期的なコストなどから、大半の個人および医療制度にとって持続可能な選択肢にはなり得ず、体重増加の予防は依然として重要である。

肥満の予防と治療は、互いに排他的ではない。これらの新薬を使用している人はより健康的な食習慣を身につける傾向があるという複数のエビデンスが存在し、米国ではGLP-1受容体作動薬の使用が増えるにつれて、食品の売上が減少していると報告されている。ポジティブに捉えれば、このような変化は、保護者がGLP-1受容体作動薬を使用している世帯の子どもを含む他の世帯員の肥満予防につながるかもしれない。しかし一方で、食品業界の行動に一定の規制をかけることで社会全体の肥満リスクを下げようとする公衆衛生戦略を、人々が軽視するような変化を生じさせてしまいかねない。

ここに挙げた課題は、どれも容易に解決できることではない。これらの課題の複雑さは、肥満予防への取り組みをより一層推進する必要性を改めて示している。

文献情報

原題のタイトルは、「The societal implications of using glucagon-like peptide-1 receptor agonists for the treatment of obesity」。〔Med. 2025 Aug 14:100805〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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国内の小学生のSNS利用状況と身体イメージとの関連性を調査した研究結果が報告された。SNSを使っている女児は、自分が実際よりも太っていると考える傾向があることや、性別にかかわらず、SNSを使っている子どもは、身近にいる友達やクラスメートよりもメディア上の人の体型を理想と考えていることが明らかにされている。筑波大学大学院人間総合科学研究科の馬場朝美氏、麻見直美氏らの研究によるもので、論文が「European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education」に掲載された。

研究の背景:SNS利用は小学生の身体イメージにも影響を及ぼしている?

SNS利用の拡大と低年齢化

テレビや雑誌などに登場する人の体型が、若者の身体イメージに影響を及ぼし、痩身願望を強めたり、過度の食事制限、メンタルヘルスの不調、摂食障害などのリスクを高めたりする可能性が指摘されている。さらに今世紀に入って以降、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が台頭し、従来型メディアよりも強い影響力を持ちうることが指摘されるようになった。

ただし、これまでのところ、このトピックに関する研究は若年成人や思春期以降の青年を対象に行われている。その一方でSNSの利用は低年齢化していて、2023年の調査では、日本の小学校高学年の58%がLINEやTikTok、Instagram、XなどのSNSを利用していると報告されている。

若年男子の痩せ問題

他方、従来、メディアによる身体イメージへの影響は、性別で比較した場合、男子よりも女子により強く現れると考えられている。その理由として、女子は男子よりも外見を重視すること、対人関係によって考え方が影響されやすいこと、男子よりも思春期が早く発来し体格が変化してくることなどの関与が想定されている。それらの結果として、若年女性の痩せすぎが、しばしば公衆衛生上の課題として指摘されている。

しかし近年、日本の思春期前の男児の間で痩せが増加していることが報告されるようになってきた。女児と同様に男児にも、過剰な痩身願望が広がっている可能性が考えられる。

これらを背景として馬場氏らは、国内の小学生男児・女児を対象として、SNSの利用状況と身体イメージの調査を実施し、両者の関連性を検討した。

研究の方法:小学校2校の3~6年生を対象として横断的に解析

この研究は、公立小学校2校の3~6年生を対象とする横断研究として行われた。1,525人が参加し、回答内容の不備を除外し1,261人(82.7%)を解析対象とした。解析対象者は平均年齢が9.64±1.15歳、女児52%だった。

SNS利用状況の把握

「自宅で勉強以外の目的で頻繁に利用するメディアを選択してください」という質問と、その選択肢として、通話、テキストメッセージ/チャット(LINE、カカオトークなど)、テレビ視聴、ゲーム、動画視聴(YouTubeなど)、アプリ利用(Instagram、X、Snapchat、Facebookなど)、情報検索、漫画鑑賞、読書などを挙げた。これらのうち、LINE、カカオトーク、Instagram、X、Snapchat、Facebookを選択した子どもを「SNS利用群」とし、それらを選択しなかった子どもを「SNS非利用群」とした。

このほかに、スクリーンタイム(自宅での勉強以外の目的でのテレビ、スマートフォン、タブレット、ゲーム機などの利用時間)を質問した。

身体イメージの把握

身体イメージは7段階のシルエットチャート(1:非常に痩せている~7:非常に太っている)から、自分自身があてはまるものと、理想と考えるものを選択してもらい、両者の差を計算。差がない(スコア0)は、自分の体型が理想と一致していることを意味し、スコアがプラスの場合は痩せていることを望んでいる、スコアがマイナスの場合は太っていることを望んでいると判定した。

また、自分自身の体型を5段階スケール(痩せすぎ、やや痩せている、標準、やや太っている、太りすぎ)の中から選択してもらい、これを実際の体型(学校保健統計の身長・体重の標準値からの乖離の程度で分類)との差を計算。差がない(スコア0)は、自分の体型を適切に認識していることを意味し、スコアがプラスの場合は実際よりも太っていると考えている、スコアがマイナスの場合は実際よりも痩せていると考えていると判定した。

このほかに、理想的な身体イメージ像を、家族、親しい友人、クラスメート、メディアに登場する人(有名人、モデル、アイドル、アスリート、インフルエンサー、SNS上の人など)、および「該当する人はいない」の中から選択してもらった。

解析結果:SNS利用がメディア中の人の体型賞賛や、女児の体型誤認識に関連

全体として、460人(36.5%)がSNS利用群に該当した。性別で比較すると、男児は29.6%であるのに対して女児は42.9%と、SNSを利用している子どもが有意に多かった(p<0.001)。一方、1日のスクリーンタイムは男児が98.31分、女児は88.02分で、男児のほうが有意に長かった(p<0.001)。<>

自分自身の身体イメージのスコアは、男児が3.89、女児は3.83で有意差はなかった。一方、理想とする身体イメージは同順に3.77、3.45で、女児のほうがより痩せている体型を理想としていた(p<0.001)。その結果、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離は、男児の0.12に対して女児は0.38と大きく、有意差があった(p<0.001)。<>

自分自身の体型(肥満または痩せの程度)の認識と実際の体型との乖離は、男児は-0.31、女児は-0.18であり、男児のほうが誤って認識していることが多い(実際より痩せていると考えがち)という差が認められた(p=0.007)。

理想的な身体イメージ像については、「該当する人はいない」が男児は69.7%、女児は60.5%を占めともに最多だったが、具体的に選択された人としては、「メディアに登場する人」が最多であり、男児では19.6%、女児では20.3%を占め、家族や友人、クラスメートを凌駕していた。

SNSを利用している女児は、自分自身の体型の認識と実際の体型の乖離が大きい

SNS利用群とSNS非利用群を性別ごとに比較すると、男児ではスクリーンタイムに有意差が認められた(SNS利用群106.95分 vs 非利用群94.73分、p=0.002)。女児では、スクリーンタイム(同順に106.95 vs 94.73分、p=0.025)のほかに、自分自身の体型の認識の誤りの大きさや(-0.20 vs -0.36、p=0.014〈SNS非利用群のほうが実際より痩せていると考えている〉)、理想的な身体イメージの存在の有無(SNS利用群では「該当する人はいない」が少なく「メディアに登場する人」を理想とする割合が多い)にも有意差があった(p=0.004)。

次に、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離、および、自分自身の体型の認識と実際の体型との乖離を目的変数、SNSの利用を説明変数とする多変量解析を実施。その結果、男児については調整変数にかかわらず、SNSの利用は身体イメージや体型の認識の乖離の有意な説明変数として抽出されなかった。

一方、女児についてはスクリーンタイムと肥満度で調整した場合に、自分自身の体型の認識と実際の体型との乖離の独立した説明変数として、SNSの利用が抽出された(β=0.08〈95%CI;0.00~0.26〉)。β値がプラスのため、SNSの利用が両者の乖離の拡大と関連している(SNSを利用していると自分が実際より太っていると認識しがちである)ことを意味している。なお、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離に関しては、女児においてもSNSの利用との関連は認められなかった。

性別にかかわらず、SNSの利用は「メディアに登場する人」を理想とすることと関連

続いて、理想的な身体イメージの存在を目的変数とする解析を実施。すると、男児・女児ともに、「メディアに登場する人」を理想の身体イメージとすることの独立した説明変数として、SNSの利用が抽出された(スクリーンタイムと肥満度を調整変数とするモデルでのオッズ比が、男児は1.71〈95%CI;1.11~2.65〉、女児は1.87〈1.25~2.78〉)。

思春期前から、SNS利用による誤った身体イメージの形成に注意が求められる

まとめると、日本人小学生のSNS利用は、女児において、自分自身の体型を実際よりも太っているとの誤認と、独立した関連が認められた。また、性別を問わず、身近な友人やクラスメートではなくメディアに登場する人を、理想的な身体イメージとすることと関連していた。

著者らは、「思春期前の子どもたちのSNSの利用は、身体イメージの認識や体型の好みに悪影響を及ぼす可能性がある。思春期前からSNSを使い過ぎないように働きかけることが、思春期以降の子どもたちの健全な身体イメージの形成を促すのではないか」と述べている。また、「SNSの利用が身体イメージにどのように影響するかを理解することが重要であり、その関係の根底にあるメカニズムを明らかにするための研究が、日本ではまだ少ない」と指摘し、今後の研究の発展に期待を表している。

文献情報

原題のタイトルは、「Association Between Social Networking Service Use and Body Image Among Elementary School Children in Japan」。〔Eur J Investig Health Psychol Educ. 2025 Jul 7;15(7):125〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部

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2025年8月23日(土)・24日(日)の2日間、東京・中央区立築地社会教育会館を会場に、小学校3~6年生とその保護者を対象にした、スポーツ栄養学&料理教室ワークショップ「パラアスリートと料理教室 おいしく食べて強くなろう!」が開催されました。

本イベントは、パラスポーツを応援する東京都のプロジェクト「TEAM BEYOND」が主催、神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科の鈴木志保子研究科長が監修、味の素株式会社が協力。世界で活躍するパラ水泳の鈴木孝幸選手とブラインドサッカーの鳥居健人選手をゲストに、それぞれの選手の栄養サポートを行う公認スポーツ栄養士・鈴木志保子先生と秋葉美佳先生とともに、座学と料理教室で「パワー回復」や「強い身体作り」の秘訣を学びました。

参加したのは抽選で選ばれた約100名の親子で、1日目午前の回も夏休みの思い出や自由研究にと15組の親子が集いました。初日はパラ水泳の鈴木孝幸選手(以下、タカ選手)と公認スポーツ栄養士・鈴木志保子先生(以下、志保子先生)のコンビが登壇。冒頭、ずっしりと大きな金・銀・銅メダルを見せてもらってから講義がスタートです。

食事と休養で、日々の回復を丁寧に行う

タカ選手は、6大会連続でパラリンピックに出場し、パリ2024パラリンピックでは4つのメダルを獲得しました。通算メダル獲得数は「14」。先天性四肢欠損症で、右腕の肘から先がなく、左手は指が二本と短い指が1本、右足は根本付近からなく、左足は膝下からありません。38歳となる現在も、さらなる肉体進化のために科学的なトレーニングと栄養学が欠かせないと言います。

「僕は1回の練習で約4km泳いでいます。こうした練習を継続するためには、栄養をしっかりとって、十分に睡眠を確保することが欠かせません。僕の場合は身体を大きくしたいというよりも、できるだけ疲労の少ない状態でトレーニングに取り組めるよう、日々の回復を丁寧に行う。疲れを癒し、食事と休養で体を整えることを意識しています」(タカ選手)

疲れた時、何を食べる?

日本パラリンピック委員会強化本部委員であり、車いすバスケットボールなど多くのパラアスリートの栄養サポートを長年行っている公認スポーツ栄養士・鈴木志保子先生(SNDJ理事長)から、「疲れた時に何を食べる?」という問いが投げかけられ、パワー回復メニューを子どもたちに発表してもらいました。

「まず給食を思い出して!身体のエネルギーとなるご飯やパン、麺類を“主食”と言います。次はおかず!肉や魚、卵、豆・豆製品を使ったおかずを“主菜”と言います。そして“副菜”と言われる野菜のおかず。それに果物や牛乳、ヨーグルトをつける。献立は、この5つのグループの食品をまんべんなくとるように考えます。では、カレーライスはどのグループ? ご飯があって、カレーには肉と野菜が入ってるから、1皿で主食・主菜・副菜がとれる。これにサラダと牛乳と果物をつけると栄養バランスのよい食事になります」(志保子先生)

食材シールを使って、パワー回復できる最強ごはんプレートを子どもたちに考えてもらいました

「疲れている時には何を食べるか? すごく疲れているときは胃腸も疲れているので、消化の負担になるようなメニューをなるべく避けること。脂っこくなくて消化吸収が早いものを選び、脂っぽいものは練習がない日に食べて消化吸収を促します。ふつうは、練習をしてない日は動いてないから脂っぽいものは食べないようにしようと思うものですが、トップアスリートになると、その日の運動量と自分の身体と相談して、消化吸収の状態を見ながらメニューを考えます。

でも、一番大切なのは“おいしく食べること!”。では、なんで“おいしく食べる”のがいいかわかる? おいしく食べると胃腸の消化吸収がよくなるんです。お母さんとかに怒られながら食べると消化吸収が悪くなるから気をつけて(笑)」と志保子先生。

器用にトマトを切るタカ選手!

