アングル:トランプ関税50%でGDPの1割が危機、アフリカ小国が非常事態宣言

[マセル 9日 ロイター] - 南アフリカの小国レソトの縫製工場で12年間働いてきたリムフォ・レファラツァさん(29)は、トランプ米大統領がレソトからの輸出品に厳しい関税を課す決定を下したことで職を失った。

「正気を失うかと思った。全く理解できなかった」。首都マセルの自宅で彼女はそう語った。真実を受け入れ始めた時、絶望感に襲われたという。

レファラツァさんの月給は約3000南ア・ランド(約2万4300円)で、12歳の娘を学校に通わせ、高齢の祖母の血圧の薬代も支払ってきた。しかし、収入は無くなった。依然として理由は理解できないが、苦境に立たされているのは彼女だけではない。

トランプ大統領は今年4月、米国のほぼ全ての貿易相手国に対する輸入関税を発表。南部アフリカの山岳国家レソトは最高税率50%を適用された。トランプ氏が「誰も聞いたことのない国」と侮辱したレソトの当局者は困惑した。米国はそれまで、貧困にあえぐアフリカ諸国の経済発展を貿易で支援する政策を掲げており、レソトはその代表的な対象国だったからだ。

トランプ政権は、レソトが米国製品に99%の関税を課していると主張し、今回の措置は相互に対等なものだと説明する。しかし、レソト当局はその数字の根拠が分からないと反論した。

米国務省はコメントの要請に即座に応じなかった。

レソトの繊維産業は、米国のアフリカ成長機会法(AGOA)に大きく依存している。AGOAは、一定の条件を満たすアフリカ諸国に対し、米国市場への無関税アクセスを認める米国の貿易政策だ。レソトはAGOAによる優遇関税措置を背景に繊維産業を発展させ、オックスフォード・エコノミクスによれば約4万人の雇用を生み出し、製造業輸出の約90%を占める同国最大の民間雇用セクターへと成長させた。

リーバイス(LEVI.N), opens new tabやラングラーなどのジーンズを含め、AGOA経由で米国に輸出される繊維製品は、主に女性労働者によって生産され、レソトの国内総生産(GDP)20億ドル(約2900億円)の1割を占める。しかし、この輸出が今、消滅の危機に瀕している。

 南アフリカの小国レソトの縫製工場で12年間働いてきたリムフォ・レファラツァさん(29)は、トランプ米大統領がレソトからの輸出品に厳しい関税を課す決定を下したことで職を失った。写真は米国市場向けの衣料品を生産するアフリ・エクスポ社の繊維工場。7月9日、マセル郊外で撮影(2025年 ロイター/Siyabonga Sishi)

レソト政府は今週、関税をめぐる不確実性に起因する「高い若年失業率と雇用喪失」による混乱を理由に、国家非常事態を宣言した。

<注文はキャンセル、大量解雇に>

輸出向けジーンズを生産する会社アフリ・エクスポの経営者、テボホ・コベリさんは、工場の無人のミシンの列を指し、「誰もいないだろう」と嘆く。トランプ大統領は、関税発表の数日後、貿易相手国に交渉の猶予を与えるため適用を3カ月延期したが、レソトでは深刻な影響が生じた。

関税率が50%と見込まれたことで、米国の輸入業者の多くがレソトへの注文をキャンセルし、業界全体で大量解雇が発生。残る注文も採算割れのリスクをかかえる状況だ。

独立系の政治経済アナリスト、レフ・タエラ氏は、「企業は、対応能力を超えるコスト増を警戒し、追加の受注に二の足を踏んでいる」と指摘した。

90日間の関税適用猶予は9日が期限だったが、米政府は、レソトからの輸入品に対する最終的な関税をまだ発表していない。米国向け輸出の生産ラインで200人を解雇したコベリさんのような工場経営者は、最悪の事態を懸念している。

コベリさんは、「高関税が続くなら、米国向け生産は諦め、できるだけ早く他の市場を探すしかない」と語る。レソト貿易省の広報担当者は、トランプ政権から公式な通知が届くまでコメントを控えるとした。

解雇された縫製労働者のンテボヘレング・フラパネさん(37)らはトランプ大統領に伝えたいことがある。「神がトランプ大統領を導かれんことを」と訴える彼女は、息子の喘息治療に必要な吸入薬を買えなくなった。

「他の人たちのことも考えてほしい。あなたの利己的で残酷な行動のせいで、多くの人が苦しんでいる」

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