オランダ、中国企業子会社の半導体メーカー接収-緊急事態条項を活用

オランダ政府は、同国を拠点とするが中国企業の傘下にある半導体メーカー、ネクスペリアを接収した。欧州がネクスペリアの技術への自由なアクセスを確実に維持できるよう冷戦時代の緊急事態条項を活用したが、中国政府の報復を招く恐れがある。

  ネクスペリアは自動車や家電業界向け半導体成熟品で主要なサプライヤー。中国の電子通信機器メーカー、聞泰科技(ウィングテック・テクノロジー)が保有している。

  だが、オランダの裁判所が9月30日付で、非常時に重要な物資へのアクセスを確保するため定められた物資利用法を発動したことを受け、政府は今回の措置をとった。物資利用法の一部は70年余り前の冷戦時代に制定された。

  オランダ政府は12日遅くに発表した声明で、「ネクスペリアの製品が非常時に利用できなくなる事態を防ぐための決定だ」と接収について説明した。声明では触れていないものの、中国と米国およびその同盟国との間で、貿易摩擦が強まっていることも背景にありそうだ。

  米国は9月、ブラックリスト掲載企業の子会社にも制裁を科し、重要産業における中国系企業に対する締め付けを強めていた。一方、中国は先週、レアアース(希土類)に関する輸出規制を強化した。

  ウィングテックはオランダの対応を過剰で、地政学的な偏見に基づいていると非難。「中国企業を標的にした差別的な扱いに、強く抗議する」と中国のソーシャルメディア、微信(ウィーチャット)に13日発表文を掲載。オランダ政府に決定を取り消すよう求める一方で、あらゆる法的・外交的手段に既に着手したと明らかにした。

  ウィングテックは米アップルなどの電子機器メーカーに部品を供給しているが、昨年12月に当時のバイデン政権によって事実上の禁輸リストである「エンティティーリスト」に加えられた。

  オランダ政府の接収を受け、ウィングテック株価は13日の上海市場で値幅制限下限の10%安に沈んだ。

報復  

  中国は報復する可能性が高いと、オランダのクリンゲンダール研究所の研究員、アレクサンドレ・フェレイラゴメス氏は予想した。「中国で事業を行うオランダ企業だけでなく、欧州の半導体業界全般を標的にすると考えるのが妥当だろう」と述べた。

  世界最先端の半導体を製造する装置を手がけるオランダのASMLホールディングは中国のレアアース輸出規制で既に、生産に支障が生じる事態に身構えていると、ブルームバーグは先週、事情に詳しい関係者の話として報じた。

関連記事:米中対立再燃で半導体供給網に一段の不透明感-企業は混乱に備え

  非公表の情報だとして匿名を要請した関係者によると、オランダ経済省はネクスペリアの欧州事業が中国の利益のために損なわれる可能性や、同社の最高経営責任者(CEO)が社にとって不利益な決定を下す可能性を懸念した。

  オランダ経済省の広報担当者はコメントを控えた。

  欧州で国家安全保障を理由に政府が中国企業の国外子会社を接収した前例はほとんどない。米国では中国の字節跳動(バイトダンス)に対し、同社傘下の動画投稿アプリ「TikTok」の米国事業を閉鎖するか売却するかの二者択一を迫ったことがある。だが、それでも政府による企業接収には至らなかった。

  ネクスペリアの張学政CEOはウィングテックの創業者で、一族で同社株の15.4%を保有する。ウィングテックによると、張氏は13日のうちにネクスペリアから職務停止処分を受けた。

原題:Dutch Seize Chinese-Owned Chipmaker in First Use of 1952 Law(抜粋)

— 取材協力 Sarah Jacob, Jessica Sui, John Liu, Dasha Afanasieva, Patrick Van Oosterom and Philip Glamann

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