後半は、「パワー回復レシピ」として、タカ選手が大好きな麻婆豆腐をつくります。まず、タカ選手が作り方をレクチャー。車いすに立ったまま慣れた手つきで豆腐を切り、フライパンでひき肉を炒め、豆腐やネギ、調味液を絡めて仕上げていきます。会場に漂うおいしそうな香り!そしてもう一品、トマトとブロッコリーのサラダを作ります。どうやって片手でトマトを切るの? とみんなが見守ります。タカ選手はここでも器用にトマトをスライスして盛り付けました。できあがあったら、参加者も料理スタート。親子で仲良く麻婆豆腐をつくり、試食タイムへ。

成長期はしっかり食べよう!

食後は質問タイム。あるお母さんから、子どもでも太らないように意識したほうがよいのか、という問いかけに志保子先生は答えます。

「文部科学省のデータでは、女子は小学校5~6年生の時期に身長が最も伸びやすいとされ、個人差はあるものの早い子は4年生ごろから、遅い子は6年生から中学1年生ごろにかけて成長のスパートが始まります。一方、男子は中学でスパートがかかることが多い。この重要な時期には、過度に運動量を増やすのではなく、まず「しっかり食べる」ことが不可欠です。身長が伸びれば体重が増えるのは自然なことで、身長だけが伸びて体重が増えないのは、いわば中身の伴わない成長と同じ。成長に必要なエネルギーが不足すると、身長の伸びが抑えられてしまう可能性もあります。したがって、「少し太ってしまうかも」と感じる程度であっても、成長期には十分な量を食べることが望ましいのです。特に主食(ご飯)を中心に、どれくらい食べるかの目安を決めてとってください。成長曲線をつけて成長スパートを把握することも大切です」

成長曲線分析・予測ツール

最後に、志保子先生とタカ選手からのメッセージです。

志保子先生「みんな、自分は何kgで生まれたかお母さんに聞いてみてください。いま何倍になっていますか? どうやって大きくなった? そう、栄養のあるものを食べたから。食べないと大きくならないんですよ。その食べ物を自分のためにどれだけ入れるか入れないかで自分の一生が変わってくる。身体は自分が食べたものでできているんです。美味しく食べて、しっかり大きくなって、自分のやりたいことを思い切りやってください!」

タカ選手「みなさんと2時間楽しく過ごすことができました。今日得た栄養の学びをぜひ、日々の生活に生かしてもらいたいと思います。僕もこれから、9月は世界選手権(シンガポール)がありますし、来年は日本(名古屋)でアジアパラ競技大会も開催されるので、がんばります!みんな応援よろしくお願いします!」

世界で活躍するパラアスリートとスポーツ栄養士から、最新のスポーツ栄養学に基づいた食や栄養摂取の考え方を学び、一緒に料理を作れて楽しかったと参加者たちは嬉しそうに帰っていきました。

「TEAM BEYOND」とは

「TEAM BEYOND」はパラスポーツへの関心を高め、応援する人を増やす東京都のプロジェクトで、2016年からスタートし今年で10年を迎えます。東京2020パラリンピック以降も、ダイバーシティ実現を目標に様々な活動が展開されています。「TEAM BEYOND」を通じたパラスポーツへの理解を広める活動は今後も続きますので、機会があれば皆さんもご参加を!

関連情報

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スポーツ栄養Web編集部


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オリンピックに出場経験のあるアスリートの引退後の健康状態を、一般住民と比較検討した結果が英国から報告された。元アスリートは、肥満、糖尿病、狭心症、脳卒中などが少なく、また女性の元アスリートで骨粗鬆症の有病率の低下なども認められた。その一方で、メラノーマ(黒色腫)を含む皮膚癌と変形性関節症の有病率は一般人口よりも高いという。

高強度のトレーニングを続けていたアスリートの引退後の健康状態は?

運動が健康増進に有益であることは疑いないものの、トップアスリートが行う高強度・高負荷のトレーニングも、健康増進のための運動と同様の効果があるのかという点は興味深い疑問であり、死亡リスクからこの疑問について検討した研究結果がいくつか報告されている。しかし、疾患の有病率を一般住民と比較した研究の報告は限られている。

英国の元オリンピアンと一般住民の健康状態を比較

この研究では、英国の元オリンピアンと一般住民の健康状態が、横断的に比較された。 英国オリンピック協会を通じて、過去の夏季および冬季オリンピックで国家代表選手となった経歴のあるアスリートのうち連絡先が明らかな2,742人に、郵送またはメールにてアプローチし、健康状態に関する質問への回答を依頼。743人(27.1%)から回答を得られ、引退していない選手および50歳未満の元選手を除外し、493人を解析対象とした。

一方、一般住民については、英国で実施されている50歳以上の地域住民対象の加齢に関する前向きコホート研究である「English Longitudinal Study of Ageing(ELSA)」の第6波の参加者10万601人から、元アスリート集団と比較する項目に含めた関節の状態などに関するデータに欠落のない8,024人を解析対象とした。

元アスリートは一般住民に比べて疾患を有する割合は低いが薬剤使用中の割合は高い

解析対象者は合計8,517人で、おもな特徴は、年齢67.1±9.7歳、女性54.0%、BMI28.1±5.2、何らかの疾患を有している割合76.5%、何らかの薬剤を使用している割合49.8%、多剤併用(5剤以上)中の割合1.0%だった。 これを元アスリートと一般住民とで比較すると、年齢には有意差がなく、女性の割合は一般住民のほうが高く(35.7 vs 55.2%)、BMIは元アスリートのほうが低かった(25.0±4.0 vs 28.3±5.3)。また、何らかの疾患を有している割合は一般住民のほうが高い一方で(66.1 vs 77.1%)、何らかの薬剤を使用している割合(56.0 vs 49.4%)や多剤併用中の割合(6.5 vs 0.7%)は、いずれも元アスリートのほうが高かった。

アスリートは引退後の皮膚癌リスクが高い可能性

疾患の有病率については、アスリートにおける有病率が1%以上の疾患について、一般住民と比較した。 年齢と性別を調整した標準化罹患率比(standardized morbidity ratios;SMR〈研究デザイン上は「有病率比」と解釈されるが論文に従い表記〉)を算出。その結果、主として心血管代謝疾患については元アスリートで少なく、皮膚癌と変形性関節症については元アスリートに多くみられた。詳細は以下のとおり。

なお、統計学的有意性は、一般的な95%信頼区間ではなく99%信頼区間により判定されている。

元アスリートのほうがSMRの低い疾患

肥満
SMR0.35(99%信頼区間0.23~0.50)。性別の解析ではいずれも有意。
糖尿病
SMR0.43(同0.22~0.74)。性別の解析ではいずれも有意。
脳卒中
SMR0.39(0.12~0.90)。性別の解析ではいずれも有意。
狭心症
SMR0.18(0.05~0.46)。性別にみると男性はSMR0.23(0.06~0.60)、女性は元アスリートでの発症がわずかであるため解析されていない。
不整脈
性別の解析で女性はSMR0.45(0.40~0.54)。全体解析および男性のみの解析では非有意。
喘息
SMR0.29(0.12~0.59)。性別の解析ではいずれも有意。
慢性閉塞性肺疾患
SMR0.29(0.06~0.81)。性別の解析では女性はSMR0.21(同0.13~0.36)、男性は非有意。
骨粗鬆症
性別の解析で女性はSMR0.46(0.42~0.51)。全体解析および男性のみの解析では非有意。
関節リウマチ
性別の解析で女性はSMR0.24(0.03~0.88)。全体解析および男性のみの解析では非有意。
緑内障
SMR0.06(0.01~0.18)。性別の解析ではいずれも有意。

元アスリートのほうがSMRの高い疾患

メラノーマを含む皮膚癌
SMR5.64(2.80~10.06)。性別の解析ではいずれも有意。
癌(皮膚癌、大腸癌・膀胱癌、前立腺癌、乳癌のいずれか)
SMR2.14(1.52~2.91)。性別の解析ではいずれも有意。
変形性関節症
SMR1.44(1.18~1.75)。性別の解析ではいずれも有意。

このほか、高血圧、心筋梗塞、大腸癌・膀胱癌、前立腺癌、乳癌、不安、うつに関しては、SMRの99%信頼区間が1をまたぎ、一般住民との有病率に有意差がなかった。著者らは、「引退後の元アスリートの皮膚癌と変形性関節症のリスクを抑制するために、的を絞った予防戦略の実施が望まれる」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Health among Retired Great Britain’s Olympic Athletes: A cross-sectional Study of Disease and Multimorbidity」。〔Sports Med Open. 2025 Aug 7;11(1):93〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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代表的なトランス脂肪酸であるエライジン酸が、DNA損傷※1の際に起きる細胞老化※2および炎症を促進する作用とその分子機構が解明された。エライジン酸を摂取したマウスでは、代謝関連脂肪肝疾患(MASLD)※3の発症時に、肝臓の細胞老化および炎症が亢進するという。東北大学などの研究グループの研究によるもので、「iScience」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。著者らは、「動脈硬化症やMASLDをはじめとした、トランス脂肪酸関連疾患の画期的な予防・治療戦略の開発につながることが期待される」としている。

研究の概要:トランス脂肪酸がDNA損傷の際に起きる細胞老化および炎症を促進する

一部の加工食品に含まれるエライジン酸などのトランス脂肪酸の摂取は、過去の疫学的知見から、動脈硬化症や生活習慣病(MASLDなど)をはじめとした、加齢や炎症が関連する疾患のリスク因子とされてきたが、炎症誘導の詳細な分子機構は不明だった。東北大学大学院薬学研究科、帝京大学薬学部、静岡県立大学薬学部、岩手医科大学薬学部の共同研究グループは、最も主要なトランス脂肪酸であるエライジン酸が、DNA損傷の際に起きる細胞老化および炎症を促進することを発見した。

エライジン酸は細胞膜上の脂質ラフト※4と呼ばれる膜上の微少領域に取り込まれ、この領域内にサイトカインIL-1受容体を集積させることで、受容体下流における炎症誘導シグナルの活性化を増強し、細胞老化や炎症反応を増幅することが明らかになった。エライジン酸を摂取させたマウスでは、心血管疾患や肝がんの引き金となるMASLDの発症時に、肝臓の細胞老化および炎症が亢進した。動脈硬化症やMASLDなどのトランス脂肪酸関連疾患の画期的な予防・治療戦略の開発につながる重要な研究成果といえる。

詳細な説明:代表的な人工型であるエライジン酸のみが炎症促進作用を有している

研究の背景:人工型でなく、天然型のトランス脂肪酸の分子機構は未解明

トランス脂肪酸は、トランス型の炭素-炭素間二重結合を一つ以上含む脂肪酸の総称。食用油脂の製造・加工過程で副産物として産生され、一部の加工食品に含有されるエライジン酸などの「人工型」トランス脂肪酸は、過去の疫学調査を中心とした知見から、動脈硬化症、神経変性疾患、生活習慣病(糖尿病、MASLD)などの加齢や炎症が関連する諸疾患のリスクファクターとなることが示唆されている。欧米諸国ではこれまでに、食品中含有量の制限等の規制も導入されてきた。

一方、主にウシなどの反芻動物の胃の中の微生物によって産生され、乳製品や牛肉などに多く含まれるトランスバクセン酸などの「天然型」トランス脂肪酸については、上記疾患との疫学的関連性は低いものの、実際の毒性の有無については科学的根拠が乏しいのが現状。その主な要因は、トランス脂肪酸摂取に伴う関連疾患の発症・増悪の詳細な分子機構についての理解が十分に進んでいないことにある。

研究の概要:エライジン酸が細胞老化・炎症を促す分子機構を解明

研究グループは、トランス脂肪酸関連疾患全般に細胞老化および炎症が共通して密接に関与することに着目して、U2OS(ヒト骨肉腫)などの細胞株にエライジン酸を前処置して、予め細胞内に取り込ませたうえでDNA損傷を与え、細胞老化を誘導した。その結果、エライジン酸存在下では、細胞老化およびそれに伴うIL-1α、IL-6、IL-8などの炎症促進因子の産生が亢進した。本作用は、エライジン酸の幾何異性体にあたるオレイン酸(天然に豊富に存在するシス型二重結合を有する脂肪酸)、あるいは食品中に含まれるエライジン酸以外の主要なトランス脂肪酸4種類ではいずれも認められなかったことから、エライジン酸特有の作用であることが判明した。

詳細な解析から、DNA損傷時に、エライジン酸が炎症関連因子の発現誘導に主要に寄与する転写因子NF-κBの活性化を促進すること、その上流で働くキナーゼ分子群TAK1、IKKの活性化が増強することを見いだした。そこで、TAK1/IKK/NF-κB経路※5の最上流にあたるIL-1受容体の関与を想定し、その活性化に重要とされる細胞膜上の脂質ラフトと呼ばれる膜上の微少領域に着目した。

エライジン酸存在下では、IL-1αによるリガンド刺激時のIL-6/8の発現が上昇したこと、メチル-β-シクロデキストリン処置による薬理的な脂質ラフトの除去によって、IKKやNF-κBの活性化が抑制されたことから、IL-1受容体および脂質ラフトの寄与が確認できた。さらに、脂質ラフト画分を生化学的に分離して脂質解析を行ったところ、細胞に添加したエライジン酸が実際に脂質ラフト画分に効率よく取り込まれることが確認され、エライジン酸存在下では、同画分中におけるIL-1受容体の存在量が有意に増加していた。

