火星で「生命の起源」分子発見。NASAのキュリオシティが新手法

Image: NASA/JPL-CALTECH/MSSS|自撮りするキュリオシティ

火星では初見の有機分子も。

NASAの火星探査機・キュリオシティは、35億年ほど前に形成されたゲール・クレーター中央のシャープ山をゆっくりと登りながら、13年以上活動してきました。ゲール・クレーターは古代には湖だった可能性が示唆されていますが、水があったということは、つまりそこに生命も存在していた可能性があります。

4月21日発行の学術誌「Nature Communications」に掲載された論文によると、火星に生命体が存在したという説を裏付ける新たな証拠が見つかったようです。地球以外の惑星では初めて行なわれる手法により、粘土に富んだ火星の岩石から20種類以上の有機分子が検知され、そのうち7種類は火星で初となる発見だったのです。

火星はずっと不毛の地だったわけじゃないのでは?という説は今までもいろいろな証拠から裏付けられており、今回の発見でその仮説がさらに強化されます。新たに検知された分子は、地球における生命体の原材料だった可能性が考えられているものと同じものだったのです。つまり、火星でも同様の化学反応が起きていれば、生命が誕生しえたのでは?となります。

「我々は火星にどんな物質が存在ありえたのかというレシピと、それが生命体作りの正しいレシピだったのかどうか、より多くを学びつつあります」上記論文主著者の宇宙生物学者・地球生物学者で、フロリダ大学准教授のエイミー・ウィリアムズ氏は、米Gizmodoに対しこう語りました。「我々にはまだわかっていませんが、この種のデータを使うことで、そうしたストーリーを構築しています。」

古代火星での有機物形成を探る

Image: JPL-Caltech/MSSS2019年、粘土が豊富な地域から有機分子を含むサンプルを採取した際のキュリオシティによるモザイク画像

ウィリアムズ氏らは軌道衛星のデータを元に、シャープ山の一部には粘土質の鉱物が存在することを発見しました。このことで、有機分子を探す場所の特定が容易になりました。粘土は、有機物質に結びつきやすい荷電を帯びた粒子でできているからです。

この実験を行なうために、十分な量の粘土鉱物を採取できる場所を発見することを目指しました。我々がキュリオシティで実験できるチャンスは2回しかなかったので、可能な限り正しい場所を見つけたかったのです。

とウィリアムズ氏。

ウィリアムズ氏らの実験手法は、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH) を使い、キュリオシティが集めた岩石内部のより複雑な有機分子を分解するというものでした。この手法は、今までキュリオシティが行なってきた地質分析とは違います。

通常の実験では、キュリオシティは岩にドリルで穴を開け、発生する細かい岩の粒子をカップに入れて、気化するまで加熱する「発生ガス分析」という手法でした。この方法では、サンプルが気化する温度にもとづいて、そのサンプルがどんな物質かを特定できます。

一方TMAHのメリットは、キュリオシティの分析装置で検知できないような、大きく複雑な分子を分解可能であることです。ただし、キュリオシティが搭載するTMAHは実験2回分しかなく、分析できるサンプル量も極めて限られるので、ここぞという分析対象地点を厳選する必要がありました。今回の調査では、ゲールクレーターのグレン・トリドン地帯の一角が対象となりました。

幸い実験は成功し、黎明期の太陽系の星間物質に由来する可能性が高いとされるベンゾチオフェンなど、21種類もの分子を検知できました。火星でベンゾチオフェンの存在を確認できたのは、今回が史上初めてです。ベンゾチオフェンは小惑星が各惑星に運び込んだとされており、地球に生命の起源となる分子が到達したのも小惑星によるものだった可能性が高いと言われています。

Image: NASA/JPL-Caltech/MSSSキュリオシティが3つのサンプルを採取した、ゲール・クレーターのグレン・トリドン地域

キュリオシティはまた、DNAの作成に使われる前駆体分子のひとつ、インドールに似た窒素を含む分子も検知しました。こちらについてウィリアムズ氏らも断言はしていませんが、興味深い発見には違いありません。

私たちはDNAも、核酸塩基も発見していませんが、こうした窒素複素環化合物を火星で発見するのは初めてです。このような(前駆的な)生命の材料を見ることができたのは、非常に興味深いことです。

とウィリアムズ氏は言います。

地球外生命体にますます迫る

ベンゾチオフェンのような有機分子が火星上で見つかったなら、火星人発見も近い?とつい浮き足立ってしまいます。が、そこに生命体が存在したことがあるかどうかを実際に確認するためには、さらなる検証が不可欠です。

「地球外生命体の検知を本当に確信するためには、その解釈を支持するような証拠群が大量に必要となります」とウィリアムズ氏。

たとえば火星の地質サンプルを地球に持ち帰ることで、探査機上でできないような高度な分析も可能になり、有機分子の真の性質や由来の確認につながると考えられます。NASAの以前の計画では、探査機・パーサヴィアランスの採取するサンプルを2030年代に地球に持ち帰ることになっていましたが、計画遅延とコスト超過で実質的にミッション中止となってしまいました。

でもウィリアムズ氏のチームでは、キュリオシティのデータ分析だけでもまだまだ発見ができそうです。またTMAH分析手法の有用性が確認されたことで、欧州宇宙機関(ESA)が開発する火星探査機・ロザリンド・フランクリンや、NASAが土星の衛星・タイタンに打ち上げる探査機・ドラゴンフライなど、今後の他のミッションでもこの手法が活躍することでしょう。

「この最初の実験ができてとてもうれしく、今後の数々の素晴らしい発見の土台になっていければと思います」とウィリアムズ氏。

これからどんな次世代の機器や実験によって、この惑星たちの歴史をさらに掘り下げていけるのか、誰にもわからないのです。

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