広陵高校の暴力事案、学校や指導者に問われる法的責任は?「処分が甘い」の声あいつぐ
夏の全国高校野球選手権に出場する広陵高校(広島)の硬式野球部で、部内暴力の事案が明らかになり、波紋が広がっている。
報道によると、今年1月、当時1年生だった野球部員が複数の2年生部員から暴行を受けたという。
この件をめぐっては、日本高野連が3月、同校に対して「厳重注意」の処分を下しており、学校側は大会出場を継続する方針を示している。
一方で、被害生徒がその後に転校していたことなどから、SNS上では「処分が甘い」「説明責任が果たされていない」などと批判が噴出。広陵高校の出場辞退を求める声も広がっている。
部活動内での暴力行為に対して、学校や指導者にはどのような法的責任が問われるのか。学校問題にくわしい高島惇弁護士に聞いた。
●中高では強い管理監督義務が求められる
─一般論として、部活動でいじめや暴力が発生した場合、教員や監督・顧問にはどのような責任が問われるのでしょうか。
部活動において、生徒間でいじめや暴力が起きた場合、仮に顧問や監督がその事実を把握しながら適切な対応を怠れば、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。
大学の事例ですが、応援団の夏期合宿中に、上級生から「気合入れ」と称して暴行を受けた学生が死亡した事件で、最高裁は大学の不作為による不法行為責任を認めています(最高裁判例平成4年10月6日)。
この判決では、大学執行部や教授会が、応援団に対して暴力行為を中止するよう強く指導し、それでも改善が見られない場合には、部室の使用停止や学内施設の利用禁止、さらには幹部学生に対する懲戒処分(停学・退学)といった具体的措置を講じる義務があったにもかかわらず、それを怠ったと判断されました。
これは形式上「不作為の不法行為責任」とされつつも、安全配慮義務違反の成立を否定する趣旨ではなく、むしろ中学・高校のように生徒の自主性がより制限される環境では、大学以上に厳格な管理監督義務が求められ、安全配慮義務違反が認定されやすいと考えられます。
●保護者に対する適切な報告をしなければ「義務違反」に
──いじめや暴力が明らかになった際、学校側にはどのような法的責任があるのでしょうか。教育委員会や保護者に対する対応も教えてください。
損害賠償責任とは別に「いじめ防止対策推進法」や各自治体のいじめ防止条例に基づき、学校には、実態調査や再発防止措置を講じる法的義務があります。
また、被害生徒および保護者への調査報告も義務付けられており、これを怠れば「報告義務違反」に問われる可能性もあります。
●転校費用も「損害」として請求可能
──被害者が転校を余儀なくされた場合、学校側に損害賠償請求が認められる可能性はあるのでしょうか
転校に伴う引越し費用や制服代などの実費は、慰謝料とは別に「損害」として請求することも理論上可能です。
類似の例として、退学処分の違法性が争われた裁判で、無駄になった入学金や授業料が認められた下級審判例(東京地裁判例平成26年3月28日)もあります。
ただし、いじめ事案では、PTSDなど精神疾患を発症していることが多く、主たる争点は、その因果関係や慰謝料の算定となる傾向にあります。そのため、転校に伴う実費的損害が争点の中心になるケースは比較的少ない印象です。
●黙認・放置すれば顧問の法的責任「免れない」
─再発防止に向けて、部活動や学校運営のあり方について具体的な改善策があれば教えてください
文部科学省の「運動部活動での指導のガイドライン」では、指導者の責務として、以下のように明記されています。
「指導者は、生徒のリーダー的な資質・能力の育成とともに、協調性・責任感の涵養(かんよう)等、望ましい人間関係や人権感覚の育成、生徒への目配り等により、上級生による暴力行為やいじめ等の発生の防止を含めた適切な集団づくりに留意することが必要です」
これまで、部活動に関連する訴訟では、顧問による体罰が主な争点となることが多かったものの、生徒間のいじめや暴力でも、顧問の監督責任が法的に問われることは明らかです。
黙認や放置があれば、当然ながら法的責任を免れることはできません。
もちろん、部活動内の暴力を完全に排除する明確な解決策は存在しません。しかし、仮に勝利至上主義や、上下関係を過度に重視する「特殊な空気」が醸成されているのであれば、まずは学校や関係者がその問題性を認識し、改善に向けた意思を持つことが出発点となります。
閉鎖的な部活動の環境で起きうるトラブルを未然に防ぐためにも、そのような意識と取り組みが、長期的に重要な意味を持つはずです。
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