以上の結果から、エライジン酸は脂質ラフトに取り込まれることで、IL-1受容体を同領域内に集積させ、IL-1リガンド刺激に伴うNFκBの活性化を増強することでIL-1α/6/8の産生を促進することが明らかとなり、細胞老化および炎症を正のフィードバック機構によって促進する一連の分子機構が解明された(図1)。

図1 エライジン酸による細胞老化および炎症の促進機構

エライジン酸はリン脂質成分として脂質ラフトと呼ばれる細胞膜上の微少領域に取り込まれ、本領域へのIL-1受容体の集積を促進する。DNA損傷時に細胞老化が起きると、IL-1α/6/8などの炎症関連因子が発現誘導されるが、エライジン酸存在下では、IL-1αの産生・分泌に伴うIL-1受容体の活性化が増幅され、TAK1/IKK経路を介した転写因子NF-κBの活性化が亢進することで、さらなる細胞老化・炎症が引き起こされる(正のフィードバック機構)。本機構による炎症反応の促進作用は、代謝関連脂肪肝疾患(MAFLD)などのトランス脂肪酸関連疾患の発症や進展に寄与すると考えられる。

(出典:東北大学)

さらに、野生型マウス(C57BL/6J)に12週間高脂肪食を与えることでMASLDを誘導した際の餌中のエライジン酸の有無が本病態に与える影響を解析したところ、エライジン酸摂取時には、肝臓における老化細胞数、およびIL-1βやcol1a1などの炎症や肝臓線維化にかかわる遺伝子群の発現の有意な増加が認められた。したがって、エライジン酸の摂取に伴い、MASLD発症時に、実際に肝臓における細胞老化および炎症が亢進することが、マウス個体レベルでの実験でも確認できた。

社会的意義と今後の展望:関連疾患の予防・治療戦略の開発や提案に期待

トランス脂肪酸関連疾患には細胞死も深く関与するが、同研究グループを中心に、エライジン酸などの人工型トランス脂肪酸が細胞死を促進することが示され、その分子機構について解明が進んできた。その一方で、トランス脂肪酸摂取と全身性炎症(血中の炎症マーカーCRPの増加)の関連性を示した知見や、トランス脂肪酸が実際に炎症を誘導・促進することを示した細胞・個体レベルでの知見は存在するが、その背景にある具体的な分子機構については謎に包まれていた。

本研究成果は、トランス脂肪酸による炎症誘導・促進メカニズム、および老化や関連疾患の発症・増悪機構の全容解明につながる重要な基礎的知見として位置付けられる。また、トランス脂肪酸の中でも、代表的な「人工型」であるエライジン酸のみが炎症促進作用を有していたことから、乳製品や牛肉に含まれる天然型のトランス脂肪酸については過度に注意する必要はない一方で、人工型トランス脂肪酸の食品中含有量や摂取量について引き続き注視していく必要があると考えられる。

なお、本研究成果は、あくまでもがん細胞株を利用した分子メカニズムの解析、マウスを利用した個体レベルでの解析の結果に基づくもの。したがって、実際の生理的な条件、具体的には、正常な細胞やヒトの体内において、本知見によって得られた分子機構や現象が同様に認められるか否かについては、今後のさらなる調査や検証が必要であり、今回得られた知見に関しては、そのような観点から、慎重な解釈が必要。今後、トランス脂肪酸による細胞老化や炎症の誘導・促進作用に関する研究や解明が進むことで、関連疾患の予防・治療戦略の開発や提案につながることが期待される。

プレスリリース

トランス脂肪酸が老化・炎症を促進する分子メカニズムを発見 -生活習慣病の発症予防・治療戦略の開発に期待-(東北大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Elaidic acid drives cellular senescence and inflammation via lipid raft-mediated IL-1R signaling」。〔iScience. 2025 Aug 6;28(9):113305〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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神経性過食症の女性患者を対象とする、全国6大学の付属病院とナショナルセンター1施設による多施設共同ランダム化比較試験の結果、治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性をアジアで初めて、また世界で2例目として実証された。「JAMA Network Open」に論文が掲載されるとともに、関係機関のサイトにプレスリリースが発表された。この介入により、過食や代償行動のエピソードが減少し、寛解率も向上することが明らかにされたという。著者らは「病院に通う負担を軽減し、自宅で専門的な治療を受けることができる新しい選択肢として、今後の広い活用が期待される」としている。

研究の概要:治療アクセスが限られている過食症患者にオンラインで専門治療を提供

神経性過食症は、深刻な健康障害を伴う精神疾患だが、科学的根拠のある認知行動療法を提供可能な施設は都市部に偏在しており、専門家も少ないため、専門的な治療を受ける機会のない患者が多数存在する。このような問題を解決するため、日本文化に合わせた治療者誘導型オンライン認知行動療法が開発され、その有効性が全国6大学病院、1ナショナルセンターによる多施設共同ランダム化比較試験で検証された。

外来診療中の神経性過食症と診断された女性61人を対象とする研究の結果、通常治療のみのグループ(外来診療のみ)に比べて、治療者誘導型オンライン認知行動療法グループは、過食と代償行動(嘔吐・下剤乱用など)の回数が顕著に減少したことを、アジア圏で初めて実証した。これは2024年7月のドイツの研究チームの報告に次いで、世界で2番目の報告。

これにより、外来通院の負担を減らし、自宅で専門的な治療を受けられる新たな選択肢として、治療者誘導型オンライン認知行動療法の普及が期待される。

研究の背景と経緯:日本の文化を考慮したオンライン認知行動療法の模索

神経性過食症は有病率が増加しつつあり、慢性化や深刻な身体的・心理的な健康障害を引き起こすリスクを伴う。しかし、効果的な治療を受けられる機会は依然として限られている。

とくに日本を含むアジア圏では、神経性過食症の女性を対象とした治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性や受容性が十分に検証されていなかった。そこで本研究では、日本文化に適応させた治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性と受容性を、日本全国の多施設共同研究で科学的に評価した。

研究の内容:通常治療に比べ、過食や代償行動の合計頻度が有意に減少、寛解率向上

本ランダム化比較試験は、スウェーデンのリンショーピング大学の協力を得て、2022年8月~2024年10月まで、日本国内の6大学病院、1ナショナルセンター(福井大学、鹿児島大学、東北大学、千葉大学、徳島大学、獨協医科大学埼玉医療センター、国立精神・神経医療研究センター)で実施した。対象は、DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders fifth edition;精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)で神経性過食症と診断され、BMIが17.5以上で、インターネット環境があり、過去2年間に同様の治療を受けていない13~65歳の女性。

合計61人が本臨床試験に参加し、治療者誘導型オンライン認知行動療法を加えたグループ(31人)と、通常治療のみのグループ(30人)に分けられた。平均年齢は27.8歳、平均BMIは21.1、平均病歴は9.3年で、約半数が就業者だった。

治療者誘導型オンライン認知行動療法を受けたグループでは、通常治療のみのグループに比べ、過食や代償行動の合計頻度の減少が統計的に有意に大きく(平均約10回減少)、重症度の改善が確認された(図1)。さらに、寛解率も統計的に有意に高くなった(約45~55% vs 約13%、図2)。

図1 過食および代償行動エピソード数の12週間後の変化

治療者誘導型オンライン認知行動療法群(Guided ICBT group、左)では、治療前と比べて12週後に過食・代償行動の合計頻度が約10回減少し、重症度の有意な改善が認められた。通常治療群(Usual care group、右)では明確な変化は見られなかった。

(出典:徳島大学)

図2 各グループにおける寛解した患者の割合

摂食障害評価質問票(EDE-Q)の基準値(<2.34および<2.80)に基づき、寛解した患者の割合を示している。治療者誘導型オンライン認知行動療法(icbt)群では、いずれのカットオフでも寛解率が約45~55%と高く、通常治療群(usual class="textR">(出典:徳島大学)2.34および<2.80)に基づき、寛解した患者の割合を示している。治療者誘導型オンライン認知行動療法(icbt)群では、いずれのカットオフでも寛解率が約45~55%と高く、通常治療群(usual>

本研究の結果から、外来診療中の神経性過食症の女性に治療者誘導型オンライン認知行動療法を提供することで、重症度が改善すること、そして寛解者が増えることが示唆された。

この治療法は、自宅で専門的な治療を受けることができる新しい選択肢として、今後の活用が期待される。著者らは、「より幅広い患者への対応や長期的な効果の確認を進めていき、地域による専門治療提供の障壁を取り除き、誰もが適切な治療を受けることのできる社会を目指していく」と述べている。

原題のタイトルは、「Guided Internet-Based Cognitive Behavior Therapy for Women With Bulimia Nervosa: A Randomized Clinical Trial」。〔JAMA Netw Open. 2025 Aug 1;8(8):e2525165.〕 原文はこちら(American Medical Association)

スポーツ栄養Web編集部


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中国の800人以上のレクリエーションランナーを対象に行われた、レース中の消化器症状に関する調査の結果が報告された。4人に1人以上が消化器症状を来すこと、女性より男性に多いこと、レース前とレース中の食事が症状発現に関係していることなどが示されている。

長距離レースではエネルギー摂取が需要だが、それが消化器症状を招きがち

持久系競技では長時間にわたるレース中にエネルギーを枯渇させないことが結果を大きく左右し、とくに炭水化物の摂り方が重要となる。しかし、食事の摂取がレース中の消化器症状の発現に関与していることも知られている。これは、運動中には筋肉への血流が優先され、消化管の血流が不足することが原因と考えられている。

レース中の消化器症状を抑制し、かつエネルギー需要を満たすための栄養戦略の模索が続けられているが、消化器症状の発現には日常の食習慣も関与している可能性がある。今回取り上げる論文の著者によると、長距離ランナーの消化器症状に関するこれまでの研究の多くは、動物性食品中心で高脂肪食であることの多い欧米で行われてきており、植物性食品中心で高繊維であることの多い中国人での研究は少ないという。

これを背景に著者らは、中国国内の長距離ランナーの食習慣とレース中の消化器症状について、横断的な調査を行った。日本人の食習慣も、調理法という点では炒める・揚げるの多い中国とやや異なるものの伝統的に植物性食品が中心であり、欧米での研究に比べ参考になる点が多いかもしれない。

800人のレクリエーションランナーを対象に調査

この研究は、中国の長距離ランナーの栄養状態を把握する目的で実施されている大規模調査「中国マラソン栄養調査(China Marathon Nutrition Survey;CMNS)」のサブスタディとして、2024年に実施された。研究参加の適格基準は、フルマラソン、ハーフマラソン、10km走、トレイルランニングなどの長距離競技大会に参加経験がある18歳以上のランナー。重度の疾患有病者、代謝に影響を及ぼし得る薬剤の服用者、妊婦・授乳中女性などは除外した。

レース中の消化器症状については、精度検証済みの質問票(Gastrointestinal Symptom Rating Scale;GSRS)を用いて評価した。GSRSでは、腹部膨満感、腹痛、便意などの11項目の症状を7段階のリッカート尺度(症状なしは1、最も重度の不快感は7)でスコア化する。

好発症状やその関連因子などが明らかに

オンライン、オフラインにより計929人が回答し、データ欠落等を除外して805人を解析対象とした。おもな特徴は、年齢39.7±10.0歳、男性74.9%、BMI22.6±4.3で、ふだん参加している競技はマラソンが42.5%、ハーフマラソン64.6%、その他9.3%。トレーニング歴は5年未満が60.7%、1カ月の走行距離は100~200kmが43%、大会参加回数は5回未満が40.4%だった。

性別により好発症状がやや異なる

全体の26.1%のランナーが、レース中に消化器症状を経験したと回答した。最も一般的な症状は、膨満感(18.6%)、便意(17.8%)、および腹痛(16.5%)だった。

症状の出現率は性別によって異なり、男性の上部消化管症状として膨満感(19.6%)と腹痛(18.1%)、下部消化管症状として便意(18.9%)と下痢(16.9%)が多く、女性では上部消化管症状として膨満感(15.8%)と腹痛およびげっぷ(ともに11.9%)、下部消化管症状として便意(14.4%)、脇腹の痛み(12.4%)が多かった。

レースの中盤に最も症状が現れやすい

消化器症状の出現頻度と重症度はレースのステージによって異なっていた。

症状はレース中盤で最も多く現れ(30.0%)、また重症度スコアもレース中盤が最も高かった(2.43±0.22)。レース終盤になると症状の出現頻度は低下したが(16.7%)、症状は引き続き比較的強いと報告された(2.26±0.29)。性別で比較すると、女性は男性よりもレースの序盤での症状発現が多かった。

症状発現との関連因子

消化器症状の発現に関連のある因子を検討すると、複数の有意な因子が特定された。

まず、男性は女性よりも症状を経験している割合が高く(27.9 vs 20.8%、p=0.048)、年齢については34歳以下の場合にその割合が高かった(p=0.014)。最も有意性の強い因子は、胃炎、機能性消化不良、過敏性腸症候群、慢性便秘など、臨床的に診断された状態または自覚症状の既往歴だった(p<0.001)。<>

