「とがった灘高生」に共通する特徴とは 科学オリンピックで実績、世界の舞台でも入賞相次ぐ

 灘高校。神戸市東部の住宅街に学びやを構え、全国屈指の大学進学実績で知られるこの名門で近年、別の実績も伸びているという。高校生以下の世代が、自然科学の幅広い分野の知識や応用力を問う「科学オリンピック」だ。各大会の成績一覧表を見れば一目瞭然、国内大会にとどまらず、世界の舞台でも入賞者が相次ぐ。そんな彼らには、共通する一つの特長があるという。

(船田翔太)

 「日本地学オリンピック」は金賞9人、銀賞7人、銅賞12人。「日本数学オリンピック」は金賞3人、銅賞4人、特別賞13人。「化学グランプリ」は金賞3人、銀賞5人、銅賞6人、特別賞3人-。

 これらのデータは、2022~24年度の3年間に開催された国内の科学オリンピックで、灘高生が挙げた成績のごく一部だ。

 各分野の俊英が全国から集う中で、上位入賞者を次々に輩出。さらに、世界大会でも結果を残しており、情報オリンピックに至っては、金賞の入賞者が、日本大会よりも国際大会の方が多いくらいだ。

全国屈指の大学進学実績を誇る「灘」。科学オリンピックでも生徒の活躍が目立つ=灘中学・高校

 久下正史教頭(50)によると、灘高生が科学オリンピックを本格的に意識するようになったのは2000年代に入ってから。理系のクラブ活動を中心に参加者が広がっていったという。

 国内の大会で優秀な成績を残し、日本代表として国際大会に進む生徒も現れた。彼らの活躍に刺激を受けた同級生や後輩が、クラブ活動の枠にとらわれずに挑戦するようになる。

 このサイクルが、近年の実績に表れているといい、2022~24年度の3年間で、灘高生の入賞者は国内大会で延べ141人、国際大会で39人にまで伸びた。このほか、国内大会では、併設の灘中学校の生徒も、一世代下ながら化学グランプリの金賞を含む9人が入賞。久下教頭は「生徒にとって大会が身近になり、参加のハードルが下がっている」とみる。

 さらに、地理学や言語学の国内大会が創設されたことも大きいらしい。日本の受験制度では文系寄りの科目であり、理系でなくても挑みやすくなったという。

 中には、複数の大会で日本代表に選ばれる生徒も出てきた。

 その一人が、堺市から通学する3年生の井上遥斗さん(17)。昨年8月の「国際地学オリンピック」で銀賞を獲得し、今年7月には「国際地理オリンピック」に挑む。

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 「調べたいことに突っ込む力がとても強い。興味のある分野を自力で掘り下げていく力もある」

 灘中時代から担任を務めて6年目になる中村義則教諭(50)の井上さん評だ。2人には、気象予報士の資格を持つという共通点がある。

 授業が始まる前、朝の職員室。井上さんは、中村教諭のもとを訪ねて梅雨明けのタイミングやエルニーニョ現象などの話題で盛り上がる。天気図や過去の気象事例を出し合い、互いの仮説をぶつけ合う。これが、2人の日常という。

 井上さんは、幼い頃からニュースの天気予報を見るのが好きだった。「画面に出てくる予想天気図が、実際にどのような現象として表れるのか、想像するのが楽しくて」と理由を説明する。

 中学3年で気象予報士の資格も取得。高校1年の冬、気象の分野が含まれる「日本地学オリンピック」に挑戦したのも自然な流れだった。

 約2千人の中から上位4人に入り、最上位の「金賞」を獲得。さらに日本代表にも選ばれ、臨んだ昨年8月の「国際地学オリンピック」では銀賞を獲得した。

 井上さんの挑戦は、終わらなかった。

地学、地理の2分野で科学オリンピック日本代表に選ばれた井上遥斗さん(左)と担任の中村義則教諭=灘高校

 快挙から4カ月ほどたった昨年12月、今度は「科学地理オリンピック日本選手権」に出場する。地図や統計データを読み解くのが好きだから-という動機だった。

 最終試験は、土地勘のない地域の課題と解決策をまとめるフィールドワーク。地形を読み解き、道行く人の姿から特徴を捉えて商業地や農地、緑地を色分けして地図を仕上げた。さらに、人流の傾向と組み合わせて災害発生時の避難経路に言及した。

 日本地学オリンピックと同様、参加者約1400人の上位4人に入り、金賞を獲得。2分野目の日本代表にも選ばれ、7月、タイ・バンコクで行われる世界大会への出場を決めた。

数学に哲学、経済学…。井上遥斗さんの興味はとどまらない=灘高校

 井上さんの興味は、実績を残した地学と地理学にとどまらない。

 例えば、数学。初めて触れた生徒がつまずきがちで、教師の側もどう説明したらいいか悩む単元について、井上さんは自分で考えた新しい教え方を提案してくる。

 心理学や哲学などの専門書も読み込む。一人で納得するだけでなく、興味を引けば「面白いことが書いてある」と職員室に駆け込んでくる。

 こういった知的好奇心が、学びを深める源泉になっていると井上さんは自己分析する。「学問の常識や予想に反した一見奇抜にも見える事象を理解できたり、研究でもまだ分かっていないことに出合えたりしたときに心が動くんです」

生徒の憩いの場となっている中庭。白い校舎に植栽の緑が映える=灘中学・高校

 理系のクラスに在籍する井上さんだが、大学での進路や研究分野は、まだ具体的に決めていない。むしろ、一つに絞るつもりもないという。

 最近の関心は、経済学だ。ニュースを見ていると、同じトピックであっても、学者や専門家の意見が分かれるのが不思議だといい、「何が事実なのか」を調べてみたいという。

 受験勉強における文系、理系の区分や学問のジャンルといった“縦割り”にとらわれず、興味の赴くままに探求を深めていく。科学オリンピックで実績を挙げる井上さんのような生徒について、中村教諭は「とがった灘高生に共通する姿勢」と表する。

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