機能不全におちいった監査 ニデック不正会計 「永守氏からプレッシャー」情報共有されず

ニデック創業者の永守重信氏。業績目標達成への過度なプレッシャーが不正の原因と指摘されている

モーター大手ニデックの不正会計問題で、株主による損害賠償請求訴訟に向けた動きが出始めるなど、創業者の永守重信氏ら経営陣の責任を問う声が高まっている。今月3日に公表された外部の専門家で構成する第三者委員会による調査報告書によると、会社側は外部の会計監査法人を「説得しやすい相手」とみて情報を隠蔽(いんぺい)し、不正を見抜くはずの監査が機能不全におちいっていた。

山崎・丸の内法律事務所(東京)には、不正などを背景にニデックの株価が下落傾向にあることについて、同社の約30人の個人株主から相談が寄せられている。通常は100人以上、被害額も数億円規模で訴訟に入るケースが多いという。

同事務所の弁護士は「今後さらに株主が集まり、(第三者委の)最終報告書や東京証券取引所の処分動向を踏まえて民事訴訟でも勝ち目があると判断できれば提訴を検討する」と説明する。

永守氏による業績目標達成への過度なプレッシャーが不正の背景にあると報告書で指摘されたことを踏まえ、「ワンマン企業で無理な目標が現場に降りる典型例だが、この規模の会社で起きた点は重い」と語る。

削除された子会社の訴え

なぜ不正が見逃されたのか。企業の監査は内部監査部門、外部の会計監査法人、社外取締役を含む監査等委員(または監査役)の3者が担うのが基本だ。

報告書によると、内部監査部門は永守氏ら本社からの業績目標達成への強いプレッシャーが不正の原因と考えていたが、「永守氏の経営スタイルに切り込むことはあえて回避」。関係者へのヒアリングでは子会社の幹部がプレッシャーを訴えていたが、議事録からその部分を削除していた。

一方、永守氏は直接登用した従業員に独自に不正を調査させ、「特命監査」と呼ばれていた。この監査では、大きく営業利益を落とさないように複数期にわたり不正を処理するよう指導するなどしていた。しかも、監査の内容は内部監査部門や会計監査法人に共有されず、永守氏や経営幹部にのみ報告されていた。

さらに報告書は、ニデックの役員が会計監査を依頼していたPwC京都監査法人(現PwC Japan有限責任監査法人)を「説得しやすい相手」「くみしやすい相手」と捉えていた証拠が多く見つかったと記載。会計監査人に「不正確な情報」を与え、都合の良い意見を引き出そうとする様子が「至るところで観察された」とした。

監査法人の側も、議事録でニデック本社から子会社へのプレッシャーをうかがわせる記述に気付いたが、本社の関与がなかったように修正していた。その結果、内部監査部門から報告を受けた社外の監査等委員らで「プレッシャーの存在が不正を引き起こす原因であると認識していた者はいない」という状況だった。

会社から報酬、実効性に限界

この過程で特に問題なのが、会計監査法人が外部の目で不正を発見する役割を果たさなかった点だ。企業統治などの問題に詳しい牛島信弁護士は「監査法人に厳格な役割を求めるのは当然だが、会社から報酬を受ける立場にある以上、企業に逆らいにくい構図が制度的にある」と指摘する。情報を握る会社側が不都合な事実を出さなければ監査の実効性には限界があるのが実情だ。

こうした問題は、ニデックに限った話ではない。東芝の不正会計では、金融庁が15年、監査を担った新日本有限責任監査法人に対し、新規契約業務の3カ月停止と業務改善命令を出した。虚偽のある財務書類を見抜けなかったことを「相当の注意を怠った」と認定された結果だ。

東芝の例では、同じ監査法人との契約が47年続いていたことも関係が固定化する要因の一つとされた。この事案を契機に、金融庁が監査法人の独立性の確保などを求める「ガバナンス・コード」の策定に動いたのも、会計監査の信頼性そのものが問われたためだ。

現在、金融庁は上場企業向けのコーポレートガバナンス・コードの見直しも進めている。社外取締役を含む取締役会の監視機能をいかに強化するかが検討課題となっている。

牛島氏は「取締役会の下に社長から独立したコーポレートセクレタリー(取締役会事務局)を置き、不都合な情報を隠蔽しづらくすることが再発防止につながる」としている。(桑島浩任)

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