ランニングの経験年数、トレーニングレベル、レース歴、レース前の睡眠およびストレスレベルとの有意な関連は認められなかった。

栄養戦略との関連

回避する食品

大半のランナーが消化器症状のリスク抑制のため、何らかの食品の摂取を制限していて、制限をしていないとの回答はわずか5.5%だった。摂取を避けるとの回答が多い食品は、魚介類(47.5%)、赤身肉(26.2%)、豆類(25.3%)、乳製品(24.1%)、紅茶/コーヒー(19.4%)であり、一方で、エナジーバー/ジェル(3.1%)、エナジードリンク(3.2%)、スポーツドリンク(4.8%)を回避するとの回答は少数だった。

摂取タイミング

レース前の食事のタイミングも消化器症状の発現に影響を与えていた。レース開始30分以内の食事は、腹部膨満感(p=0.017)、便意(p=0.040)、鼓腸(p=0.011)の増加と有意に関連していた。また、レース中に消化器症状を経験したランナーは、レース後に食欲不振を報告する可能性が高く(p<0.001)、この点は回復への影響という点でも対策を要する事項と考えられた。<>

消化器症状を訴えたランナーの76.2%が、症状がパフォーマンスに悪影響を及ぼしていると回答した。症状出現時の対策として最も一般的なものは、走行ペースを落とすが76.2%、歩くまたは休憩をとるが41.0%であり、53.8%がこれらの対策を効果的と感じていた。症状を経験することのあるランナーの3%は、症状緩和を目的として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用していると回答した。なお著者らは、NSAIDsの使用には腸の健康への潜在的なリスクを示唆する研究があると付記している。

消化器症状に関する情報源については、42.2%がソーシャルメディアに頼っていると回答し、次いで書籍や雑誌が37.8%、友人や家族との会話が31.8%だった。

論文の結論は、「本研究の結果はレクリエーションランナーの消化器症状を軽減するために、個別化された食事計画の重要性を強調している。レース前の食事のタイミングを調整し、特定の食品を避けることで、不快感を軽減できる可能性がある。今後の研究では、持久系競技におけるアスリートの健康とパフォーマンスを向上させるための、個々のランナーに合わせた栄養とトレーニングのアプローチを探求する必要がある」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Gastrointestinal symptoms among recreational long distance runners in China: prevalence, severity, and contributing factors」。〔Front Nutr. 2025 Jul 23:12:1589344〕 原文はこちら(Frontiers Media)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)、この点は回復への影響という点でも対策を要する事項と考えられた。<>0.001)。<>

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ラーメンの摂取頻度と死亡リスクとの関連を解析した研究結果が報告された。全体として、摂取頻度が週3回以上の場合に死亡リスクが高い傾向が認められ、サブグループ解析では70歳未満、習慣的飲酒者において有意なリスク上昇が認められるという。山形県立米沢栄養大学健康栄養学部の鈴木美穂氏らが、山形県で行われている地域住民対象疫学研究「山形コホート研究」のデータを解析した結果であり、論文が「The Journal of nutrition, health and aging」に掲載された。また山形大学のサイトにプレスリリースが発表されている。

ラーメンの頻繁な摂取で死亡リスクが高まりやすい人の特徴は?

ラーメンの起源は中国だが、現在では世界的にも日本食として認識されるほど、国内で多く食されている。よく知られているように、ラーメンは高塩分であり、食べすぎによる高血圧や脳卒中、胃癌などのリスクの上昇が懸念される。過去にも、人口あたりのラーメン店舗数と脳卒中による死亡率との相関を示したデータが報告されている。

ただし、ラーメン摂取と死亡リスクとの関連に個人差があるのかどうかはわかっていない。仮に、ラーメン摂取によって顕著に死亡リスクが高くなりやすい集団があるなら、その特徴を明らかにすることで、より効果的な公衆衛生対策の立案につなげられる。これらを背景として鈴木氏らは以下の研究を行った。

ラーメン摂取頻度が高い人ほど、スープを残さずに飲んでいる

山形コホート研究の参加者のうちデータ欠落のない6,746人から、追跡開始1年以内に死亡していた人を除外し、6,725人(59.7±6.7歳、男性34.9%)を解析対象とした。

ラーメンの摂取頻度は、月1回未満が18.9%、月1~3回が46.7%、週1~2回が27.0%、週3回以上が7.4%だった。ラーメン摂取頻度が高い群ほど男性が多く、BMIが高く、若年であり、喫煙・飲酒習慣のある割合、高血圧・糖尿病を有する割合が高いという、有意な傾向性が認められた。

また、麺類摂取時にスープを飲む量が半分以上/未満で分けると、ラーメンの摂取頻度が高いほど半分以上飲む人の割合が高かった(傾向性p<0.001)。具体的には、ラーメン摂取頻度が月1回未満の群で半分以上飲む人は33.7%、摂取頻度が月1~3回では42.2%、週1~2回では51.5%、週3回以上では57.7%だった。<>

中央値4.5年の追跡期間中に145人(2.16%)の死亡(癌死100人、心血管死29人を含む)が記録されていた。

粗死亡率が最も低い、ラーメン摂取頻度が週に1~2回の群を基準として他の群の死亡リスクを比較すると、交絡因子未調整の粗モデルでは、摂取頻度が最も高い群(週3回以上)では非有意ながら死亡リスクが7割近く高い傾向が認められた(ハザード比〈HR〉1.69〈95%CI;0.94~3.03〉)。死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒習慣、麺類摂取時に飲むスープの量、高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往)を調整したモデルでも非有意ながら、摂取頻度が週3回以上の群では死亡リスクが約5割高い傾向が認められた(HR1.52〈0.84~2.75〉)。

サブグループ解析では70歳未満、習慣的飲酒者は有意にハイリスクという結果

次に、年齢(70歳未満/以上)、性別、飲酒習慣の有無、麺類摂取時に飲むスープの量(半分以上/未満)で層別化したサブグループ解析を実行。すると、以下のように、有意なリスク差が存在する集団が特定された。

年齢

年齢が70歳未満の場合、ラーメン摂取頻度が週3回以上の群は、前記の交絡因子を調整後、死亡リスクが2倍以上高いことが示された(HR2.20〈1.03~4.73〉)。ただし、ラーメン摂取頻度が最も低い群(月1回未満)においても、有意なリスク上昇が認められた(HR2.17〈1.08~4.34〉)。

70歳以上の場合は、ラーメン摂取頻度と死亡リスクとの間に有意な関連はみられなかった。

性別

男性では、ラーメン摂取頻度が月1回未満の群で、有意な死亡リスク上昇が認められた(HR2.07〈1.09~3.97〉)。女性については死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。

麺類摂取時に飲むスープの量

麺類摂取時にスープを半分以上飲む人では、ラーメン摂取頻度が月1回未満の群で、有意な死亡リスク上昇が認められた(HR2.43〈1.09~4.92〉)。スープを半分以上残す人では、死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。

飲酒習慣

習慣的飲酒者では、ラーメン摂取頻度が週3回以上の場合に死亡リスクが3倍近く高いことが示された(HR2.71〈1.33~5.56〉)。飲酒習慣のない人では死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。

ラーメン摂取に関する食事指導では、個人の特性を考慮する必要がある

著者らは本研究から得られた知見を以下のようにまとめている。

まず、ラーメンの摂取頻度が高い人の特徴が明らかにされ、摂取頻度の高さがBMIや喫煙・飲酒習慣、スープをあまり残さないことなどと関連していた。次に、ラーメンの摂取頻度が高い場合に死亡リスクが高い傾向があり、とくに70歳未満や習慣的飲酒者では有意な関連が認められた。

一方で、ラーメン摂取頻度が最も低い群においても、死亡リスクが高い集団が特定された。この点について著者らは「機序は不明」としながら、心血管リスク因子を有している人がラーメンの摂取を控えていることによる因果の逆転、または食事全体の摂取量が少ないことに伴うフレイルが死亡リスクに影響を及ぼしていた可能性を考察として述べている。

論文では、研究の限界点として、観察研究であり因果関係の考察が制限されること、ラーメン摂取頻度以外の食習慣や運動習慣、社会経済的地位など、死亡リスクに影響を及ぼし得る因子を調整していないこと、摂取されたラーメンの種類や一杯あたりの量を把握していないことなどを挙げた上で、結論を「ラーメン摂取頻度は、男性、70歳未満、習慣的飲酒者、麺類摂取時にスープを半分以上飲む人において、死亡リスクと関連していた。これらの結果は、個人の特性に基づいて、ラーメン摂取に関する食事指導を行う必要があることを示唆している」と総括している。

なお、山形大学のサイト内に掲載されたプレスリリースには、一般向けの解説として「研究のポイントおよびQ&A」がまとめられており、「ラーメンはどのくらいなら安心して食べられますか?」、「健康的に楽しむにはどうすればいいですか?」などの設問とその回答が示されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Frequent Ramen consumption and increased mortality risk in specific subgroups: A Yamagata cohort study」。〔J Nutr Health Aging. 2025 Aug 1;29(10):100643〕 原文はこちら(Elsevier)

プレスリリース

ラーメンの過剰摂取が一部の人々の死亡リスクを高める可能性——山形コホート研究より(山形大学)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)。具体的には、ラーメン摂取頻度が月1回未満の群で半分以上飲む人は33.7%、摂取頻度が月1~3回では42.2%、週1~2回では51.5%、週3回以上では57.7%だった。<>

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体内の葉酸の貯蔵量の指標ともいえる赤血球中の葉酸値が、筋肉量(ASMI)と正相関することが、米国国民健康栄養調査のデータ解析から示された。512ng/mL以上ではこの相関が有意でなくなることから、著者らは「サルコペニア予防には赤血球葉酸値を512ng/mLを下回らないように維持することが役立つ可能性があるのではないか」と述べている。

体内の葉酸レベルの三つの指標と四肢骨格筋量指数(ASMI)の関連を検討

ビタミンB群に含まれる葉酸は、骨格筋機能にとっても重要な栄養素であるとされており、複数の研究で葉酸摂取量と筋力との関連が報告されている。ただし、体内の葉酸レベルと筋肉量との関連はいまだ明らかにされていない。

体内の葉酸レベルの評価指標として、「血清総葉酸値」や血清中の葉酸の活性型である「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-Methyl-tetrahydrofolate;5-MTHF)」、および、赤血球中の葉酸レベルである「赤血球葉酸値」などがある。血清総葉酸値や5-MTHFは食事摂取の影響を受けて変動するのに対して(半減期は3時間)、赤血球葉酸値は赤血球寿命が120日であることから、過去約2カ月の葉酸摂取状況を反映する指標として位置付けられている。

この論文の著者らは、米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey;NHANES)のデータを用いて、これら三つの指標と四肢骨格筋量指数(appendicular skeletal muscle mass index;ASMI)の関連を横断的に解析した。

米国国民健康栄養調査のデータを横断的に解析

2011~18年の米国国民健康栄養調査(NHANES)の参加者の中で、癌罹患者、妊婦、およびデータ欠落者を除外した1万3,850人を解析対象とした。なお、論文中には解析対象者の年齢を絞り込んだ(例えば未成年者を除外した)という記載は見当たらず、後述するように、低筋量(low muscle mass;LMM)群の平均年齢が21.437±14.759歳と若く、これは筋量のピークに達していない未成年の参加者が多く含まれていることを意味する。年齢層別のサブグループ解析の結果も示されているが、この点はサルコペニアという加齢変化と葉酸レベルとの関連を検討するうえでの限界点として指摘できるかもしれない。

さて、論文の紹介に戻ると、解析対象者を欧州サルコペニアワーキンググループ2(European Working Group on Sarcopenia in Older People 2;EWGSOP2)のサルコペニア判定基準(ASMIが男性は7未満、女性は5.5未満)に基づき分類すると、3,016人(21.8%)が低筋量(LMM)に分類された。

正常筋量(normal muscle mass;NMM)群と比較して低筋量(LMM)群は、前述のように若年であり(34.898±13.737 vs 21.437±14.759歳、p<0.00001)、男性が多いほか(47.398>

葉酸関連の三つの指標のうち、血清総葉酸値と5-MTHFについては低筋量(LMM)群のほうが有意に高く、葉酸摂取量の長期的な指標である赤血球葉酸値についてはLMM群のほうが有意に低いという結果だった。詳細は以下のとおり。

正常筋量(NMM)群、LMM群の順に、血清総葉酸値は17.882±13.233、22.098±10.690ng/mL、5-MTHFは37.756±28.466、46.584±21.322nmol/L(いずれもp<0.00001)、赤血球葉酸値は496.107±192.645、484.228±182.134ng>

次に、四肢骨格筋量指数(ASMI)と葉酸関連指標との関係性を多重線形回帰分析で検討。その結果、交絡因子未調整の粗モデル、および、年齢、性別、人種を調整したモデルでは、血清総葉酸値と5-MTHFはASMIと負の有意な関連が示され、赤血球葉酸値は正の有意な関連が示された。

ただし、調整因子に、喫煙、運動習慣、総コレステロール、トリグリセライド、LDL-C、HDL-C、HbA1c、インスリン、AST、クレアチニン、尿酸、白血球数、アルブミン、ビタミンDなどを加えると、血清総葉酸値と5-MTHFに関してはASMIとの関連が非有意となった。その一方、赤血球葉酸値に関しては引き続き有意な正の関連が維持されていた(β=0.0003、p=0.002098)。

サブグループ解析では20~39歳、男性でのみ有意な関連

続いて、赤血球葉酸値とASMIとの関連について、年齢・性別で層別化したサブグループ解析が行われた。交絡因子を調整後、年齢については20歳以上40歳未満でのみ有意な関連が認められ(β=0.0007、p=0.000003)、20歳未満や40歳以上は有意な関連がなかった。性別では男性のみ有意な関連が認められ(β=0.0007、p=0.000020)、女性では非有意だった。

赤血球葉酸値とASMIとの関連が非線形の関連であったため変曲点を検討すると、赤血球葉酸値が512ng/mL未満の場合は赤血球葉酸値が高値であるほどASMIが高く、赤血球葉酸値が512ng/mLを超えるとその関連がみられなくなった。なお、年齢20歳以上40歳未満の集団での変曲点は468ng/mL、男性のみでは574ng/mLだった。

葉酸サプリ摂取の有用性は、前向き研究で検証される必要がある

これらの結果を基に論文の結論は以下のようにまとめられている。

本研究では、赤血球中葉酸値と筋肉量の間に正の相関関係が認められ、変曲点は512ng/mLだった。この結果は、葉酸欠乏が筋肉量減少と関連している可能性を示唆している。しかしながら、これはあくまで相関関係を示すものであり、因果関係を示唆するものではない。因果関係の確認には前向き研究が必要とされる。赤血球中葉酸値を512ng/mL以上に維持することが、サルコペニアの予防と治療に潜在的な効果をもたらす可能性があるものの、葉酸サプリメントに関する具体的な推奨は、確固とした前向きなエビデンスが得られるまで待つ必要がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between body folate status and muscle mass: a cross-sectional study of the National Health and Nutrition Examination Survey 2011–2018」。〔J Health Popul Nutr. 2025 Jul 12;44(1):250〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

0.00001)、赤血球葉酸値は496.107±192.645、484.228±182.134ng>0.00001)、男性が多いほか(47.398>

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スポーツ競技会への参加を目的に海外へ旅立つスポーツツーリストが、現地で直面することの多い栄養に関する課題を、デプスインタビューで調査した結果が報告された。12人のマラソンランナーに対する調査の解析で、四つの課題が特定されたという。ポーランドの研究者の報告。

スポーツツーリストの増加に伴い、食事・栄養関連ではどんな課題が生じているのか?

世界的なスポーツ人口の増加とともに、自国外で開催されるスポーツイベントに参加する、スポーツツーリストも増加している。海外旅行が身近になったことも、この傾向に拍車をかけており、他国での観光と組み合わせて大会参加を計画するアマチュアアスリートも少なくない。マラソンやハーフマラソンなど、伝統的に国外からの参加が多い長距離競技のイベントも例外ではない。

持久系競技では、大会参加前のグリコーゲンローディングが成績を左右する大きな要素と言え、非エリートレベルであっても大会に参加する以上は、事前の食事計画をおろそかにできない。しかし、海外では言葉の壁はもちろん、自国との食習慣・環境の違いがあり、レースのスタート時刻にあわせて、どこでなにをどのように食べるべきかを判断するのは容易ではない。

スポーツツーリズムが急速に拡大しているにもかかわらず、このような栄養面の研究はほとんど行われていない。そこでこの論文の著者らは、デプスインタビューによる定性的な研究を行い、現時点でのこのトピックに関する課題の特定を試みた。なお、デプスインタビューは、特定のテーマを深く掘り下げることで、潜在的な課題の抽出や対応策の検討につなげるインタビュー調査。デリケートな内容にも踏み込むことが可能な、質的研究手法の一つとされている。

ポーランドでのハーフマラソンに参加した12人のスポーツツーリストで調査

インタビューの対象は、ポーランドで定期的に開催されているポズナンハーフマラソンの2025年大会にポーランド国外から参加し、母語がポーランド語でなく、過去2年以上にわたり同様に自国外でのマラソン大会に参加しているスポーツツーリスト12人。性別は女性4人、男性8人で、居住国は英国、ドイツ、ウクライナが各4人。インタビュアーは1人で、12人に対するインタビューにより、新たなトピックが観察されない飽和状態に到達した。

インタビュー内容の解析の結果、スポーツツーリストが直面する栄養課題として、(1)食品の質と入手方法、(2)現地の食習慣への適応とその生理学的影響、(3)適切な水分補給とサプリメント摂取、(4)心理的ストレス、身体的健康状態、栄養素摂取の選択の複合的な課題――という4点が特定された。以下、それぞれについて要旨を紹介する。

(1)食品の質と入手方法

海外での大会参加における栄養面での課題として、最も多く挙げられたのは、高い品質の食事の入手手段が限られていることだった。とくに競技に適した食事を摂ることが困難で、レースコースや宿泊施設付近で入手できる一般的な食事の選択肢では、スポーツのための食事ニーズを十分に満たせないと指摘された。

英国から参加した選手は、「スタート地点の近くで健康的な食事を見つけるのが難しいことがよくある。とくにポーランドでは、料理が脂っこく重いものが多い。また、過去に何度かここのレースに参加したが、開催日はたいてい日曜日で、新鮮な野菜や軽食が手に入らなかった」と話した。この発言は、自国の食の嗜好が他国のアスリートの栄養ニーズといかに食い違っているかを物語っている。

特別な食事制限や食物アレルギーのあるアスリートにとって、食品の品質と入手性に関する課題はさらに複雑になる。ドイツからの参加者は「ビーガンの私は海外のレースで苦労する」と述べ、英国の別の参加者は「私はナッツアレルギーで、ほんのわずかでもアレルギー反応を引き起こす可能性があるため、細心の注意を払わなければならない」とした。

(2)現地の食習慣への適応とその生理学的影響

異なる食習慣や地元の食材は、しばしば不快感をもたらし、場合によっては健康状態やパフォーマンスの低下につながる。多くのランナーにとって、問題は食べ物そのものではなく、その成分や調理方法に関する知識を有していないことだった。ドイツからの参加者は、「国によって食材や調理法が異なるため、自分が何を食べているのか正確に把握できないことがある。全く知らないスパイスが使われていることがあり、そのために体の感覚や反応に影響が生じることも経験する」と述べている。

また、気候や水、食材の組み合わせ、味付けの濃さといった環境の変化が、深刻な生理的な問題を引き起こすことも報告された。ドイツ出身のランナーは、「国際レースでは胃の調子が悪くなることがよくあるが、これは食べ物、水、あるいは環境全体の変化が原因だと思う。危険な食べ物を避けたとしても、体がいつもとは異なる反応を示す」と語り、ウクライナからの参加者は、「レースの数日前から馴染みのない食べ物を避けるようにしているが、この方法では食品の選択肢が限られてしまい、自分のニーズに満たすことが困難になってくる」と説明した。

(3)適切な水分補給とサプリメント摂取

一部の回答者にとっては、適切な水分補給を維持することと、使い慣れたサプリメントを入手することが、国際レース参加中の大きな課題であった。安全な飲料水を常に入手できるわけではないこと、厳しい気象条件下でのレースでは水分補給戦略がより困難になることなども語られた。

なお、ドイツからの参加者は、これらの問題に言及しなかった。これは、遠征前に水やサプリメントを確保しておくなど、他国の出身者が行っていない準備を採用していたか、あるいはドイツ人の習慣や過去の経験により、ポーランドにおけるこれらの問題はそれほど重要ではなかった可能性もある。

(4)心理的ストレス、身体的健康状態、栄養素摂取の選択の複合的な課題

スポーツツーリストは、アスリートとしての課題のほかに、ツーリストとしての課題にも直面する。これらには、ストレス、疲労、快適さの希求などの精神的・身体的状態も含まれる。

ある英国からの参加者は、「海外でレースをする際、移動は間違いなく自国よりも複雑で、とくに飛行機移動の場合や交通手段の選択肢が限られている場合は、オプションの計画を立てておくことが欠かせない」とし、ウクライナからの参加者は宿泊施設での自炊の難しさを、「宿泊施設に適切なキッチン設備がないのは非常に不便だ。そのため、食材は入手できても食事を準備することができない。結局、外食するか調理済みの食事を購入することになる」と指摘している。

さらに、ストレス、緊張、疲労の影響も、適切な栄養摂取の大きな課題として浮上した。あるドイツ人の参加者は、「競技のストレスで食欲がなくなり、レース前に十分な食事を摂るのが難しくなることがよくある。栄養の重要性はわかっていても、体がいうことを聞かない」と語った。英国人ランナーは、「フライト後の疲労で食べる気力がなくなってしまうことがよくあり、残念だが、それがその後のパフォーマンスに影響してしまう」と述べ、ウクライナからの参加者は、「レースのタイトなスケジュールと、滞在中のほかの観光計画のせいで、落ち着いて食事をしたり休んだりする時間がほとんどないことが少なくない」とした。

なお、ウクライナの参加者は、味の好みや現地の料理への適応の難しさについて言及しなかった。これは、ウクライナの食習慣がポーランドのそれと比較的似ているためと考えられる。

スポーツツーリズムの拡大に対応し、栄養士や食品提供者などの連携強化を

著者らは論文の結論で、「本研究は小規模かつ限定的なサンプルサイズであるため、これらの知見をスポーツツーリスト全体に一般化する際には注意が必要。ただし、国際大会への遠征において、効果的な栄養管理には、快適性、健康、運動パフォーマンスを向上させるために、文化的、生理学的、かつ総合的なアプローチを考慮する必要があることが示唆された。個別化された栄養戦略の実施と、コーチ、栄養士、食品提供者、そしてイベント主催者間の連携強化は、スポーツツーリストにおける栄養課題の軽減と参加者の全体的な満足度の向上に役立つ可能性がある」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional Challenges of Active Sports Tourists: A Qualitative Study from the Runners’ Perspective」。〔Nutrients. 2025 Jul 17;17(14):2339〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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プロアスリートとアマチュアアスリートを比較すると、体組成が有意に異なり、また、アスリートのための食事ガイドラインの遵守状況を表す指標(ADI)にも有意差が認められるとする研究結果が報告された。プロアスリートは除脂肪量が多くて脂肪量は少なく、ADIは高値だという。イランからの報告。

プロとアマチュアの体組成や食事の比較は、これまであまり行われていなかった

バランスの良い食事と好ましい体組成が、健康およびスポーツパフォーマンスや回復に重要であることを示すエビデンスが蓄積され、そのエビデンスに基づき、ハイレベルのアスリートにはスポーツ栄養士やコーチ、医師などの指導により個別化された食事計画が提供されることが多い。それに対してアマチュアアスリートは食事を自己管理していることが多いことから、両者の間に食事の質や体組成に差が生じている可能性がある。しかし、本論文の著者は、両者の食事の質や体組成を同時に比較した研究はほとんどないとしている。

これを背景としてこの研究では、テヘランのプロおよびアマチュアのさまざまな競技アスリートを対象とする横断比較研究を行い、両者の差の有無を検討した。なお、本研究におけるプロアスリートとは、競技会参加のためコーチの指導の下で週に10時間以上トレーニングを行っているアスリートと定義されており、これを満たしていない場合はアマチュアと判定されている。また、競技会参加を目指していないレクリエーションアスリートや、年齢が18~40歳の範囲外および疾患を有するアスリートは対象から除外されている。

プロアスリートは食事・栄養素の摂取状況が良好で、筋肉が多く体脂肪が少ない

事前の統計学的検討から、このトピックの検証に必要なサンプルサイズは106人と計算され、183人(プロ99人、アマチュア84人)のアスリートを解析対象とした。

プロはアマチュアよりスポーツサプリ利用率が高い

まず、この両群の特徴を比較すると、平均年齢(プロ24.8歳、アマチュア24.9歳)、性別(男性の割合が同順に55.6%、47.9%)、教育歴、就業状況に有意差はなかった。また、国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)により評価した身体活動量にも有意差はなかった。

一方、競技レベルは、国内・国際大会レベルがプロは31.3%、アマチュアは13.1%であり、有意差が認められた(p=0.01)。一般的な栄養補助食品(dietary supplement)の利用率には有意差がなかったが(59.6 vs 50.0%、p=0.192)、スポーツサプリの利用率はプロのほうが有意に高値だった(40.4 vs 25.0%、p=0.028)。

プロはアマチュアより除脂肪量が多く脂肪量が少ない

次に、生体電気インピーダンス法で測定した体組成をみると、プロアスリートはアマチュアに比べて除脂肪量が多く脂肪量が少ないという有意差が認められた。BMIは有意差がなかった。詳細は以下のとおり。

除脂肪体重率はプロが80.8±6.8%、アマチュアは78.0±9.6%(p=0.023)。体脂肪率は同順に16.2±7.1%、18.8±9.9%(p=0.019)。BMIは23.0±13.2、23.3±13.4(p=0.240〈標準偏差が大きいが論文のまま〉)。

プロはアスリートのための食事ガイドを遵守している(ADIが高い)

食事の評価には、シドニー大学のスポーツ栄養の専門家がアスリートの食事の質を評価するために開発した、検証済みの食事評価ツール(Athlete Diet Index;ADI)が用いられた。

このADIは、三つのサブドメインで構成されていて、合計スコアは125点。このうち80点で、果物、野菜、穀物、乳製品、肉など、コアとなる食品・栄養素の摂取頻度と適切さを評価する。このほかに35点は、鉄やカルシウムなどの特定の微量栄養素の摂取を評価し、残りの10点で食事のタイミングや頻度、料理のスキル、水分補給などの食習慣を評価する。125点満点で90点以上はスポーツ栄養の推奨を満たすゴールド、66〜89点は改善の余地があるシルバー、65点以下は潜在的な栄養リスクのある状態を示すブロンズと判定する。

本研究において、プロはアマチュアより合計スコアが有意に高かった(88.6±17.6 vs 73.5±22.5、p<0.001)。また、プロは判定区分のゴールドが最多で、次いでシルバーであり、ブロンズは最も少なかったが、アマチュアはシルバーが最多で次いでブロンズであり、ゴールドは最も少なかった(p<0.001)。<>

ADIのサブドメインを比較すると、コア栄養素(59.7±15.7 vs 54.4±23.9、p=0.015)と、特定の微量栄養素(20.1±4.8 vs 16.8±5.5、p<0.001)において有意差があり、いずれもプロのほうが高値だった。食習慣については有意差がなかった(5.6±2.2>

ADIと体組成との関連を解析した結果、プロとアマチュアとで、有意な交互作用が認められ(交互作用p=0.047)、プロにおいてはADIが高いほど体脂肪率が低かった。除脂肪体重率とADIの関連については、交互作用および主効果ともに有意でなかった。

栄養戦略の重要性を示唆

論文の結論は、「プロアスリートとアマチュアアスリートの比較で、体組成と食事の質の双方に有意な差があることが明らかになった。この知見は、競技レベルにかかわらず、アスリートの健康とパフォーマンスを最適化することを目的とした、コーチや栄養士による的を絞った介入に役立つものと言える」と総括。また、「とくに専門的な食事指導を受けられないことのあるアマチュアアスリートに対する、個別化された栄養戦略の重要性が示された」と付け加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Comparison of athlete diet index and body composition between professional and non-professional athletes: a comparative cross-sectional study」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2533497.〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)において有意差があり、いずれもプロのほうが高値だった。食習慣については有意差がなかった(5.6±2.2>0.001)。また、プロは判定区分のゴールドが最多で、次いでシルバーであり、ブロンズは最も少なかったが、アマチュアはシルバーが最多で次いでブロンズであり、ゴールドは最も少なかった(p<0.001)。<>

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米国の一般住民の遺伝子検査の認識、利用率、利用後の行動の変化を調査した結果が報告された。検査を受けたことがあると回答したのは28.7%で、そのうち検査結果に基づき行動を変えた人は16.3%に過ぎないものの、その全員が生活習慣を変更し、32.9%はサプリメントの使用方法を変更したという。

自分の遺伝的背景を知り、疾患を予防する時代が間近に

2003年にヒトゲノム計画が完了し「ゲノム時代」が幕開けして以降、遺伝子検査は目覚ましい進歩を遂げてきている。当初は極めて高額なコストを要していたものの、近年では個人での利用も可能になってきた。個人が自身の疾患リスクを認識することで、生活習慣を改善したり、健診や人間ドックなどの受診を増やしたりするなどの対策が可能となる。しかし、これまでのところ、遺伝子検査に関して、その認知度などは調査されてきているが、検査を受けた後に行動変容が起きたか否かはあまり調査されていない。

これを背景に、この論文の著者らは、米国立がん研究所(National Cancer Institute;NCI)の「健康情報動向調査(Health Information National Trends Survey;HINTS)」のデータの二次解析による検討を行った。HINTSはNCIが18歳以上の米国の一般住民を対象に毎年行っている横断調査であり、本研究では2022年のデータが用いられた。

遺伝子検査の認知度は81.6%、受検率は28.7%、受検後の行動変容は16.3%

解析対象は4,631人で、女性59.6%、年齢は50~64歳が最多で29.5%、次いで35~49歳が21.6%、65~74歳が21.0%、既婚者46.6%、就労者率55.6%、学士号取得者29.3%だった。この研究では、(1)遺伝子検査の認知度、(2)遺伝子検査を受けたことのある割合、(3)遺伝子検査を受けた後の行動変容――という3点に焦点を当てた解析が行われた。

(1)遺伝子検査の認知度

以下の遺伝子検査について「聞いたことがあるか?」と質問し、「祖先検査(家族の起源を知る検査)」、「個人特性検査(個人の特性を知る検査)」、「特定の疾患検査(乳がん、大腸がん、糖尿病などの遺伝的リスクの高さを知る検査)」、「出生前遺伝子検査(胎児の遺伝性疾患のリスクを知る検査)」などを示して調査された。

その結果、いずれかを聞いたことがある割合が81.6%であった。認知度を個別にみると、先祖検査は74.8%、特定の疾患検査が58.3%、出生前検査が40.4%、個人特性検査が27.2%だった。

遺伝子検査に関する情報源として最も多かったのはインターネットの62.5%であり、次いで旧来型メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)が60.4%、家族や友人が52.8%、医療従事者やカウンセラーが33.6%だった。

(2)遺伝子検査を受けたことのある割合

遺伝子検査を受けたことがあると回答したのは1,327人(28.7%)であり、50.0%は受けていないと回答。他の約20%は不明等だった。受けたことのある遺伝子検査として最も多いのは祖先検査(57.2%)であり、2位以降は特定の疾患検査(42.0%)、出生前検査(23.6%)、個人特性検査(17.6%)と続いた。

遺伝子検査を受けた理由として最も多かったのは、家族歴の把握が43.9%であり、次いで医師の勧めが34.7%、疾患リスクの把握が28.9%、出生前の理由(出生前に自身の意思によらず実施された)が20.2%、家族の捜索が17.1%、個人特性の把握が14.9%、検査の機会をプレゼントとして受け取ったが9.9%などだった。

(3)遺伝子検査を受けた後の行動変容

遺伝子検査を受けたと回答した1,327人のうち、検査結果に基づいて行動を変えたと回答したのはわずか216人(16.3%)だった。その216人において最も多く報告された変化は生活習慣の変更で、全員(100%)が何らかの生活習慣を変更していた。その他の変化の中では、サプリメントの摂取開始・変更(32.9%)が最多であり、健康診断の頻度の増加(25%)、薬剤の変更(18%)などが続いた。

一方、特定の疾患の遺伝子検査を受けた人では、検査後の行動変容が多く認められ、77.3%が変化を報告していた。このグループでは、やはり生活習慣の変更が最多(100%)であり、次いでサプリメントの摂取開始・方法の変更(35.3%)、健康診断の頻度の増加(26.3%)、薬剤の変更(18.6%)と続いた。

疾患関連遺伝子検査に対する行動変容の予測因子

二項ロジスティック回帰分析により、遺伝子検査を受けた後に行動変容を起こすことの関連因子として、年齢が24歳以上、大学教育を受けていることなどが特定された。

特定の疾患の遺伝子検査を受けたグループにおいては、医師の勧めによる検査、遺伝性疾患の発症リスクの認識、健康管理方法の習得意欲などが、行動変容に関連していた。一方、家族歴の検査や遺伝子検査をプレゼントとして贈られて受けることは、行動変容と負の関連が認められた。

著者らは、「遺伝子検査の認知度と検査を開ける人は増加してきているが、検査結果に基づいて行動変容を起こした人は少ない。これらの調査結果は、遺伝子リテラシーの向上を目的とした介入の重要性を強調するものと言える」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Awareness of genetic testing and its impact on changing behavior among general population of U.S – Health Information National Trends Survey (HINTS 2022)」。〔Lifestyle Genom. 2025 Jul 14:1-17〕 原文はこちら(S. Karger)

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スポーツ栄養Web編集部


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暑熱環境での持久系パフォーマンスや主観的な疲労感などに対するサプリメント摂取の影響を、ネットワークメタ解析で比較した研究結果が報告された。カフェインや硝酸塩を除いた解析の結果、メントールとタウリンに有意な効果を期待できるという。また、個々のサプリを単独で用いるよりも、あわせて摂取することで相乗効果が発揮される可能性があるとのことだ。

暑熱下のパフォーマンス低下抑制効果が高いサプリを統計学的手法で探る

地球温暖化の進展により、アスリートにとって暑熱環境への対策が必須となりつつある。これまでに研究・提案されている暑熱対策として、身体の冷却や栄養戦略などがあり、後者については、クレアチン、分岐鎖アミノ酸、カフェイン、硝酸塩などが検討されている。個々のサプリメントについては、いずれも一定のエビデンスがあるが、どのサプリが優れているのかを比較検討した研究はない。そこで今回紹介する論文の著者らは、異なる介入を行った多数の研究報告を統合して介入効果を比較する、ネットワークメタ解析という統計学的手法を用いた検討を行った。

なお、カフェインおよび硝酸塩については、プラセボ対照研究の報告が数多くあり、ネットワークメタ解析を行うと他のサプリとは独立したネットワークが形成されてしまいサプリ間の比較が困難になること、および、優れたメタ解析の報告が既にあるとの理由により、解析対象から除外されている。

システマティックレビューの方法と抽出された研究報告の特徴

この研究では、ネットワークメタ解析のためのガイドラインであるPRISMA拡張版(PRISMA-NMA)に準拠し、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Library、EBSCOhosという5種類の文献データベースを用いて、システマティックレビューを実施した。それぞれの開始から2025年5月1日までに収載された報告を対象として、暑熱環境(27℃以上)においてサプリメントを経口摂取し、パフォーマンスや主観的評価指標(快適性や自覚的運動強度〈RPE〉など)を無作為化比較試験(RCT)または準RCTで検討しており、英語で執筆されている論文を検索。除外基準は、ヒト以外の研究、RCTまたは準RCTでない研究(例えば観察研究)、サプリを非経口投与した研究(例えば静脈内投与)、サプリの慢性摂取の影響を検討した研究、バイアス評価ツールRoB 2に基づき1項目以上で高いバイアスリスクが認められた研究、同一の研究に基づく異なる報告などとされた。

一次検索で3万7,469報がヒットし重複削除後の2万1,507報をタイトルと要約に基づき3人の研究者が独立してスクリーニングを実施。365報を全文精査の対象とした。採否の意見の不一致は4人目の研究者との討議により解決した。

最終的に、25件の研究報告がシステマティックレビューの包括基準を満たすと判断され、22件のデータがネットワークメタ解析に利用された。25件の研究の参加者数は合計552人で、大半は18~35歳の健康な男性アスリートであり、平均年齢は28.3±4.8歳であって、行っている競技は、ランニング、自転車、ボート、サッカー、ラグビーなどさまざまだった。

研究が実施された環境は、室温27~40℃、相対湿度40~80%であり、多くはサプリ摂取の急性効果(単回または短期摂取)を検討していた。用いられていたサプリは、クレアチン、分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acid;BCAA)、チロシン、タウリン、ポリフェノール系抗酸化物質、炭水化物とプロテインのブレンド、電解質・ナトリウムベースのサプリなどであり、それら単独または複数を組み合わせた介入が行われていた。

メントールとタウリンは単独でも有効な可能性

解析は、持久力パフォーマンスと主観的な評価指標とに分けて行われている。順にみていこう。

持久力パフォーマンスへの影響:メントールとタウリンが有意

暑熱環境での持久力パフォーマンスに関しては、18件の研究で14パターンの介入効果が検討されていた。ネットワークメタ解析の結果、有意な影響を示したのは、メントール(標準化平均差〈standardized mean difference;SMD〉=-1.83〈95%CI;-3.15~-0.51〉)と、タウリン(SMD=0.91〈0.08~1.73〉)の2種類だった(メントールはタイムトライアルにおける完走時間が評価されたためSMDの信頼区間の上限がマイナスであることが有効を意味し、タウリンは疲労困憊に至るまでの時間が評価されたためSMDの信頼区間の下限がプラスであることが有効を意味する)。

BCAA(SMD=0.73)、クレアチン(SMD=0.43)、高ナトリウム(SMD=0.47)などのサプリメントも、パフォーマンスにプラスとなる傾向が示されたが、信頼区間が0をまたぎ有意ではなかった。

主観的な評価指標

暑熱環境での主観的な評価指標に関しては、11件の研究で11パターンの介入効果が検討されていた。評価されていた指標は、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、疲労感、温熱感覚、回復の程度などだった。

ネットワークメタ解析の結果、有意な影響を示したのは、メントールエナジージェルのみだった(SMD=2.14〈1.01~3.26〉)。その他、複数のサプリメントを併用したいくつかのパターンで、主観的評価指標を改善させる非有意レベルの影響が認められた。

著者らは、「暑熱環境での持久力という点ではメントールとタウリンが明らかなパフォーマンス向上効果を示し、他のサプリメントの効果については、質の高い研究によるさらなる検証が必要とされる。主観的な評価という点では、メントールエナジージェルが最も明確な可能性を示し、他のサプリメントの効果は異質性が高かった」と総括。また、「暑熱環境では、個々のサプリを単独で用いるよりも併用したほうが効果が高いように思われる」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Nutritional Supplements on Endurance Performance and Subjective Perception in Athletes Exercising in the Heat: A Systematic Review and Network Meta-Analysis」。〔Nutrients. 2025 Jun 27;17(13):2141〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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公益財団法人 食の安全・安心財団は、加工食品食育推進協議会との共催による意見交換会「健康と栄養〜日本人の食事摂取基準(2025年版)のポイントとバランスの良い食生活について〜」を9月9日(火)14時から開催いたします(登録締め切り:9月5日(金))。

外食・中食・加工食品の活用が進む今こそ、日常の中で続けられるバランスを実践するための食育が重要です。本意見交換会では、最新の『日本人の食事摂取基準(2025年版)』を軸に、そのポイントをわかりやすく解説し、外食・中食・加工食品を含む現実的な場面で使えるプランを、各分野の有識者と議論・共有します。基調講演は、当協会(SNDJ)理事長の鈴木志保子先生が務めます

参加費は無料、どなたでも聴講いただけます。会場での直接視聴に加え、Zoomによるオンライン開催もありますので全国どこからでも参加可能です。参加登録の締め切りは9月5日(金)ですので、ぜひお早めにお申し込みください。

こんな方におすすめ

  • 最新の食事摂取基準(2025年版)の要点を短時間で把握したい方
  • 外食・中食・加工食品を賢く使う現実的な栄養戦略を知りたい方
  • 氾濫する健康情報に振り回されず、エビデンスに基づく選択をしたい方
  • 行政・教育・企業・医療・スポーツ現場などで、“続けられる食育”の視点を取り入れたい方
タイトル
意見交換会「健康と栄養」 〜日本人の食事摂取基準(2025年版)のポイントとバランスの良い食生活について〜
日時
2025年9月9日(火)14:00〜16:00
形式
会場での聴講、Zoom(ハイブリッド)※Zoom参加のご案内は9/5以降に登録メールへ送付します。ご来場可能な方は、できるだけ会場へお越しください。
会場
三菱ビル コンファレンススクエア エムプラス「サクセス」(東京都千代田区丸の内2-5-2 三菱ビル1F) 地図
参加費
無料(事前登録制)(事前登録が必要です。会場が満席となった場合はご連絡いたします。早めのお申込みをお願いいたします)
参加お申し込み
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締め切り
9月5日(金) 締め切り間近につき、お早めにお申し込みください!
主催
公益財団法人 食の安全・安心財団
共催
加工食品食育推進協議会

「健康と栄養 〜 食事摂取基準改訂のポイントとバランスの良い食生活について(仮題)」 鈴木 志保子 先生(一般社団法人 日本スポーツ栄養協会-SNDJ- 理事長)

パネルディスカッション(予定)

  • 阿南 久 氏(一般社団法人 消費者市民社会をつくる会 代表理事)
  • 畝山 寿之 氏(味の素株式会社 グローバルコミュニケーション部 サイエンスグループ シニアスペシャリスト)
  • 鈴木 志保子 先生(一般社団法人 日本スポーツ栄養協会-SNDJ- 理事長)
  • 仁田 友香 氏(キユーピー株式会社 広報・サステナビリティ本部 サステナビリティ推進部 食と健康チーム)
  • 村山 直和 氏(農林水産省 大臣官房参事官〈消費・安全局〉)
  • 森田 満樹 氏(消費生活コンサルタント)
  • コーディネーター:道野 英司(食の安全・安心財団 副理事長)

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スポーツ栄養Web編集部


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カフェインによる持久系パフォーマンス等への影響を、事前にカフェイン摂取を制限せず、ふだんどおりにコーヒーなどを摂取している状況で検討した研究結果が報告された。そのような状況では、プラセボとの有意差が認められなかったという。著者らは、カフェインの有効性を示した研究の多くは事前に一定期間、カフェイン摂取を禁止しており、それによる離脱症状が試験時のカフェイン摂取によって解消されることが、有意性の発現に一部関与しているのではないかと述べている。

カフェインの有用性は多くの研究で支持されているが…

カフェインがスポーツパフォーマンスや知覚反応速度などを向上するとする研究報告は枚挙にいとまがない。ただし本論文の著者らは、それらの結果が、研究前に人為的または偶発的に誘発されたカフェイン離脱症状と何らかの関連があるのではないかという点は、まだあまり検証されていないとしている。そのため、研究実施前にカフェイン摂取を制限しない条件での検討が必要と指摘。また、カフェイン関連の研究の多くが男性を対象としてきていること、摂取量を3~6g/kgとすることが多く少量での影響が検討されていないことも、未解明の課題であると述べている。

これらの課題に対応するため、この研究では、研究実施前のカフェイン摂取を制限せず、研究参加者に占める女性の割合を半数程度とし、かつ6mg/kgのほかに2.5mg/kgという摂取条件も設けたプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験を実施した。

研究は、カフェイン摂取量を2.5mg/kgとする「研究1」と、同6mg/kgとする「研究2」で構成されている。研究1からみていこう。

カフェインを2.5mg/kg摂取した場合は、プラセボ摂取条件と有意差なし

研究1は41人が参加し、6人が脱落して35人が解析対象となった。うち女性が17人(全員月経周期の異常なし)で、年齢は女性が22.2±2.0歳、男性は24.3±4.9歳で、国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)で評価した高強度運動の頻度が2.7±1.9回/週(平均活動時間59.6±50.4分)、中強度運動の頻度は3.3±1.6回/週(同59.1±93.2分)、自転車エルゴメーターでのピークパワーは女性、男性の同順に268±37W、354±50W、最大心拍数は191±11bpm、199±7bpm。

ふだんのカフェイン摂取量は、カフェイン摂取量質問票の回答に基づき推測され、106±89mg(範囲0~296mg)と推測された。1人はカフェインを習慣的に摂取していなかった。

パフォーマンステストは、自転車エルゴメーターにより実施。実施の60分前に、カフェイン2.5mgまたはプラセボ(白とうもろこし粉)を、被験者、研究者ともに区別がつかないカプセルとして渡し、摂取してもらった。事前に評価されていたピークパワーの65%の強度で疲労困憊に至るまで続け、60回転/秒以上を10秒間維持できなくなった時点で打ち切りとした。

1週間のウォッシュアウト期間を挟み、割り付けを切り替えたうえで同様の試験を行った。概日リズムや生活パターンによる結果への影響を抑制するため、テストの時間帯は初回のテストに揃えた。なお、研究参加者には、研究期間中、カフェインの摂取習慣を変えないこと、食事・運動習慣をふだん通り維持すること、パフォーマンステストの48時間前からは激しい運動を控えることを求めた。また、女性参加者については、月経周期を確認し、解析の際に交絡因子として用いた。

検討の結果、疲労困憊にいたるまでの時間(time to exhaustion ;TTE)は、カフェイン摂取条件が1,154±536秒、プラセボ条件が1,279±853秒で有意差がなく(p=0.153)、心拍数も同順に182±10bpm、180±10bpm(p=0.110)、相対心拍数(事前に評価されていた最大心拍数に対する割合)も93±3%、92±4%(p=0.123)で有意差がなかった。

また、本研究では上記のパフォーマンスへの影響とは別に、疲労感、身体的負担(Borgスケール)、覚醒度、感情、モチベーション、注意力、時間感覚などへの影響も評価されたが、すべて条件間に有意差を認めなかった。性別を交絡因子として調整した解析や、性別で層別化した解析、女性の月経周期を調整した解析のいずれでも、結果は同様だった。

なお、テスト開始前の12時間以内にカフェインを摂取していた参加者(26人)でのサブグループ解析では、疲労困憊にいたるまでの時間(TTE)がカフェイン摂取条件よりもプラセボ摂取条件のほうが、有意水準未満ながら優れている傾向が観察された(1,145±510 vs 1,350±954秒、p=0.055)。

カフェインを6mg/kg摂取した場合も、プラセボ摂取条件と有意差なし

研究2には22人が参加し、1人が脱落して21人が解析対象となった。うち女性が11人(全員月経周期の異常なし)で、年齢は女性が21.5±2.5歳、男性は20.8±2.0歳で、国際標準化身体活動質問票(IPAQ)で評価した高強度運動の頻度が3.5±1.8回/週(平均活動時間85.0±34.6分)、中強度運動の頻度は3.9±1.9回/週(同118.4±197.5分)、自転車エルゴメーターでのピークパワーは女性、男性の順に249±28W、348±37W、最大心拍数は191±9bpm、190±11bpm。

カフェイン摂取量質問票の回答に基づき推測されたふだんのカフェイン摂取量は、87±64mg(範囲0~245mg)であり、1人はカフェインを習慣的に摂取していなかった。

パフォーマンステストの結果、疲労困憊にいたるまでの時間(TTE)は、カフェイン摂取条件が1,915±1,218秒、プラセボ条件が1,754±1,341秒で有意差がなく(p=0.390)、心拍数も同順に173±14bpm、174±12bpm(p=0.993)、相対心拍数は91±5%、91±3%(p=0.982)で有意差がなかった。また、疲労感やBorgスケール、覚醒度、感情、モチベーション、注意力、時間感覚など、評価された指標のすべてに条件間の有意差を認めず、性別を交絡因子として調整した解析や性別で層別化した解析、女性の月経周期を調整した解析のいずれでも結果は同様だった。

以上より著者らは、「慎重な解釈が必要ではあるが、これまでの研究で示されてきた持久力パフォーマンスに対するカフェインのエルゴジェニック効果は、このトピックに関する研究で実施されることの多い、研究前の短期間のカフェイン摂取制限が惹起する離脱症状による悪影響からの回復によって、部分的に説明できる可能性があるのではないか」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「No effects of caffeine on cycling to exhaustion and perceptual responses in non-caffeine-restricted subjects」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2534131〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部


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一般社団法人日本スポーツ栄養協会(理事長・鈴木志保子)主催の「志保子塾」の2025年度(第8期)後期が10月からスタートします。スポーツ栄養を学び、実践に活かしたいビジネスパーソンが全国から参加する人気セミナー。初めての方もリピートの方も大歓迎!ご参加をお待ちしております。

「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」とは

通称「志保子塾」と呼ばれる当セミナーは、日本におけるスポーツ栄養学の第一人者、当協会・鈴木志保子理事長から直接講義を受けられる唯一のスポーツ栄養セミナーです。2025年度で8期目を迎え、延べ2千名以上が受講。仕事で使える実践的な栄養知識をつけたいビジネスパーソンのためにスタートしたセミナーですので、企業の開発・研究職やマーケティングの方をはじめ、スポーツに関わる専門職の方、スポーツ栄養を学びたい管理栄養士・栄養士など、様々な方が集います。

講義では、鈴木理事長の著書『理論と実践 スポーツ栄養学』をテキストとして使用し、6回に分けて1冊を学びます。毎回の講義は約4時間にわたり、PC画面越しでも伝わる講師の熱量を感じながらの講義「スポーツ栄養の理論と実践」、他では聞けない現場の経験談、業界トレンドなど、その圧倒的な情報量とわかりやすさ(面白さ)に定評があります。同じテーマでも最新情報がどんどん追加されていきますので、何度もリピートする方が多いのも特徴です。

オンライン受講なので、場所を問わず、交通費もかからず、PCやスマホから手軽に参加、LIVE配信では質疑応答タイムに講師へ直接質問もできます。さらに、3日間の見逃し配信もあるので、平日開催のLIVE配信に参加できない方も、期間中何度でも聴講して学びを深めていただけます。

セミナーは年2回、前期(4月~9月)と後期(10月~翌3月)に分かれており、興味のあるテーマ回のみの単回受講も可能です。

各セミナーの詳細・お申し込みはこちら

2025年 後期 セミナー開催日程

ライブ配信:2025年10月14日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年10月18日(土)~10月20日(月)

スポーツ栄養とは? その意義とアスリートにおける栄養摂取の基本的考え方からスタート。エネルギー消費と代謝のメカニズム、最も重要なエネルギー源である糖質摂取の意義、糖質の選び方・食べ方、シーンに応じた摂取目安量、タイミング、グリコーゲンローディングやリカバリー活用のしかたなどについて詳しく解説します。

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第2回 タンパク質、ビタミン、ミネラルの摂取とサプリメントの活用

ライブ配信:2025年11月18日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年11月22日(土)~11月24日(月)

アスリートの脂質、タンパク質、ビタミン・ミネラルの摂り方を取り上げます。特に、タンパク質の適正な摂取量を知り、リカバリーや筋合成のためにどのように摂るとよいかを詳しく解説。摂りきれなかった栄養素を補うサプリメントの利用、競技力向上を目的に栄養素以外の成分をサプリメントで摂取するエルゴジェニックエイドとしての活用についても学びます。

詳細・お申し込み

第3回 アスリートの食事、スポーツ栄養マネジメントを用いた栄養管理システムの活用

ライブ配信:2025年12月16日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年12月20日(土)~12月22日(月)

アスリートの運動量に応じた適正量を知り、目標達成のためにどのような食品をどのタイミングで食べるか、食材選び、食事構成、補食・間食のとり方の極意を講義します。理に適った糖質とタンパク質の摂り方、食塩摂取の考え方、生活リズムと朝食の関係など、具体的なノウハウを学びます。

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第4回 試合期・遠征時の栄養管理

ライブ配信:2026年1月20日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2026年1月24日(土)~1月26日(月)

通常の食事と試合期の食事は異なります。緊張や興奮からくる栄養状態への影響と対策を考えた試合前、試合当日の食事の原則・栄養管理のポイント、TPOに応じた糖質やタンパク質、水分摂取について講義します。

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第5回 アスリートにおける栄養面の課題~増量、エネルギー不足、貧血、疲労骨折を中心に~

ライブ配信:2026年2月17日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2026年2月21日(土)~2月23日(月)

アスリートにおける栄養面の課題をテーマに、エネルギー不足による健康問題、治し方、予防策、様々な理由による貧血、疲労骨折の原因と予防、増量・減量の正しい行い方を講義します。"エネルギー不足"の弊害は、実はまだあまり知られていませんが、アスリートに限らず、子どもや高齢者、女性など、あらゆる世代に関わる大きな問題です。

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第6回 対象アスリート別栄養管理~ジュニアアスリート、女性アスリート、パラアスリートを中心に~

ライブ配信:2026年3月10日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2026年3月14日(土)~3月16日(月)

選手の目標・課題達成のためのサポート計画に基づいた「スポーツ栄養マネジメント」の流れ、対象者別コンディション管理、評価のしかたを中心に講義を行います。女性の三主徴、発育発達期のエネルギー摂取の考え方、シニアやパラアスリートのサポートについても詳しく解説。

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ケトジェニックダイエットを行っているアスリートが、運動直前に糖質を摂取することで、パフォーマンスか向上するという研究結果が報告された。ただし、有意な影響が観察されるのは運動の30分前という直前に摂取した場合であって、2日間にわたって摂取した場合は有意でなく、この結果には筋肉と肝臓のグリコーゲンへの影響の違いなどが関与している可能性があるという。英国からの報告。

ケトジェニックダイエットを長期間続けているアスリートにも糖質は有効?

糖質の摂取量を極めて少量に制限することで、ケトン体の産生量を増やし、それをエネルギー基質として利用できるように代謝を変えることを意図した「ケトジェニックダイエット(ケトン産生食)」が、アスリートの間でも徐々に広がってきている。ケトジェニックダイエット(ketogenic diets;KD)によって炭水化物の酸化が抑制され、骨格筋や肝臓のグリコーゲンの貯蔵が温存され、持久力パフォーマンスに対して有利に働くという理論も提唱されている。ただしそれを実証したエビデンスは限られている。

一方、持久力にとって運動前の糖質摂取が重要であることは古くから認識されており、現在に至るまで、さまざまな糖質摂取戦略が試行錯誤されている。KDを実践しているアスリートにおいても、運動前の糖質摂取がパフォーマンスを向上させる可能性があるが、これまでのところ、ケーススタディーや短期間の糖質制限での研究の報告しかなく、長期にわたってKDを行っているアスリートでの知見はみられない。

これを背景としてこの論文の著者らは、最低1年以上KDを続けているアスリートを対象として、運動前の糖質摂取の有用性を検討した。

運動の直前に糖質を摂取するとパフォーマンスに好影響

この研究の参加者は、週に2回以上の頻度で持久系スポーツを行っているレクリエーションアスリート13人。全員が、過去1年以上ケトジェニックダイエット(KD)を継続していること、年齢が18~60歳の範囲であること、非喫煙者であること、摂食障害の既往がないこと、疾患を有していないことという適格基準を満たしていた。なお、KDは、1日あたりの炭水化物摂取量が50g未満または総摂取エネルギー量の10%未満と定義されている。

研究参加者の主な特徴は、年齢41±11歳、女性が13人中2人、BMI23.6±2.0、体脂肪率12.8±5.4%、VO2max49.8±5.4mL/kg/分であり、主要栄養素摂取量(%エネルギー)は、炭水化物5±2%、脂質67±7%、タンパク質27±6%で、安静時のケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)レベルは0.8±0.4mmol/L。

糖質摂取の有無および摂取方法を変えた4パターンで比較

試験デザインは、単盲検プラセボ対照クロスオーバー法(ラテン方格法)であり、全員に対して以下の4条件を試行した。各試行には5日以上のウォッシュアウト期間を設け、試行は同一時間帯に行った。また研究期間中はトレーニング内容を変えないように指示し、試行48時間前からは激しい運動を禁止した。

  • 条件1(Acute条件):パフォーマンステストの試行30分前に、糖質60gを含む飲料を摂取する条件(テストの前日や前々日に摂取するものとしてはプラセボを支給)。
  • 条件2(Short条件):パフォーマンステストの2日前および1日前に、糖質200gを含む飲料を摂取する条件(テスト30分前に摂取するものとしてはプラセボを支給)。
  • 条件3(COMB条件):パフォーマンステストの2日前および1日前に糖質200gを含む飲料を摂取し、かつ、テスト試行30分前に糖質60gを含む飲料を摂取する条件(すべてのタイミングでプラセボは支給されない)。
  • 条件4(PLA条件):パフォーマンステストの2日前と1日前、および、テスト試行30分前に、糖質が含まれていないプラセボ飲料を摂取する条件(すべてのタイミングにプラセボを支給)。

呼吸交換比(RER)に有意差

パフォーマンステストには自転車エルゴメーターを用い、50%Wmax(平均139±26W)で60分間の負荷をかけた後、15分間の休憩をはさんで16.1kmのタイムトライアルを行った。

60分間の負荷中に測定されたVO2、心拍数、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)に、条件間の有意差は観察されなかった。ただし、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)については、Acute条件は負荷20分以降、PLA条件に比べて高値で推移した。またCOMB条件は60分間にわたりPLA条件に比べて高値で推移し、かつ20分まではShort条件との比較でも有意に高値だった。これは、事前に摂取した糖質がエネルギー基質として優先的に利用されたことを意味する。

タイムトライアルにも有意差

タイムトライアルの結果は、PLA条件と比較して、運動の直前に糖質の摂取を含むAcute条件およびCOMB条件という2条件では、所要時間が有意に短縮されていた。COMB条件ではさらに、Short条件との比較においても有意に短縮されていた。一方、前日までに糖質を摂取し直前には摂取しないShort条件では、PLA条件と有意差がみられなかった。

なお、ピークパワーに関しては、4条件間で有意差はなかった。

運動直前の糖質摂取は肝グリコーゲン温存、血糖低下抑止、中枢刺激を介して働く

以上の結果を基に著者らは以下のような考察を述べている。

まず、糖質を運動の直前に摂取した場合にパフォーマンス上のメリットがあり、前日までに摂取した場合にはメリットが認められないという差異については、直前の摂取により運動中の血糖低下が抑制されること、肝臓と骨格筋のグリコーゲンに対する影響が異なり、急性摂取により肝グリコーゲンが温存されることが関与している可能性があるとしている。また、糖質の洗口(マウスウォッシュ)のパフォーマンス向上効果が知られているように、直前の摂取は高次中枢を刺激することを介してメリットをもたらす可能性があるという。

結論としては、「長期にわたりケトジェニックダイエットを行っているアスリートであっても、運動の直前の糖質摂取が、持久力パフォーマンス向上に寄与し得る」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Strategic carbohydrate feeding improves performance in ketogenic trained athletes」。〔Clin Nutr. 2025 Jun 25:51:212-221〕 原文はこちら(Clinical Nutrition)

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8~17歳の小児・青年期アスリートの約8~9割が筋骨格系の痛みを自覚していて、「成長痛」との診断を受けている割合も、小児期では3割強、青年期では5割に及ぶという調査結果がスペインから報告された。この研究では、成長痛の一因の可能性のある食習慣についても調査しており、痛みのあるアスリートとないアスリートで、食習慣に有意な違いがみられたという。

アスリートの成長痛の実態を探る横断研究

成長痛は小児の反復性四肢痛の一般的な病態の一つであり、その有病率は調査対象により2.6~49.4%と広い範囲に分布している。成長痛の痛みは通常、夜間に増強し、朝には消退する。成長痛の原因はいまだ特定されていないが、成長ホルモンの分泌が夜間に亢進することが疼痛の日内変動に関与しているのではないか、骨の成長がインパルスを引き起こし夜間は外部刺激が少ないために疼痛が顕著になるのではないかといった説が提唱されている。また、ビタミンDの欠乏など栄養因子が関与する可能性も指摘されている。

一方、栄養に関しては、成長痛の有無にかかわらず、小児・青年期にはとくに重要であることは論をまたない。適切な栄養素の摂取につながる食事スタイルとして、海外では地中海式ダイエットが広く浸透している。地中海式ダイエットは、心血管代謝に対して保護的に働くだけでなく、カルシウムやビタミンD、良質なタンパク質の摂取にも適しており、近年、スポーツ栄養の領域でも評価されている。しかし、地中海式ダイエットと成長痛との関連はほとんど研究されていない。

これらを背景として、今回紹介する論文の研究では、小児・青年期アスリートの成長痛の有病率の推定、および、成長痛と地中海式ダイエットとの関連性の有無が検討された。

小児アスリートの78.5%、青年アスリートの93.5%が「疼痛あり」

調査対象は、スペイン国内の5カ所のスポーツクラブ/アカデミーに所属している8~17歳のアスリートであり、とくに除外条件は設けず、916人を対象とした。参加している競技はサッカーが最多であり、ハンドボール、バレーボール、水泳等が続いた。

疼痛に関しては、「ふだん、スポーツ中に怪我や転倒などをしていない場合でも、筋肉、関節、骨、または腱に痛みや不快感があるか?」、「とくに、夜間に原因不明の痛みを感じるか?」、「医師から成長痛と言われたことがあるか?」と三の質問を行い、いずれかに肯定的な回答した場合は「疼痛あり」と定義した。

解析は、小児(8~12歳)と青年(13~17歳)に分けて行われている。

小児アスリートの32.6%、青年アスリートの51.9%が「成長痛の診断歴あり」

小児アスリート(242人)は男児52.9%で、トレーニング時間は3.7±1.1時間/週、サプリメント利用率0%であり、「疼痛あり」の該当者率は78.5%と約8割だった。それにもかかわらず、鎮痛薬を使用している割合は9.5%にすぎなかった。成長痛の診断歴がある割合は32.6%だった。

一方、青年アスリート(674人)は男子51.0%で、トレーニング時間は7.2±1.2時間/週、サプリメント利用率7.7%であり、「疼痛あり」の該当者率は93.47%と9割を超えていた。それにもかかわらず、鎮痛薬を使用している割合は15.1%にすぎなかった。成長痛の診断歴がある割合は51.9%だった。

性別で比較すると、小児アスリートは「疼痛あり」の該当者率が、男児72.7%、女児85.1%で女児のほうが有意に高値だった。一方、青年アスリートは同順に94.2%、92.7%でほぼ同等だった。なお、成長痛の診断歴がある割合は、小児・青年ともに性別による有意差がなかった。

小児・青年アスリートの疼痛発現抑制のため、早期の栄養教育と予防介入が求められる

食事スタイルは、子どもの食習慣の地中海式ダイエットらしさを判定する16項目の質問票(KIDMED test)で評価した。KIDMED testは0~12点の範囲でスコア化され、8点以上は地中海式ダイエットの高い遵守、4~7点は中程度の遵守、3点以下は低い遵守と判定する。

小児アスリートは、高遵守が39.7%、中遵守が44.2%、低遵守が16.1%、青年アスリートは同順に45.1%、28.8%、26.1%であり、両群ともに中間的なスコアだった。より詳細に比較すると、小児は青年よりも果物と野菜を摂取している割合が高く、青年は健康的な脂質・炭水化物を摂取している割合が高かった。

痛みのあるアスリートとないアスリートでの食習慣の比較

次に、疼痛の有無別に地中海式ダイエットの遵守状況を比較した結果をみると、低遵守グループでは、疼痛なし群とあり群の割合に有意差はなかった(27.1 vs 23.0%)。しかし、中遵守グループでは、疼痛なし群は38.5%を占め、疼痛あり群は32.2%であり、疼痛なし群が有意に多く分布していた(p<0.05)。一方、高遵守グループでは、疼痛なし群は34.4%を占め、疼痛あり群は44.8%であり、疼痛あり群が有意に多く分布していた(p<0.0001)。<>

また、健康的な脂質を摂取している割合は、疼痛なし群が66.7%、疼痛あり群が78.8%だった(p<0.0001)。しかし、非健康的とされる食品を摂取している割合は、疼痛なし群が35.4%であるのに対して、疼痛あり群は49.3%と有意に高かった(p<0.0001)。<>

著者らは本研究について、小児に関しては保護者のサポートを受けて回答したケースが多いと考えられ、回答内容にバイアスがかかっている可能性があること、アンケートの結果のみの解析であり食事記録や臨床データは評価していないことなどの限界があるとしている。

そのうえで、「結論として本研究は、若年アスリートにおける筋骨格痛の有病率の高さを明らかにし、栄養面などの改善可能な因子へ対処する必要性を強調している。運動能力の高い若年者において、筋骨格系の健康の増進と回復の促進、および疼痛発生率を低減するために、早期の栄養教育と予防戦略が重要である」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Growing Pains and Dietary Habits in Young Athletes: A Cross-Sectional Survey」。〔Nutrients. 2025 Jul 21;17(14):2384〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部

0.0001)。しかし、非健康的とされる食品を摂取している割合は、疼痛なし群が35.4%であるのに対して、疼痛あり群は49.3%と有意に高かった(p<0.0001)。<>0.05)。一方、高遵守グループでは、疼痛なし群は34.4%を占め、疼痛あり群は44.8%であり、疼痛あり群が有意に多く分布していた(p<0.0001)。<>

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